追跡
翌日の帰り道、祐介は昨日の則之の行動について考えていた。
学校の制服で人ごみをうろつき、自分の家と反対方向に歩いていく則之。
彼の行動を祐介は不審に思う。
転生する前、則之の行動を見てきた祐介としては、彼があんな所にいること自体が意外だった。
則之自身が『日笠』という魔法工学専門の家系に生まれているため家柄がよく普通ならあのような所へと足を運ぶことはない。
ましては親が許すはずがないので、親があのような所に則之を呼び出すとは到底思えない。
では何のために則之がどんな目的があってあの場にいたのか。
そのことが祐介には気がかりである。
「祐介? どうしたの?」
考え込む祐介の顔を覗き込むのは隣で一緒に歩いている莉奈である。
莉奈とは学級委員の仕事で一緒に遅くまで学校に残っていたため、今日もこうして一緒に帰っていた。
「昨日からずっと考え込んでいるみたいだけど、何か悩みでもあるの?」
「いや、特にはないよ」
祐介は莉奈を不安がらせないように精一杯微笑む。
莉奈に微笑んだ後、前を向き歩いていると商店街で昨日と同様に則之の姿を見つけた。
則之はあたりを見回しながら昨日と同様商店街の奥へとずんずん進んでいく。
祐介は則之の行動を逐一注視していた。
「祐介? どうしたの?」
「ごめん、ちょっと用が出来たから先に帰る」
「ちょっと、祐介。今日も練習があるんだけど‥‥」
「ごめん。今日は休む。明日は必ず出るから」
「ちょっと‥‥」
祐介の腕を掴もうとする莉奈の静止を振り切り、祐介は商店街の奥へと行く則之を追っていく。
やがて則之が商店街を抜けると、住宅街の方へ歩いていった。
「この先に何かあったかな?」
「確かこの先は工業地帯があったはずですよね。しかもそこには不良やゴロツキがうろうろしているって噂です」
「そうだな。この先は工業地帯しか‥‥‥‥って女神?」
祐介は自分の真後ろを振り向くとそこには制服姿に身を包んだ女神がそこにはいた。
「はい。1家に1人いると便利だといわれている超絶美少女の女神ちゃんです」
「お前の辞書には『謙遜』って言う言葉はないんだな」
「失礼ですね。私だってそれぐらいの言葉はわかりますよ」
ご立腹の女神に祐介はあきれた様な表情を見せた。
「ところで、お前はいつからいたんだよ?」
「先程の商店街で莉奈さんと歩いていた所を見たのでついてきちゃいました」
女神はちょこっと舌を出して自分を可愛らしく見せようとしているが、祐介からしてみれば全然可愛らしくない。
むしろその表情と態度は祐介をイライラとさせる。
「お前は俺と莉奈のことを逐一観察してるのかよ?」
「当然です。あなたと莉奈さんの関係は私の出世にもかかわってくるんですから」
「‥‥‥‥‥‥‥‥ちなみに他には?」
「もちろん、吹雪さんや恵梨香さん達との定期交流会のネタに‥‥‥‥」
そこまで言ったところで女神は自ら話すことをやめた。
祐介が見つめる視線の先にいる女神は額から大量の汗を流している。
「お前ら最近こそこそと何かやってると思ったら‥‥‥‥そんなことを‥‥‥‥」
「それよりも則之さんを追わなくてもいいんですか? ほら、行っちゃいますよ」
女神と雑談をしている間にも則之はどんどん先へ進んでいく。
それを見て祐介達も慌てて則之を追いかけた。
「お前のせいで見失う所だったんだぞ」
「見失ってないんですからいいじゃないですか。祐介さんは懐や交友関係だけでなく心まで狭いんですね」
「心から友と呼べる親友がいなさそうなお前には言われたくないわ」
「私はちゃんと親友って呼べるぐらいの友達ぐらいいますーー。祐介さんとはちーーがーーいーーまーーすーー」
「こいつむかつく」
女神と憎まれ口を叩きながらも祐介達は則之の追跡を続ける。
この時莉奈と別れてから30分以上の時間が経つが、則之が歩みを止める気配は見せない。
「ところで則之さんはどうしてこんな所にいるんですか?」
「さぁ、それは俺にもわからない」
祐介は則之の行動について考えるが何も思いつかなかった。
この住宅街を抜けると工業地帯しかない。
その場所は転生前に祐介も何度か来た所である。
昼間はサラリーマンが歩くオフィス街だが、夜はゴロツキが歩く無法地帯とかしていたことを祐介は覚えている。
そのため祐介も極力夜は近づかないようにしていた。
「あっ、則之さんが入っていきますよ」
「ここは確か‥‥」
則之は周りを見渡し誰もいないのを確認すると古臭い工場の中へと入っていく。
その場所は現在使われていない廃工場であった。
「ここに則之さんがいるんですね。早速突撃しましょう」
「バカ野郎。ここはちょっと待て」
意気揚々と廃工場の中へと入ろうとする女神を祐介は首根っこを捕まえて静止した。
「何なんですか? 友人がピンチなんですよ。助けに行かないと‥‥」
「今俺達が中に入った所でどうする? 捕まるのがオチだろうが」
祐介が心配をしているのは廃工場の中にいる人の人数がわからないことだった。
人数が5人ぐらいなら逃げられる自信はあるが、10人以上だと必然的に戦闘に発展することになってしまう。
それに工場内にいる人がMT持ちのギャングやヤクザだった場合、自前のMTを持ち合わせていない祐介の力ではどうにもならない。
なのでMTも何も持っていない今の段階では突入が危険だと祐介は冷静に判断した。
「それにお前がいう女神パワーとやらはどうなんだよ? こっちの世界でもその力は発揮できるのか?」
「発揮できますよ。バカにしないで下さい。素人童貞の変態鬼畜元ニートである祐介さんとは違いますから」
「‥‥‥‥ちなみにだがお前の力はMT使わないと発揮しないとかいうオチじゃないよな?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「図星か」
額に汗をうかべる女神を尻目に祐介はため息をついた。
「とにかくまずは自分達の安全の確保からだ。則之もこの短期間でどうということにはならない」
祐介がここまで自信が持てるには理由がある。
転生前も則之がおかしな行動を取っていた時期があり、その行動は体育祭直前だったことを祐介は記憶している。
「莉奈さんの時とは違い、ずいぶん薄情なんですね」
「薄情じゃないよ。根拠はある。それに莉奈の時は咄嗟だったから。莉奈達が絡まれていたのは俺の記憶にはないし‥‥」
「なるほど体だけでなくついには記憶までおかしくなりましたか。さすが名誉ダメニートだった屑介さんですね」
「そういうお前はチート能力も満足に与えることが出来ないエセ女神じゃないか」
「むかっ、いいでしょう。今この時あなたの体に私がエリート女神だということを刻み付けてあげますよ」
「上等だ。その肩書きが張りぼてだってことを今に見せてやる」
こうして廃工場の外では2人の不毛な争いが続けられた。
2人がこの後見回りに来た不良達に見つかり、工業地帯を逃げ回ることになるのは別の話である。
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