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武家の嗜み  作者: 澪亜
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私と王子と

本日2話目の更新です

休暇を前に、必ず受講している全教科の試験を受ける期間がある。

そこで合格点をもらえないことは、勿論不名誉なこと。


……とは言え、試験対策を皆が積極的にしている訳ではない。

特に淑女科については、この国の貴族であれば授業で行うことは既に知っていることが大半なので、あくせくと勉強する必要がないからだ。


せいぜい勉強したとしても、サッと前日に授業の復習をする程度。

試験が終わり、私は独り庭園を歩いていた。

シャリアは明日の苦手教科の試験のために復習をしておきたいと、先に戻っている。


「……どうして、こちらに? 殿下」


人の気配を感じて、私は後ろを振り返る。

彼は逃げも隠れもせず、ただそこに立っていた。


「少し、そなたと話してみたいと思って」


「左様でございますか。……このまま、こちらで宜しいでしょうか?」


まさか殿下と二人きりになれる筈もなく、せめて青空の下でと考えての提案だ。


「ああ、無論。……幸いなことに今は試験期間中故、人通りも少ないしな」


「それで、殿下。一体、どのような御用件でしょうか?」


「……そなたのことは、母上の命で観察をしていた」


何の準備も心得もないままに放たれた重要な話に、私は気持ちを入れ替える。


「いや……観察では語弊があるな。お前と親しくなるように命じられ、私はそなたのことを観察しておったのだ」


「私と、親しくなるように……ですか。して、観察の結果は如何でしたか?」


私の問いかけに、一瞬彼は呆けたように目を丸め……そして笑った。


「観察の結果か……その真意は聞かないのか?」


「そうですわね……観察の結果を伺えば、何を目的として観察をされていたのか分るかと愚考しまして」


「そうだな。……そなたと私は、きっと合わないだろう。母上はいたくそなたを気に入っておったが、な。第一、ルイとそなたの普段からの仲睦まじい様を見ていたらとてもではないが、そなたとどうこうなろうとは思えん。……母上には、真実アルメリア公爵家を敵に回してまでそなたと結ばせたいのかと説得する」


「まあ……なるほど。つまり、父上の名が後ろにある私を、王家に迎え入れたいと考えていた。そういうことですわね?」


「恐らく……平たく言えば、そういうことだ」


「……ですが、よろしいので?私にそのように正直にお話になって」


「お前は、私の妻となって王妃の座を求めるようなことはないだろう?」


「ええ、ええ。仰る通りでございます」


「むしろ、正直に話して信頼を得た方が得策だと考えた。……ガゼル将軍の息女であり、アルメリア公爵家に嫁ぐそなたと良い関係を築くことは、次期王の私にとって必要なことであろう、とな」


「なるほど。あくまで女王陛下のお考えであり、殿下のご意思ではないと……」


ルイと私の仲を引き裂こうという考えに、一瞬怒りが湧いたが……感情に流されてはならないと気持ちを落ち着けさせた。

ついで、頭の中で状況を整理する。


女王陛下は恐らく父の名を最大限利用しようと、私と婚約者のいない殿下を結ばせようと考えた。

私とアルメリア公爵家が婚約していると知っていながら、だ。


殿下と私が親交深めれば、あるいは……とでも思ったのだろうか。

全く、私の恋心を軽く見過ぎだろう。

……殿下の意思はそこになかったのだと、今は信じるより他ない。

何せこの話は、殿下が私に話した時点で破綻しているのだから。


「ああ」


「左様でございますか。……過分なご評価、ありがとうございます。殿下のご期待に添えますよう、今後とも精進して参りますわ」


「そう言ってくれると、助かるな」


「……して、殿下。もう二つだけ、伺っても宜しいでしょうか?」


「何だ?」


「殿下と私が合わないと思った理由は、何でしょうか?」


私の問いかけに、ニヤリと殿下はまるで悪戯っ子のような笑みを浮かべた。


「……そなたと私は、似ているのだ」


「似ている、ですか」


「ああ。人は動と静、あるいは攻と守に大別できると考えているのだが……私は、極端な攻であろう。自ら考え、行動する……そう育てられてきたというのもあるが、割と考えるより矢面に立って行動に移すタイプだ。そして、お前もどちらかと言えばそうだろう? 家に座して家を守るよりも、家を出て積極的に敵を狩りに行きそうだ。動と動の同じタイプは朋友としては意見を戦わせるという面で良いかもしれんが、伴侶として共に歩むのは……な」


「なるほど……殿下が王となった暁には、恐らく多くの意見を束ねなければならない筈。であれば、殿下が殊更にそれを願うのも分かるような気が致します。ですが……積極的に敵を狩りに行きそうだというのは、中々淑女に対して言うのはどうかと思いますよ?」


「言葉の綾だ。まさかそなたが本当に敵を攻撃しに行くとは思っておらん。ただ、その豪胆さは流石ガゼル将軍のご息女よと思ったまでのこと」


……今の言葉から、私がまさか剣を持って戦う者だとは思っていないことを察して内心ホッと安心する。


「ほほほ……言葉の綾だとしても、女性は丁寧に扱っていただきたいものなのですよ」


「それもそうか……失敬。であれば特別に、もう一つ質問はどのようなものでも応えても良いぞ」


「え?あ、ああ……先ほど私が申した二つの質問の内の一つですね。ですが、殿下。恐れながら進言させていただきますが、何でもというのは軽々しく仰っるのはどうかと……」


「何、そなたであれば変なことは言わんと考えた上でのこと」


「左様でございますか。……もう一つは、一人の女性ではなく一人の国の民としてお伺いさせていただきたいこと。果たして殿下は、既に意中の方が?」


「それを聞いて、如何とする?」


「興味本位でございます。……何やら、殿下には既に欲しいモノがおありのようでございましたので」


私の言葉に、エドガー王子は声を出して笑った。


「よくぞ、見ていたものだ。……ああ、私にはいるよ。欲しいモノが」


そっと、私の耳に顔を近づけ小さな声で囁く。


「まあ……!」


「だが、他言無用だ」


「勿論にございます。……殿下の婚姻はこの国の最重要事項の一つでありますれば、殿下も殊更に気を使って話を進めていることでしょう。私は微力で何ら手伝うことはできませんが、武運を祈念致します」


そう言いつつ、私は距離を取って礼をした。

それは、王に対する臣下の礼だ。


「ああ。……時間を取らせたな」


「いえ。では、私はこれにて失礼致します」


そして私は、その場を離れて出て行った。



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