女神との再遭遇
2話で出ていた則之の口調を修正致しました。
申し訳ありません。
ホームルームが終わり放課後になると、クラスのあちこちで話し声が聞こえてくる。
祐介の周りも例外はなく、小学校の頃から仲のいいメンバー5人が集まってたわいもない話を繰り広げていた。
「そろそろ正体を吐いたらどう? 少しは気が楽になると思うわよ」
「だから、俺は神山祐介だって言ってるだろうが」
先程から祐介を覗く4人は、『この男は本当に神山祐介なのか?』という話題で盛り上がっていた。
入学式での睡眠の話から端を発し、一度座ったはずのクラスの席を忘れていること、そして何より今までの祐介ではありえない流暢な自己紹介である。
昔の祐介は人見知りが激しく、人の前で自己紹介するなど到底できるような性格ではなかった。
それがあそこまで普通に話せることが、莉奈達4人にとっては意外だったらしい。
「でも、本当に不思議ですよね。まるで人が変わったようです」
「もしかしてさ、あんた未来人だったりして?」
右手をあごに当てて考え込む、則之と楽しそうに笑う赤髪の少女。
赤髪の少女が言っていることは殆どあたっていることなので、祐介も苦笑いをするしかない。
「恵梨香もそういうことを言わない。祐介も中学生になって成長してるって事でしょ」
「そうだよな。昔からいい女が男を成長させるっていうし」
「恵梨香」
いやらしい笑みを浮かべながら恵梨香と呼ばれた少女は祐介と莉奈の両者を交互に見る。
元々黛恵梨香という人物はこのようなゴシップネタも非常に好きなため、わざとらしい演技を2人に向かってしていた。
その様子は彼女がオーバーリアクションを取っていることからも見て取れる。
「さっきだって、自己紹介中だってのに2人の世界に入り込んでいてさ。あ~~春なのにこんなに暑いのは夏が近いからかなぁ~~」
白々しい恵梨香に対して、それを受けた莉奈の顔は真っ赤になっている。
目には少し涙を浮かべており、体が小刻みに揺れていることも隣に座っている祐介からは見て取れた。
「恵梨香言いすぎだぞ。莉奈が可哀想だ」
突然ボソッと、それでいてはっきり聞こえるように話をする背の高い少年は三枝吹雪である。
その立ち振る舞いは江戸時代にいたと称される武士のようなたたずまいをしていた。
「だってさぁ、じれったいんだもん」
「そういってやるな。当人同士の問題である以上、部外者は暖かく見守るのがルールだ」
「ちぇっ」
恵梨香は頭の後ろに両手を組み、つまらなそうにこちらを見ていた。
「まぁ、この際祐介のことは置いておきましょう。それよりも今はこの5人が一緒になってよかったです」
「そうだよな。こんな偶然ってあるもんなんだな」
祐介は転生前もこの5人が同じクラスになっていたことを知っていたので、実際はあまり驚きはない。
それよりも祐介の関心は窓際で、クラス中の男女に質問攻めにあっている金髪の少女にあった。
現在も、窓際に座る女神の席には人がごった返しており彼女の姿は祐介達からは見えない。
時折丁寧な声が聞こえてくることから察するに、どうやら1人1人の質問に答えているようだった。
「姫神さんってすごいよね」
「あのルックスは反則だわ。だってあたしより全然手足も長いし胸も大きいんだもん」
「また恵梨香はそういうことを言って、後であの女子から反感を買っても知りませんよ」
「ねぇ、祐介はどう思う?」
「そうだなぁ‥‥」
祐介は返答に困ってしまう。
実際の所見た目は最高級でも中身はポンコツだということを肌で感じている祐介にとってはいかんせん表現し辛い存在ではある。
返答をしようとするが、祐介が莉奈の問いに答えることはなかった。
ガタッという椅子が動く音と同時に5人が噂をしていた美少女が立ち上がったからである。
「立ち上がりましたね。僕の気のせいじゃなければこちらを向いているように思うのですが?」
「奇遇だな。俺もそう思う」
「ちょっと待って。あの美少女、こっちに向かってくるぞ」
恵梨香は慌てているが姫神、女神はこちらをロックオンすると周りの生徒達に挨拶をしてこちらに向かってくる。
そして俺達の前で静止をすると祐介と会ったときと同じ柔和な笑みを浮かべる。
その笑顔は神話に出てくる女神そのものだった。
「ご挨拶がまだだと思いましたので。姫神ララっていいます。気軽に『女神ちゃん』と呼んで下さい」
そういい一礼する様はどこぞの会社の令嬢を思わせるほどの気品がある。
見た目からは人の嘆きや怒りが楽しみだったとうれしそうに語る姿はどこにも見受けられない。
祐介を含めて全員が彼女の美しさに我を忘れ固まっていた。
「そっ、そうね、宜しく。私は九条莉奈っていうの。気軽に莉奈って呼んでいいから」
いち早く覚醒したり莉奈が慌てて、自己紹介を済ます。
莉奈の自己紹介をきっかけに祐介や則之達も徐々に我に返っていく。
「あたしは黛恵梨香。私もララって呼ぶから気軽に恵梨香って呼んでくれ」
「それでは恵梨香、私は『女神ちゃん』がいいのでそう呼んで下さい」
女神は微笑んだまま恵梨香にそう告げる。
彼女が『女神ちゃん』という名称に拘る理由が、祐介には分からなかった。
「僕は日笠則之といいます。これから宜しくお願いします、女神ちゃん」
「はい、則之さん。宜しくお願いします」
「三枝吹雪だ。めっ、女神ちゃ‥‥‥‥やはり無理だ。女神さんでもいいか?」
「女神ちゃんです」
「女神さんじゃ「女神ちゃんです」」
「‥‥‥‥‥女神‥‥ちゃん‥‥宜しく」
「はい、宜しくお願いします」」
女神のことを『女神ちゃん』と呼ぶ吹雪は顔が真っ赤になっている。
祐介達にとっては彼がそんな表情を見せるのは珍しかった。
4人が4人とも異なる自己紹介で女神と自己紹介をしていく。
そして最後に残ったのは祐介だった。
正直祐介はこの女神が何を考えているのか全く読めない。
現に今も彼女の笑顔の裏にはとんでもない爆弾があるのではないかとかんぐっている。
「俺は神山祐介だ。改めて宜しく」
「はい‥‥‥‥」
ここまでの会話は先程の他の人の自己紹介と全く同じ。
そのことで祐介はこのなんちゃって女神に対して完全に油断をしていた。
この後女神が爆弾を投下するとは夢にも思わない祐介である。
「‥‥‥‥莉奈さんの彼氏である祐介さんですね。宜しくお願いします」
唐突な女神の爆弾発言にグループ内に緊張が走る。
興味津々の恵梨香に、おどおどする則之と無関心を決め込む吹雪、3者3様の対応をそれぞれ見せる。
名指しされた張本人である莉奈は顔を真っ赤に染め、口をパクパクと動かしている。
さらに女神が『莉奈の彼氏』という所を強調したことで、莉奈の混乱は頂点に達しようとしていた。
「わっ、私は、祐介とは‥‥べつにっ‥‥そんなんじゃないから」
「そうでしょうか? 先程のホームルームで2人が仲むつまじく話していらっしゃったので、てっきりお付き合いなされているのかと‥‥‥‥」
「おぉ~~女神ちゃんはお目が高い。私もこの2人の関係がじれったくてみてられないんだよな~~」
「恵梨香、お前は少し黙れ。俺と莉奈は幼馴染で‥‥お前が思っているその‥‥そういう関係ではない」
女神はその後「そうですか‥‥申し訳ありません」と謝るがどことなく誠意が感じられない。
それどころか祐介の方を睨むような仕草を見せる。
「悪い。ちょっとこの‥‥‥‥女神‥‥ちゃんを借りる」
そういい残すと祐介は女神引きずり、人気のない廊下まで連れて行く。
誰もいないことを確認すると祐介は不思議そうにこちらを見る女神を問い詰める。
「どういうことだ? それにお前は本当に女神なのか?」
「‥‥‥‥」
「おい」
「‥‥‥‥」
祐介の方を見る女神はなにやら不満そうな顔をしていた。
何が言いたいのか祐介は感づいていたが、それをこのだだっこ女神に言いたくない。
しかし、言わないと話が進む気配がないのであきらめてそのワードを口にした。
「女神‥‥ちゃん、本当にお前はさっきの女神なのか?」
「はい、先程の女神です」
こちらにウインクをしながら答える女神に祐介は頭痛を覚える。
喉からでかかったつっこみを押しとどめて祐介は女神と向き合った。
「で、ここは中学校の入学式のようだが?」
「はい、歴史を変えるにはここから始めるのが一番適しているのでここにしました」
「で、お前は何でここにいるんだ? 俺のことを影から見守るんじゃないのか?」
「いえ、一緒にいれば祐介さんが面白いことを‥‥失礼、祐介さんが慌てふためき面白おかしく日常を送る様が見れると思って」
「お前、言い直してるけど余計酷い罵倒になってるぞ」
目の前で笑顔で告げる女神に対して祐介の怒りは限界寸前まで来ていた。
この不満そうな表情を向ける少女は本当に以前この世界を治めていた女神なのか祐介は問い正したくなった。
「それよりもさっきの莉奈さんへの対応は何なんですか? あんないい雰囲気なのにあなたの方から否定して」
「確かに俺は莉奈のことが好きだが、あいつが今どう思っているなんかわからないだろ?」
「じゃあ、いつなら彼女が自分のことが好きだと確信できるんですか」
「‥‥‥‥5年後」
祐介がそのセリフを発した時、女神はゴミを見るような目で祐介の方を見た。
「‥‥このへたれ」
「へたれ言うな」
この女神はどこまで自分のことを安く見ているのか改めて問い正したくなった祐介である。
相変わらず祐介を不満げに見る女神は突然はっとした表情をするとにやりと祐介のほうを見る。
「それよりもいいんですか? 私と2人きりでこんな会話をしていて」
「どういうことだ?」
「後ろです」
後ろを振り向くと壁の所から4つの頭が飛び出しているのが分かった。
4つの頭は一瞬祐介と目が合うと、頭を引っ込めてしまう。
「‥‥‥‥とりあえず戻るか」
「はい」
祐介が困っている表情を見せると、満足げにうなずく女神とともに祐介は教室に戻ることにする。
後であの4人をどうごまかそうかこの時の祐介はそのことで頭が一杯だった。
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