ミーティング
4時間に及ぶ合わせ練習を終え、祐介達6人は商店街近くの公園へと足を運んでいた。
ベンチに座る全員の手には商店街の肉屋で売られているビッグメンチカツが握られている。
このビッグメンチカツの代金はもちろん全て祐介持ち。
以前女神に祐介が全員分おごる宣言をしたため、仕方がなく祐介はビッグメンチカツの代金を全員分払う羽目となった。
「おい、女神。話が違うぞ。確かに以前俺は4人分おごるとは言ったが5人分とは言ってない」
誰にも聞こえないような小声で女神に話しかける祐介。
祐介が近づいてきたことで、女神は露骨に嫌な顔をする。
「4人も5人も同じようなものですよ。全くけち臭いですね。無職素人童貞彼女いない歴=年齢でニート界のカリスマであるけち介さんらしいといえばらしいですけど」
「誰がけち介だ。そっちだって改竄書類を堂々と胸張って持ってきたくせによくそんな口が聞けるな」
「ムカッ、あれは私の部下がしたことで私は関係ないんですから」
祐介が女神に指摘しているのは日笠家の騒動時、女神が持ってきた資料についてである。
女神の持ってきた資料は実は部下が改竄したもので、真実を佳代の口から聞くまで散々困惑させたことをいまだに祐介は根に持っていた。
「部下の責任は上司の責任っていうだろう? 全く部下のやつもかわいそうだな。こんな責任逃れしかできない言い訳ばっかりの駄女神の下で働くなんて」
「ムカッ、そこまで言うのなら今すぐにでも決着をつけましょうか?」
「あぁ、望むところだ」
そういうと2人は額と額がくっつき合うほど接近し、お互いのことを睨み合う。
「2人共どうしたの?」
2人の醜い争いを目ざとく見つけたのは莉奈である。
祐介の隣に座っていた莉奈は無表情で祐介の首根っこを掴んで、女神から引き離した。
「莉奈、痛いから。それに服が伸びるって」
「これが因果横暴ってやつですね。そのまま6月の時みたいに莉奈さんに粛清されればいいんです」
「この屑女神め」
くすくすと馬鹿にしたような顔で祐介の方を見ながら、女神は笑う。
女神も6月の神山家で起きた騒動のことは恵梨香達から聞いているので、内容自体は大体把握している。
なので莉奈が祐介に対して頬が腫れるほどの張り手をもらった話を聞いた直後、散々祐介のことを馬鹿にして爆笑していた。
「莉奈さん、聞いてください。この人間とは思えない駄目な男が突然私に迫ってきたんです」
「こら、嘘つくな。嘘を」
莉奈の方を祐介が恐る恐る見ると、莉奈はあきれたようにため気をつく。
女神は莉奈のその行動を疑問に思う。
入学式の時の莉奈なら嫉妬して、祐介の頬をつねり罵声を浴びせていたからである。
「あの‥‥莉奈さん。祐介さんを粛清しないんですか?」
「粛清しないわよ。祐介と女神ちゃんの言い争いしてるのも慣れてきたし‥‥‥‥‥‥祐介が女神ちゃんに気がないこともわかってるし」
「莉奈さんが大人になっています」
最後の部分だけ非常に小さい声だったので、つぶやいた莉奈意外聞こえた人はいない。
莉奈が暴発しないことに安堵しながらも、意外なことに祐介も驚いていた。
「それよりも早く食べないとメンチカツ冷めちゃうよ」
そういうと莉奈は平然とした顔で自分のメンチカツを口に入れる。
祐介が莉奈の手元のメンチカツを見ると既に半分以上なくなっていることがわかった。
「そういえば莉奈? メンチカツ食べるの早くない?」
「別に。これが普通だって」
莉奈は強がるが他の人達が半分以上残っているのに対して、1/4程に減っている。
それは殆ど食べていない祐介のものと比べれば、その差は歴然であった。
「もしかして莉奈、お腹減ってた?」
祐介に図星をつかれ、ビクンと莉奈の方が震える。
恥ずかしがっている莉奈を可愛いと思いながら、祐介は目を離さない
「しょっ、しょうがないじゃない。お昼もあんまり食べられなかったし、ずっとバンドの練習もしてたんだから‥‥」
「じゃあ、これ」
祐介はほとんど口をつけていない自分のメンチカツを半分に割ると、その半分を莉奈に渡す。
「勘違いしてほしくないけど、俺は何もしてないからほとんどお腹減ってないだけ。それにこんなに大きいメンチカツ全部食べられないだけだから」
「ばか」
そういうと莉奈は祐介のメンチカツを受け取り口をつける。
食べてる最中、どことなくうれしそうにしている莉奈が祐介には印象的だった。
その様子を祐介はうっとりとした表情で眺めている。
「あ~~2人の世界に入っている所悪いんですけど、これからのバンドの指針を決めたいので少しだけ話を聞いてもらってもいいですか?」
2人が慌てて則之たちの方を振り向くとそこには微妙な顔をする則之たちの姿があった。
祐介の隣に座っている女神でさえ、胸をさすりながらわざとらしくため息をつく。
急に自分達の行動が恥ずかしくなった祐介は終始うつむき、莉奈はメンチカツを咥えたまま真っ赤な顔で固まっていた。
「とりあえず2人のことは置いておこうぜ。この様子だと最近うまくいってるようだし」
「恵梨香」
メンチカツを口から離し、莉奈が抗議の声を上げる。
祐介はおもむろに顔を上げると、嘆息する恵梨香の姿と莉奈を見て笑う3人の姿が見えた。
「恵梨香、2人をいじるのはその辺でよさないか。早く話の続きに入りたい」
「わかったよ」
吹雪がたしなめるように恵梨香に注意をする。
恵梨香は吹雪の言葉に応じて則之の方に向き直った。
「まず今日の演奏は始めた頃に比べると大分よくなりましたが、まだまだ発表するには力が足りません」
「あたしはいいと思うけどな」
「いえ全然です」
厳しい表情で則之は全員に話す。
初心者の則之の両手はバンドの練習で会うたびに絆創膏が増えていき、見るに堪えない状況になっている。
その両手を見るだけで則之が毎日必死に練習をしている様子がうかがえた。
「2曲演奏をしなければいけない以上、このままではまずいのでもう少し全体で練習する機会を増やしませんか?」
「俺も賛成だ。このままじゃ間に合うものも間に合わない」
「私もその方がいいと思います」
吹雪や女神が則之の提案に賛成する中、1人だけ複雑な表情をする恵梨香の姿が祐介には目に付いた。
「悪い。その提案私は無理だ」
「恵梨香? 何か用でもあるんですか?」
不思議そうな顔をする則之のことを恵梨香は申し訳なさそうな表情で見る。
「実は私、今オーディション受けてんだよ。アイドルの」
恵梨香の唐突な告白に莉奈や則之達は驚き、女神は祝福する。
ただ1人困惑の表情を浮かべる祐介を除いて。
「すごいじゃない、恵梨香。今どこまでいってるの?」
「4次選考まで通過してて、次が最終選考。やっぱり見る人はわかってくれてるんだな」
うれしそうに話す恵梨香の方を見て祐介の頭にはとある不安がよぎる。
転生前も恵梨香はこの時期にアイドルになるためのオーディションを受けていたのだ。
その結果、合格をもらい6人組ユニットとしてデビューを果たす。
ただ、祐介は今後の恵梨香の末路を知っている。
もし、恵梨香がデビュー時から枕営業等をしていたのだとしたらと思うと背筋がぞっとするのを肌で感じていた。
莉奈達が喜んでいる光景を祐介はただ1人は恐ろしい程冷たい表情で見つめ続けていた。
「しかも私が受けてるの大手のスノーサイドプロダクションだぜ。もしトップアイドルになったらお前らにもサインをくれてやるよ」
祐介はその名前に聞き覚えがある。
スノーサイドプロダクションは転生前恵梨香が所属していた芸能事務所でそこから恵梨香が移籍した話は1度も聞いたことがない。
自分の想像している出来事が確信に変わろうとしているのが祐介にはわかる。
「祐介、どうしたの? 体震えてるけど寒いの? 風邪引いた?」
「いや、大丈夫だから。心配してくれて申し訳ないが‥‥‥‥」
不安そうに祐介のことを見つめる莉奈に対して祐介は笑顔を向ける。
そしてこの後も恵梨香のオーディションに関しての自慢話は続く。
その間、祐介は自分が考えている予感が悪い方へと的中することを肌で感じていた。




