神山祐介のお騒がせな休日
間に合いました。
ボリュームはいつもより多くなっています。
時系列としては体育祭が終わった少し後の出来事です。
6月下旬のとある休日、神山祐介は大急ぎで自分の部屋を片付けていた。
この日はかねてから予定に入っていた莉奈達が祐介の部屋へ訪問する日。
燈子も含め今日は祐介が作成したMTやMADに入っている術式を見る予定になっている。
そのため、見られてもいいものは全員が見れる場所においておき、見られたくないものは見つからない場所に隠す作業をしていた。
「祐介、莉奈ちゃん達もうすぐ来るって」
「わかった」
下の方からは姉である燈子が祐介に連絡事項を伝える。
幸い片付けは殆ど終わっていて後はみんなが来るのを待つだけとなっていた。
祐介が掃除機を廊下に出すのと同時に家のチャイムが鳴る音が聞こえた。
「こんにちは。九条ですけど」
「はいはい、今あけるから」
その声を聞いて、燈子が急いでドアの鍵をあける。
家のドアが開かれるとそこから見知った男女が神山家へと入ってくる。
「お久しぶりです。燈子さん」
「莉奈ちゃんも。確か体育祭ぶりだっけ? 相変わらずの美人ぶりで」
「そんな、お世辞を言われても」
玄関のところでそんなやり取りをしている合間にも則之や恵梨香、吹雪も中へと入ってくる。
靴を脱ぎ顔を上げた則之と祐介はこの時目が合った。
「祐介は今2階で片づけをしてるからもう少しすれば降りてくるだろう」
「差し出がましいようで申し訳ないんですが、祐介なら後ろにいますよ」
「何?」
今度は後ろを振り向く燈子と祐介は目が合う。
「おい、祐介。お前の友達がきてるんだ。そんな所にいないでさっさと降りてもてなしたらどうなんだ?」
「わかってるよ」
燈子に憎まれ口を叩きつつ、祐介は階段を1歩ずつ下りていく。
階段を降り、玄関の前に立つと莉奈がうれしそうに祐介のことを出迎えた。
「あっ、祐介だ。久しぶり」
「久しぶりじゃないよ。ほんの数時間前まで一緒にいたじゃん」
「それもそうか」
莉奈はおどけたように言うが、実際2人は2時間前まで一緒にトレーニングをしていた。
この日は休みということもあり、18kmのランニングと魔法を使用した実践形式の組み手を莉奈と行った。
祐介としては走り終わった後倒れこむわ、組み手では莉奈に投げられるわと散々だったが、無事この日の練習を終えることが出来た。
怪我が回復したばかりということだったので祐介としてはこの日の練習は非常に辛かった印象しか残っていない。
「なるほどな、だから今日は午後に集合だったのか」
吹雪は納得したように頷く。
「でもそんだけ莉奈に稽古つけてもらってるのに、祐介はあんなに弱いのかよ。聞いててあきれるぜ」
「うるさい。年上の魔法師相手にあれでも善戦したんだぞ」
恵梨香が言っているのは祐介と義信の戦闘の話である。
断片的にしかあそこでの戦いを聞いていない恵梨香としては、祐介の尻拭いを莉奈がしたとしか思っていない。
そのため口だけは達者な情けない祐介という印象がこの時恵梨香の中で根付いていた。
「まぁ、へたれな祐介のことは置いといて上がりなよ。おいしいお茶とお茶菓子を用意するから‥‥‥‥‥‥‥‥祐介が」
「その役目も俺かよ」
「祐介、後は頼んだ」
リビングに向かう燈子の後ろを莉奈達がついていく。
理不尽なことを押し付けられた祐介はため息をつきながら、莉奈達の後ろにくっついていった。
リビングに着いた燈子達はテーブルの方に、祐介はキッチンの方へと向かう。
テーブルの席は奥の方から則之、恵梨香、吹雪の順になり、手前の席は燈子、莉奈の順で座ることになる。
1人キッチンに着いた祐介は人数分のお茶を用意し始めた。
「そういえば今日あの子はどうしたんだ? ほら、廃工場で半べそかいてた子?」
「女神ちゃんなら今日はこれないと言っていました。家の手伝いがあるらしいです」
「そうか‥‥‥‥」
則之の返答に燈子が何か考え込むしぐさを見せる。
祐介は事前に何故今日女神がこれないのか理由を聞いた所、どうやら天界の方の事務仕事が色々と溜まっているらしい。
基本的に休日は仕事を片付けるために天界に戻るらしく、その仕事が抜けられないため今日祐介の家への訪問もこれないらしい。
「あの子には色々と聞きたいことがあったのだが‥‥‥‥」
燈子のつぶやきは誰にも聞こえることなく自己完結する。
「あいつのことはいいだろ? それよりもお茶入ったよ」
祐介がテーブルの方へお盆を持っていくとそれをテーブルに置き、ティーカップをみんなに配る。
「こっちのコーヒーは則之と姉さんの分ね。こっちの紅茶は莉奈と恵梨香と吹雪の分だから」
祐介は一通りカップを配り終えると莉奈の隣の席に座る。
「祐介、俺は別にコーヒーでも良かったが‥‥‥‥」
「吹雪はコーヒーよりも紅茶の方が好きだっただろ? 小学校の時コーヒーよりも紅茶の方を好んで飲んでた記憶があったからそっちにした」
祐介は小学生の時、家に来た友人達全員にコーヒーを出したことがある。
いつも燈子には無糖のブラックコーヒーを出していたので、その癖で祐介はつい出してしまった。
その時に則之以外から不評だったことを祐介は知っていて、吹雪も苦そうな顔をして飲んでいたことを覚えていた。
「よく覚えてたな」
「まぁね。それとミルクと砂糖もそこに置いておいたからそれ使って」
祐介がテーブル中央に置いたお盆の上にはクッキーが入ったお皿が置いてある。
その横にスティックシュガーとミルクが置かれていた。
「私ももらっちゃおう」
莉奈はミルクとスティックシュガーを1つずつ取り、ティカップの中へ入れる。
恵梨香も莉奈と同じ個数分のスティックシュガーとミルクをティーカップに入れ、吹雪に関してはスティックシュガーを3袋も入れていた。
「それで、今日は祐介の部屋を見せてくれるんだよな?」
燈子はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら祐介の顔を見る。
先程都合の悪いものは全て2段底のなっている机の下やベッドの下の収納スペースに隠したので、そう簡単には見つかるはずがないと祐介は思っていた。
「あぁ、好きに調べていいよ」
「そうかそうか。それは楽しみだな」
「そういえば祐介、この前色々見せてくれるって言ってたよね」
燈子の意図とは裏腹に莉奈はうれしそうに頬を緩ませていた。
その表情から今日の神山家の訪問を心待ちにしていた様子が伺える。
「俺も興味がある。莉奈からは則之の兄と対峙する前に5人の男を気絶させたと聞いたからな」
「どうせその5人が滑って転んで頭打ったってオチじゃないのか?」
「違うもん。祐介は音速振動を使って‥‥‥‥」
「莉奈、それ以上は」
祐介が莉奈に静止をかけると、慌てて莉奈は自分の口を手で覆い隠す。
あそこで起こった出来事は2人だけの秘密にしてくれと祐介がお願いしたことを莉奈は思い出した。
「なるほど、音速振動か」
吹雪は口に手を当てて何かを考え込んでいた。
「まぁ、祐介は父さん達の部屋からノート型のMADを持ち出したみたいだからな。他にも旧型のMTがいくつかなくなってるし、研究室にある部品も減っていた。何が出てくるのか本当に楽しみだ」
「あたしも楽しみだ。きっとどこかに莉奈には見せられないようないやらしい本とかあるはずだしな」
「そんなものあるはずないだろ」
そういう関連の本は絶対に見つからない場所に隠しておいたので最後まで隠し通せる自信が祐介にはある。
話をそらそうと則之の方に視線を移すとそこにはコーヒーを飲みながら視線を窓に移す則之の姿があった。
「則之も俺の部屋に来るよね?」
「あぁ、すいません。聞き逃しました。それでなんでしたっけ?」
「何でもないよ」
「それじゃあ、そろそろみんなで祐介の部屋へ行こうか。家捜しの開始だ」
「待ってよ。俺が先に入るから」
真っ先に椅子から立ち上がり、祐介の部屋に行こうとする燈子のことを静止しつつ、祐介も椅子から立ち上がりリビングを出る。
祐介の後ろを燈子や莉奈達が後ろについていく。
「それにしても祐介の部屋入るのいつぶりだっけ?」
「莉奈に関しては小学校の卒業式以来だった気がする」
「あの日は楽しかったな~~。1日中遊び倒したよね」
「チェスや将棋もしたっけ。確かに楽しかったけど俺はその後が大変だったよ」
その日の出来事を祐介は思い出すたびにため息が漏れてしまう。
卒業式が終わった後、莉奈は祐介の家に遊びに来ていた。
祐介の家でテレビゲームをしたり、将棋やチェス等のゲームをして一晩中遊び倒して楽しかった思い出がある。
「あたしは今の話を聞いてる限りでは問題はないように思うけどな」
「僕もです。ただの友人同士の話にしか聞こえません」
「ただ、この時問題はもう起きてたんだよ。莉奈が親に何も言わないでうちに来ていたせいでね」
「まぁ、私としては莉奈ちゃんが楽しんでくれたのなら構わなかったがな」
祐介と燈子が話す問題とは莉奈が祐介の家に行くことを親に告げていなかったことである。
莉奈の家族である九条家は魔法師の名家であり、莉奈は九条家の時期当主候補。
そんな人物が卒業式後、唐突にいなくなったことで九条家の人達は大慌てする羽目になる。
祐介達や親の前意外だと大人しくしている莉奈の失踪は誘拐の線が強いと即座に判断され、莉奈を捜索する部隊が組まれて明け方まで捜索は続けられた。
結局翌日朝帰りを果たした莉奈と引きづられるようにつれてこられた祐介を待っていたのは莉奈の両親からの叱責である。
卒業式の後仕事のため地下の研究室にこもりっぱなしであった燈子も九条家に来て、祐介と共に莉奈の両親に謝罪をする羽目になった。
「あの時私お父さんにちゃんと言ったよ。祐介の家に遊びに行くって」
「でも、莉奈のお父さん見に覚えがないんでしょ? それなら聞いてないのと同じだよ」
「ついでに聞きたいことがあるんですが、その後祐介はどうしたんですか?」
「確か次の日は莉奈の家で遊んでた気がする」
「夜ご飯もうちで食べていったよね」
「もうお前達付き合っちゃえよ」
あきれたような表情をする恵梨香に対して、莉奈と祐介は顔が真っ赤になる。
「祐介、何を今更照れてるんだ? 早くその扉を開けろ」
「わっ、わかってるよ」
ぶっきらぼうに言い放つ燈子に対して、顔を真っ赤にした祐介は自分の部屋の扉を開く。
祐介の部屋の中は壁際にある勉強机と青いシーツがかけられたベッドが目立つぐらいの非常に簡素な作りとなっている。
他にはクローゼットと箪笥、中央に置かれた小さいテーブルの上にあるテレビぐらいだった。
「一昨日から必死に片付けていたかいがあって、中々きれいになっているじゃないか」
「多少はね」
祐介は事前に燈子達が興味を持ちそうなものを目に付くように置いた。
中に入った燈子達がまず目に入ったのは机の上にあったノート型のMAD。
莉奈も祐介の部屋に入った時、まず机の上にあるMADに目が入った。
「これが祐介が使っているMAD?」
「そうだよ。父さん達が使っていたものを拝借したやつ」
「嘘つくな。勝手に持っていったくせに」
燈子以外の4人は机の上にあるMADに興味心身である。
逆に他の所をきょろきょろと見ている燈子のことを祐介は不気味に思った。
「祐介? どうしたの? 早く中見せてよ」
「わかってる。そうせかさないで」
そう言うと祐介はMADの電源をつける。
MADが立ち上がると、画面には無数のフォルダーがずらっと並んでいるのが4人の目に付いた。
「これは全部術式ですか?」
「そう。基本的には国際魔法研究所で公開されている術式は全部フォルダーごとに分けて入れてある」
「氷結系魔法に振動系の無系統魔法、炎系魔法の上級互換である火炎系魔法まであるのか。多種多用だな」
「それってそんなにすごいのか?」
吹雪は祐介のMADを見て驚いているようだが、魔法のことに疎い恵梨香にはいまいち理解が追いついていない。
元々術式は様々な系統で分かれている。
基本的には炎、水、氷、雷、風、光といった6種類の魔法に重力系や振動系といった無系統魔法の7つで構成されている。
さらにその基本魔法を発展させたものが氷結系や火炎系魔法と呼ばれるものである。
吹雪が驚いたのは国際魔法研究所で公開されているものは、炎、水、氷、雷、風、光の基本魔法のみで氷結系や火炎系といった高難度の魔法は非公開となっているため、その術式を祐介が保有していることに驚いていた。
「普通は氷結系や火炎系といった魔法は非公開になっているはずなんだがな」
「俺だってそんな万能じゃないよ。氷結系や火炎系の魔法は今作成している最中だし、全部あるわけじゃないから」
「俺としては開発しているってだけでも十分すごいと思うんだが‥‥」
「僕もこの年で上位互換の術式を開発している人がいるのに驚きです」
吹雪はさらっと言ってのける祐介に戦慄を覚えた。
普段、MTのメンテナンスも自分でしている吹雪としては祐介がどれだけすごいことをしているのかが手に取るようにわかってしまう。
「吹雪? 祐介ってそんなすごいことしてるの?」
「あぁ。俺としては魔法に疎い恵梨香はともかく全く驚かない莉奈にびっくりしている」
「しょうがないでしょ。私MTのメンテナンスはお母さんの専属の人にやってもらってるんだもん」
莉奈はむっとした表情を浮かべ吹雪のほうを見る。
莉奈に視線を向けられても、吹雪は動じずMADの画面を見ていた。
「まぁまぁ、喧嘩しないで」
「そういえば、作った術式はどこでテストしているんですか? さすがにこの部屋では魔法が使えないように思いますが?」
「それは昔姉さんが使っていた地下室を使ってるんだよ」
「あそこには特に取られても重要なものはないからな。常に鍵は空いているんだが、そこでしてたのか」
燈子は興味がなさそうにベッドの上に座って祐介がこの前本屋で買ったMTの教本をつまらなそうに読んでいた。
「じゃあ、そのフォルダーに入っているのは開発が終わったものなんだな?」
「あぁ、そうだよ。これらはいつでもインストールできる。ただ、中学生が扱うには高難度な代物だからインストールするのはもう少し後にしてほしい」
「高難度術式を開発した祐介がそれを言いますか」
則之は祐介の発言にあきれているようだった。
「それだけじゃないぞ、則之君。どうやらこいつはMTや術式の設計も出来るようだ」
「って、姉さん。何やってるの」
先程ベッドに座っていた姉はおもむろに祐介の机の引き出しを開くと、二段底になっている所をあっさりと見破り、そこからA4サイズの複数の製図用紙を取り出した。
「何って家捜しだよ。それ以外に何がある?」
「そういうことじゃなくて、何で2段底になってるってわかったの?」
「私はお前の姉だぞ。弟が大事なものを隠す場所ぐらい簡単にわかる」
「それは本当にやめて」
祐介が姉の手から設計書を取り返そうとする前に、莉奈と恵梨香が祐介のことを羽交い絞めにする。
さすがに女性2人に危害を加えず、抜け出す方法が見つからず、祐介はその場でもがくことしか出来ない。
その間にも祐介が作った設計書を燈子が取り出し、それを吹雪と則之が交互に見ていく。
「驚いたな。MTの製図だけじゃなくて術式の製図まで出来るのか」
「僕も何度か親が作った設計書を見たことはありますが、この設計書はそれらよりもはるかにしっかりとした出来です」
「本当はそれだけじゃないんだが、まぁいい。それよりも私は祐介ができる仕事の幅が増えたことを喜ぼうか」
吹雪達は驚いているだけだが、燈子は祐介が作った設計書を見て興奮しているようだった。
「姉さん、言っておくけど俺免許持ってないから仕事すること自体違法だからね」
「わかってる。製図に関しては年末以降の仕事にまわすから安心しろ」
「姉さんは俺にどこまで仕事をやらせるつもりなの?」
祐介は何かをあきらめたように弱弱しくつぶやいた。
「でもすごいね。いつの間に祐介って製図まで出来るようになってたんだろ?」
不思議そうに語る莉奈に対して祐介はビクッと背中を震わす。
一瞬自分の正体がばれたかと思い、思わず身震いしてしまった。
不幸にもそのことをフォローしてくれる女神がここにはいない。
どうすれば切り抜けられるか必死に考える祐介だったが、助け舟は意外なところから来た。
「こいつ昔は父さんや母さんにべったりだったからな。多分2人の作業を見て自然とやり方を覚えたんじゃないのか?」
「そんなものなのかな?」
「大抵の人はそんなものだ。私も父さんと母さんの製図を見て学んだんだからな」
懐かしむように語る燈子の目はどこか悲観した様子が伺えた。
祐介も燈子の言葉に胸を痛めた。
「それよりも、祐介って本当にすごいね。製図まで出来るなら将来私のMTの製作も祐介に任せちゃおっかな~~」
「そうだね」
「祐介? 何で泣いているの」
「えっ?」
祐介の目からはいつの間にか涙が流れていた。
その涙は頬を伝い、1滴のしずくとして地面をぬらす。
「ごめん、私何か酷いこと言ったかな? もし祐介が嫌なら私のMT作らなくても‥‥‥‥」
「違うよ」
莉奈の方を向きながら祐介は否定の言葉を投げかける。
「よければ‥‥俺に、神山祐介に九条莉奈のMTを作らせてください」
莉奈専用のMTを作ることは祐介にとっての1つの目標でもあった。
病に倒れ志半ばで失ってしまった目標を祐介は心の奥底に眠らせていた。
その思いが今の莉奈の言葉でよみがえるのを祐介は感じ、その眠っていた自分の思いをこの時祐介は莉奈に伝えることができた。
「敬語使うって祐介らしくないじゃない。私のMTの製作ぐらい別に祐介に任せたっていいわよ」
「本当?」
「本当。そのかわり祐介は私から絶対に離れないこと。これは約束だから」
「わかった。莉奈とずっといるから」
顔をほころばせる莉奈の方を見ながら、祐介は心の中でひそかに誓う。
どんな不格好なことになろうとも莉奈のことを守っていこうと祐介はこの時思った。
祐介が周りを見ると吹雪や則之だけでなく燈子までもが微妙な表情をしている。
恵梨香に関しては先程祐介の横にいたのだが、今はその姿が見えない。
「あの、祐介に莉奈」
コホンと小さく咳払いをすると、3人を代表して則之が声を発した。
「今の2人のやり取りは告白と受け取っていいんですよね?」
「「なっ?」」
2人は声をそろえると顔が真っ赤になる。
祐介は将来のMT製作を頼まれただけだと考えていたのだが、則之達は別の意味で受け取っていたらしい。
よくよく考えると恥ずかしい発言をしていた自分のことを思い出し、祐介は自分の顔が熱くなるのを感じた。
「違うわよ。これは祐介にMTの製作を任していただけで」
「そう。俺も将来の仕事を莉奈と約束しただけだし」
「面倒くさい2人だな。いいからさっさとくっついて‥‥‥‥」
「あった」
燈子が何かを言う前に、部屋中に響くような大きな声が上がった。
その声は祐介が寝ているベッドの下から聞こえてきて、そこからは恵梨香が顔だけ出す。
恵梨香の姿を見た瞬間、祐介の顔が一瞬にして青ざめていく。
「恵梨香? 何があったの?」
「祐介のベッドの下が二段底になってたんだよ。そこからグラビア本とか色々出てきたんだ。例えばこれとか」
恵梨香がその中から1冊の本を取り出した。
そこには"夏真っ盛り大人気アイドルの生水着"というどこにでもありそうなうたい文句の雑誌が出てきた。
「ベッドの下は以前私も調べたが、2段底とは盲点だった。恵梨香ちゃん、次は私にもぐらせてくれないか?」
「いいですよ。多分もっと過激なのも出てきますから」
「ちょっとやめ‥‥」
祐介が燈子達を止めようとすると右手が強く引っ張られるのがわかった。
恐る恐る祐介は後ろを向くと、そこには笑顔の莉奈が祐介の右腕を握り締めている。
ただ、先程とは違い顔をほころばせている様子ではなく、笑顔が張り付いているように見えた。
「祐介、どうして祐介はそんなにエッチなものを持っているのかな?」
「その‥‥‥‥グラビアぐらいは中学生でも見るじゃん。だからこれは‥‥その‥‥健全だから‥‥」
「おっ、エロ本もあったぞ。なるほど、祐介はこういう趣味があるんだな」
ベッドの下から聞こえてくる燈子の声に莉奈の顔が一瞬こわばったのが祐介にはわかった。
一刻も早く部屋から脱出しないといけないことはわかっているが、莉奈に右腕をつかまれているため逃げる手段がない。
「祐介、わかってるわよね?」
「則之、吹雪、莉奈を何とかして‥‥‥‥っていない」
「覚悟」
この後莉奈からひたすら頬に張り手を貰ったことを祐介は忘れない。
則之と吹雪も般若の顔を浮かべる莉奈を見て恐る恐る部屋を退室し、リビングで大人しくお茶の残りを飲んでいたことは後々聞いたことである。
こうして部屋に残されたのは、莉奈の折檻を受ける祐介と祐介のエロ本を漁る燈子と恵梨香だけとなり、この騒ぎは夕暮れ時になるまで続いた。




