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お騒がせ女神の学園生活  作者: 一ノ瀬 和人
お騒がせ女神と偶像少女
26/57

お騒がせ女神と不幸なマネージャー

投稿が遅くなり申し訳ありません。

3章のスタートです。

「俺は何でこんな所にいるんだ?」


 ムスッとしている祐介の独り言は楽器の音にかき消され、そのつぶやきは誰にも聞こえることはない。

 夏休みも始まったばかりの8月上旬、女神を含めた祐介達6人は郊外にある音楽スタジオに来ていた。

 現在祐介以外の5人は楽器の演奏に夢中であり、祐介に構う暇などない。

 5人は10月中旬に学校で行われる音楽祭に向け黙々と練習をしているため、はたからぼーっと練習風景を見ている祐介は疎外感を感じざる得ない。

 そんな様子で5人の方を眺めていたが、最後のギターの音が鳴り響くと同時に演奏が途切れる。

 

「よしっ、今度は結構いい感じじゃん」

「ダメですよ。僕も吹雪も音をはずしていますし、恵梨香も音程がずれすぎです。それに女神ちゃんのギターは走りすぎでバンドとしての調和がとれていません」


 ベースを担いでいる則之は冷静に今行われた演奏の感想を告げる。

 祐介としては音楽の知識など皆無なので、則之の指摘が理解できなかった。

 

「則之厳しすぎだし。中学生の演奏ならこれぐらい普通じゃん」

「恵梨香は甘すぎます。こんな演奏じゃ音楽祭で恥をかくだけですよ」


 則之は厳しい視線を恵梨香に向け、恵梨香は則之のことを睨み返す。

 祐介はため息をつきながら、何故こんなことになったのかを改めて考えてみた。

 そもそもことの発端は1学期の終業式の日、恵梨香が持ってきた1枚の紙切れからこの計画は始まった。








☆★☆★









「音楽祭で行われる有志のライブですか?」


 終業式当日、恵梨香が持ってきた1枚の申込用紙。

 机の上に置かれたその紙には、音楽祭の午後の部に行われる有志参加者を募るバンドの募集要項が書かれていた。

 基本的に午前の部では学年ごとに競う合唱コンクールで、午後は吹奏楽部や有志参加者が行う出し物となっている。

 恵梨香が祐介達の前に置いたのは、その中でも1番目立つバンドの募集であった。


「そうなんだよ。どうせならクラスで合唱するだけじゃなくて、みんなでバンド組んで音楽祭を盛り上げようぜ」

「そうはいっても恵梨香、俺は楽器なんか弾いたことないぞ」


 吹雪は難しい顔で恵梨香に対して苦言を呈する。

 祐介自身も転生前ギターを少し弾いたことがあるぐらいで、その時も恵梨香がこのような話を持ち掛けたのが原因で練習する羽目になった。


「心配性だな吹雪は。大丈夫だって」

「俺は恵梨香のその自信がどこから来るのかがわからないのだが」


 吹雪は難しいを通り越して険しい顔をするが、恵梨香は吹雪から莉奈の方へと向き直る。

 

「それに莉奈はピアノ弾けるって聞いたし即戦力っしょ」

「恵梨香、確かに私少し弾けるけど‥‥‥‥家のお稽古として受けてるだけだから‥‥‥‥」

「大丈夫、大丈夫。ピアノとキーボードは殆ど変わらないって。これでキーボードは決まりだな。それじゃあベースは則之でドラムは吹雪、ギターは‥‥‥‥」


 莉奈の反論をよそに恵梨香はバンドの役割を勝手に決めていく。

 転生前は恵梨香がこの後ギターの担当に祐介を指名して、自分がギターを弾くことはわかっていた。

 昔恵梨香に指名されて、必死にギターの練習をしたことは今でも祐介の脳裏に色濃く残っている。

 また厄介なことに巻き込まれれるのかと嘆息しながらも、恵梨香が自分の名前を呼ぶのを祐介は静かに待つ。

 しかし祐介の思いとは裏腹に、どこかの自称女神のせいで恵梨香の口から祐介の名前が出ることはなかった。


「はい、はい。それなら私がやりたいです。私のプロ並と呼ばれている超絶ギターテクは祐介さんのものよりも数倍すごいはずです」

「それじゃあ女神ちゃんはギターということで。私はもちろんボーカルな」

「へっ?」


 祐介はあっけに取られながら女神達の方を見る。

 祐介の目の前にいる恵梨香と女神は「イェ~~イ」と言いながらノリノリでハイタッチを交わしていた。

 元々乗り気ではなかった祐介だが、逆にギターをやらなくていいと思うと自分が要らないように思えてイライラする。

 盛り上がっている女神と恵梨香を見て、祐介は複雑な心境に陥っていた。

 

「恵梨香? ちなみに俺は?」

「あ~~~~、祐介は‥‥‥‥」

「もうわかった。聞いた俺が馬鹿だったよ」








☆★☆★








 このようなやり取りが終業式の日に行われ、恵梨香達が音楽祭で有志のバンドとして参加することが決定した。

 決まってからは即座に音楽祭でやる楽曲を決め、それぞれ個人での練習を行う。

 結局祐介はバンドの練習には参加することはなくマネージャー的な位置でバンドを支えることに決定した。

 そのマネージャーとしての第1の仕事は楽器集めであり、全ての楽器を揃えるのに祐介は奔走する羽目になる。

 まずギターとベースは祐介と吹雪が軽音楽部の人達に総当りで頼みこみ、結果的に現在使用していない廃棄予定の古いものを借りることに成功する。

 ドラムに関しては、本番は軽音楽部のものを貸し出してもらえるよう祐介が交渉し、ドラムパッドも軽音楽部で使っていないものを借りることになった。

 莉奈に関しては、稽古先の音楽の先生に聞いてみるということなので何とか事なきを得た。

 誰がどの楽器をもてあましているのかは祐介も記憶になかったので、この作業は酷く大変だったことを覚えている。

 ちなみに女神は自分でギターを持っているということなので、祐介が理由をそっと聞いてみたところ‥‥。

 

『最近の女神はギターを弾けることは必須なんですよ。祐介さんは相変わらずおつむが足りないんですね。脳外科に行って1度見てもらった方がいいんじゃないですか?』


 というありがたいお言葉をもらい、女神と即時喧嘩に発展してしまう。

 幸い吹雪と則之が間に入ったため未遂で終わったが、祐介はその後1人莉奈にこっぴどく怒られる羽目になった。

 こうしてかなり遠回りをしたがバンドの練習が始まり、個人練習の他にもこうして祐介以外の5人がお小遣いを出し合って、週に2回スタジオで合わせ練習も始めていた。

 こうしてこの日迄約2週間、それぞれが個々に鍛錬を積んでここに来ている。

 

「則之は固いんだよ。これぐらいの出来ならちょうどいいじゃんか。それより2曲目も早く決めようぜ」

「1曲目も満足にできていないのに、2曲目の練習を始めるなんて愚かな行為です」

「それならそこで聞いてる祐介に意見を聞こうぜ」

「いいでしょう。祐介、今の僕達の演奏を聴いてどの様に感じましたか? 率直な感想を聞かせて下さい」

「俺?」


 則之はベースを持ったまま、祐介の方に詰め寄ってくる。

 あんまり演奏に耳を傾けていなかった祐介は返答に困ってしまう。

 

「今の演奏、もっと練習が必要ですよね?」


 慌てて則之のいない所から逃げようとした祐介の退路を今度は恵梨香が塞ぐ。

 その表情はどこのチンピラだという表情をしていて、威圧をかけているようにも見えた。


「今の演奏よかっただろ? 2曲目をやった方がいいよなぁ、祐介?」


 恵梨香が祐介の退路をたったことで、祐介は袋小路に陥る。

 これで今行った演奏の感想を2人に言わないといけなくなった。

 

「えっと‥‥俺音楽そんなに詳しくないし、意見聞かれても難しいかなって思うんだけど?」

「いいんです。素人の祐介から見た感想で」

「そうだ、そうだ。祐介が聞いていいと思った方を選べよ」


 2人の迫力に祐介はたじたじである。

 元々楽器集めで全ての作業が終了していた祐介がこの場にいるのは、莉奈が『祐介1人仲間はずれは可哀相』ということで家に引きこもり燈子の仕事を手伝っていた所を無理やり連れてきたからである。

 そんな祐介が音楽についての感想を聞かれてもわかるはずがない。

 

「2人ともいい加減にしなさい」


 祐介の助け舟として莉奈が近づいてくる。

 莉奈はどこか怒った様子で恵梨香と則之に向き直った。


「恵梨香、則之の言う通りよ。まだ曲は未完成なんだからもっと練習しないと」

「でもなぁ」

「『でもなぁ』じゃない。スタジオ使える時間ももう殆どないんだからもう1度あわせるの。則之も早く準備をする」


 莉奈が2人を注意すると、則之と恵梨香は元の位置へと戻っていく。

 その場にただ1人残った莉奈は祐介のことを見下ろし、一息つく。

 

「悪い。助かったよ」

「別に。祐介のためじゃないし」


 つんつんしている莉奈に対して祐介は苦笑いを浮かべる。

 あの日笠家の騒動や神山家への訪問を経て、今まで以上に祐介に対して積極的に莉奈は関わってくるようになった。

 祐介はそれがうれしくもあると同時に、妙な危機感抱いている。

 転生前の莉奈が積極的に祐介と関わるようになったのは中学3年生で、周りからいじめられるようになったのは中学2年生の時。

 もしかしたら自分のいじめが始まるのはもうすぐなのではないかと祐介は考えていて、その対策も始めないといけないとひそかに感じていた。

 

「それでもこれだけは言わせて。ありがとう、莉奈」


「もっ、もう、祐介は何を言ってるの? 私は当たり前のことしただけなんだから。演奏あるから私行くね」


 そっけなく返事をすると莉奈は祐介から背を向け、キーボードの方へと歩いていく。

 祐介からすれば莉奈が怒っているように見え、またやってしまったと額に手を当て自問自答することとなる。

 そのため顔を真っ赤にしてキーボードの方へと歩いていく莉奈のことと、2人のやり取りを見て胸焼けを起こしている他の4人のことを祐介が知ることはなかった。


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