私と親友と
先輩がたの呼び出しをあしらい、寮に戻って来た。
談話室のソファーにゆったりと腰掛け、カフェテリアでいただいたお茶を飲む。
大変失礼ながら、全くもって歯ごたえがなかった。
……そもそも、馬鹿正直に他者の視線ある教室で呼び出しをしている時点で何となくそんな気はしていた。
オーレリア様から聞いていた女性同士の戦いというのは、もっと狡猾でドロドロとしたものだったのだが。
それにしても、と目を瞑りつつ思考の波に身を委ねる。
やはり、ルイは女性に人気のようだ……パッと出の婚約者が気に喰わないほどには。
それもそうだろう……実家の権勢・財力そして彼自身の器量を考えれば。
今後は先輩がたのように馬鹿正直に来てくれるような、そんなありがたい人ばかりが相手ではないだろう。
それこそオーレリア様が仰っていたような、もっと狡猾な手を使う人が現れる可能性だとてある。
「……逃げるつもりは、ないけれども」
思わず内心の言葉を呟いてしまい、私は目を開けた。
……どうやら幸いにも、私の言葉を聞いた人はいないらしい。
「メルリス様、今宜しいでしょうか?」
けれども安堵した途端、シャリア様に声をかけられた。
「え……え、ええ。いかがされました? シャリア様」
「ありがとうございます。少々込み入った話をさせていただきたいのですが……」
「それでは、私の部屋は如何でしょう?」
「宜しいのですか?」
「ええ、勿論」
もしかして、バレたのかな……それ以外考えられないなと思いつつ、私は彼女を部屋に案内する。
「どうぞ、そちらに」
席を指し示し、私はその反対側に腰掛ける。
「それで、如何されましたか?」
「単刀直入に伺いますが……メルリス様は、メル様ですね?」
誤魔化しようがないと覚悟を決めるには十分なほどの、彼女の瞳には確信の光が宿っていた。
「……確信をお持ちになった方の問いかけは、恐ろしいですわね。どのような否定の言葉も無意味かと」
「では……?」
「ええ。ご明察の通り、私はメルでありメルリスでございます」
ほう、と息を吐きつつ答えた。
「ちなみに、いつ気がついたのでしょうか?」
「……始めから」
「始めから?」
思いもよらなかった言葉に、ついおうむ返しのように同じ言葉を返す。
「ええ。初めからです」
それに対して、彼女は悠然と笑みを浮かべていた。
「一体何故……」
「本当に、ありがとう。貴女が私たちを守ってくれたから……私は、私たちは無事なの。感謝してもしきれないわ」
あの誘拐事件の時と一字一句違わない言葉を、彼女は告げた。
「そう言った貴女様のことを、忘れる筈がありません。例え貴女様本人が影武者であったと告げようとも……あれは貴女様によく似た方ではなく貴女様本人であったと私はずっと感じていたのです」
彼女の言葉に、つい笑った。
初めて学園で話した時のあの戸惑ったような表情は、それが理由だったのか。
「それは申し訳なかったわ。そうと気がついていながら決して告げず、私の話に合わせてくれていたのね」
「いえ……恩人の方ですもの。当然のことですわ」
「ですが……それならば何故貴女は今、確認されたのですか? 先に述べた通り、確信を持っての確認は無意味なことだと言うのに」
「実は、大変恐縮ながら先ほどの先輩がたとのやり取りを拝見していたのです。……メル様に不要かとは思いましたが、心配になりまして……いざとなったら教師を呼ぼうと思いまして」
「そう……良いのよ。心配してくれてのことなのだもの。むしろ、ありがとう」
「いえ……お伝えしたいことは、そのことではないのです。私以外に、その光景を見ていた人物が一人」
「……もしかして、エドガー王子かしら?」
「よくお分りですね」
「ええ。……彼、何故か私のことを探っているようでして。王家の方に探られることなど、何もないのですけれども」
「もしかして、メル様のことをお探しに?」
「それにしたって、王家の方に探されるようなことは何もないと思うのだけど。……まあ、良いわ。それを知らせるために、わざわざ確認しに来てくれたのね。本当に、ありがとう」
「いえ」
私が礼を言うと、はにかむように優柔らかな笑みを浮かべる。
その可憐な姿に、少々私は見惚れた。
「虫の良い話だけれど、これからも親しくしてくれるかしら? 今まで私は、仲良くなりたいと言ってくれた貴女のことを騙していたようなものだけれども……」
意識を現実に引き戻し、私は提案する。
この數十分のやり取りで、私は彼女ともっと親しくなりたいと思っていた。
「騙されたなどと、全く思っておりません。むしろ、当然のことかと。……私の方こそ、貴女様の秘密を暴くような真似をしておきながら厚かましいですが……今後とも、よろしくお願い致しますわ」
そしてその日を契機に、私とシャリアは益々仲良くなった。
……授業と授業の合間には、必ず共にいるようになるほど。
彼女の前ではルイといる時と変わらず、自分を飾らずそして偽る必要がないため楽だったのだ。
実は女性の友人は、初めて。浮かれ過ぎて、早々にルイに紹介したほど。
「それにしても、メルリス。……結局殿下のお考えは何だったのかしらね」
「あれから結構時が経っているけれども、全く動きがなくて……正直、お手上げ」
「そう……」
「そう言えば、シャリアは休暇中はどうするの?」
「領地まで帰るのは億劫だから、王都の別邸で過ごそうかと思っているけれども?」
「まあ、本当!? ならば、休暇中も会えるわね。私も、ずっと王都にいる予定だから」
「楽しみ! ずっと行きたかったカフェがあるのだけれども、貴女となら何の心配もなく一緒に行けるわね」
「……そう言うことでしたら、お任せください。お嬢様のことを、守ってみせますわ」
「ふふ……まるで、どこかの貴公子ね。いえ、そこいらの方など目じゃないほどカッコいいわ」
「光栄の至りです」
そんな会話で、私たちは盛大に笑い合った。




