計画的な失踪
「なるほどなるほど。そういうことでしたか」
体育祭を前日に控えたこの日、祐介は女神に佳代の話を伝えた。
佳代の話を聞いた日から女神に話すまで時間を空けたのは、佳代の話の裏づけを取るため。
女神に話をしなかったのは直前まで女神に話すわけにはいかない内容だったからである。
祐介から佳代の話を聞いた女神は頷くだけであった。
「確かに今祐介さんが言った仮説が正しいというなら私に隠していた理由も頷けます」
「悪いと思ってる。お前にこの話をしなかったことを」
「別にいいですよ。その代わり今度商店街にあるお肉屋さんのビッグメンチカツ4つおごってくださいね」
「4つって‥‥‥‥お前どれだけ食い意地張ってるんだよ」
「私1人じゃありません。恵梨香さん達の分も入っていますので」
女神はそう言うと胸を張って答える。
「定期交流会のお茶請けにします」
「お茶請けにしてはヘビーすぎるだろ」
女神達の食欲にあきれながらも祐介は話を続けた。
「でもこれで俺も則之のことが少しわかった気がする」
「そういえば祐介さんは以前、則之さんのお母様に会ったことはないんですか?」
「会ったことはある。ただそれは日笠佳代としてじゃなくて、棗佳代としてのときだ」
祐介は座っていた椅子に寄りかかり軽く目を瞑った。
以前佳代とは会ったことはあるが、それは祐介が成人して姉の仕事を手伝いだした頃である。
それに則之の母は授業参観とか人が多く来る場所には1度も姿を現したことがない。
そのため則之の母が棗佳代だということすらこの前初めて知ったのである。
「俺があの人と会ったのは成人する頃。中学時代になんか1度も会ったことはない」
「ということは歴史が変わっているといいたいんですか?」
「まぁ、そう言うことだ」
祐介が考え抜いてたどり着いた答えは歴史が変わり始めているという事実。
それが何故起きたのかは今の祐介達にはわからない。
「つまり私達は前提条件が間違っていたんですね」
「そういうことだ」
女神と祐介、2人の意見は一致していた。
「それで? これからどうするんですか? これだけ掴めていても私達に出来ることなど何もないように思うんですが‥‥」
「いや、何とか間に合った。もしまだ俺の知っている史実の通りならこの後‥‥」
「間に合ったって何が‥‥」
女神が何か言おうとした時、祐介のポケットから携帯の音が鳴り響く。
祐介が携帯を手に取りディスプレイを見ると電話の主は吹雪であった。
「吹雪? どうしたんだ?」
『祐介、そっちに則之は来ていないか?』
「来ていないけど、何かあったのか?」
電話口でつぶやく吹雪はいつもと違いどこかあせっているように聞こえた。
いつもとは違う吹雪の口調から緊急事態が起きていることに祐介は気づく。
『則之がいなくなった』
吹雪から言われた言葉を祐介は脳内に反芻させ、それを体になじませるよう冷静に聞いていた。
「どういうことか説明してくれないか?」
『下校してからこの時間まで家には1度も帰っていないらしい。それで日笠の家の人達が今必死に探している』
「状況はわかった。俺も則之のことを探すよ」
『いや、お前は家にいた方がいい』
「そんなわけには行かないよ。則之は俺の大切な親友なんだから」
『待て、祐介。これは日笠家の問題だからお前はあまり首をつっこまないほうが‥‥』
吹雪は何かを言い終わる前に、祐介は携帯の通話ボタンを切った。
「今電話口から、則之さんがいなくなったって‥‥」
「お前にも聞こえていたと思うがその通りだ」
動揺する女神だったが、祐介は冷静に状況を判断する。
祐介の異常なほどの落ち着きに女神は唖然としていた。
「祐介さん何でそんなに落ち着いていられるんですか? 則之さんが消えてしまったのに」
「まぁ、予想していたからな」
「予想していたって‥‥」
「前もこんなことがあったんだよ」
祐介は転生前のこの日、則之が失踪したことを覚えていた。
その時は祐介と吹雪が必死に則之を探すものの彼を見つけるには至らない。
結局翌日の朝、則之が何も言わずに家に戻ってきて事なきを得た形だ。
その夜何が起こったのか祐介達は何も聞かされていない。
「多分あの則之の失踪は今回のこれが原因だろう。となるとあそこの廃工場にいた連中のこともおのずと見当がつく」
そういうと祐介は女神を話している公園を出ようときびすを返す。
その祐介の後ろを女神もついていく。
「別についてこなくてもいいんだぞ。これから行く場所は危険な所なんだから」
「いえ、私も行きます。則之さんの問題を解決できるかできないかは私の左遷にも関わってきますので」
「お前は本当にぶれないな」
「祐介さんこそ。則之さんの問題に首を突っ込んでいますけど、きっとこの問題も莉奈さんを助けることにつながると思ってるんでしょ?」
「まさかお前に俺の考えが見透かされることがあるなんて、一生の不覚だ」
「それはお互い様ですよ」
2人はお互いの顔を見合わせるとひとしきり笑いあった。
「じゃあ行きますか」
「はい。則之さんを助けに」
そういうと2人は公園を出て則之がいると思われる廃工場へと足を運んだ。
☆★☆★
「2人共祐介達が動いたぞ」
「なんかさ、こうしてみると私達探偵みたいじゃね?」
祐介達が公園で話をしている間、茂みのところで莉奈と恵梨香と燈子の3人組は2人の様子を見ていた。
学校を出て行く時から恵梨香と莉奈で追跡を開始し、公園で話し始めたところで燈子と合流した。
現在は公園を出て行く祐介達の後ろ姿を追跡している。
「でもこうして2人の姿を見ると密会というのも案外間違っていないように見えるな」
「燈子さん、煙草はやめましょう。煙、煙でばれちゃいます」
煙草に火をつけようとする燈子のことを全力で莉奈は止める。
燈子はそんな莉奈のことを不機嫌顔で見つめた後、あきれたようにため息をはいた。
「莉奈ちゃんはお堅いな」
「燈子さんがいい加減すぎるんです」
莉奈の鋭い視線が燈子の方をさす。
その怒るようなそれでいて困った表情を見せる莉奈のことを見た燈子は安堵の表情を見せた。
「まぁ、こうでないと莉奈ちゃんじゃないな。祐介のこと、宜しく頼むぞ」
「ふえっ、その‥‥‥‥こちらこそ」
「莉奈まで素で返してどうするんだよ」
顔を真っ赤にした莉奈の隣で恵梨香はため息をつく。
「ひっ」
「莉奈? どうしたんだ?」
「なんでもない。携帯が震えてて‥‥」
そう言うと莉奈はポケットに入った携帯を取り出す。
取り出した携帯のディスプレイには三枝吹雪の名前が表示されていた。
「もしもし。どうしたの吹雪? こんな時間に?」
『莉奈か。いきなりすまない』
「別に大丈夫だから。それよりもどうしたの?」
莉奈が用件を吹雪に問いただす。
電話口にいる吹雪は葉に物が詰まったような感じに見えた。
『その‥‥なんだ‥‥則之をどこかで見なかったか?』
「則之? 見てないけど」
『そうか。わかった』
「ちょっと吹雪、則之がどうしたの?」
莉奈の質問は最後まで届かず、2人の通話はそこで途切れた。
「吹雪なんだって?」
「よくわからない。則之はそっちにいるかって一方的に聞かれて切れちゃった」
「あいつもよくわからない奴だな」
恵梨香はそう言うと前を歩く2人のことを注視していた。
燈子は険しい顔で2人が歩いていく方角を眺めている。
「この方角は‥‥工業地帯‥‥」
「どうしたんですか? 燈子さん?」
「いや、何でもないんだ‥‥それより2人共、絶対に私の側を離れるんじゃないぞ」
この時直感的に感じた燈子の嫌な予感は的中してしまう。
それは莉奈や恵梨香達も巻き込んだ大騒動に発展するのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
感想をいただければうれしいです。




