私と彼の逢瀬
本日6話目の投稿です
学園に入学したら、ルイとももっと会えるかななどと淡い期待を抱いていたが、何とも甘い考えだったと、入学して早々に思い知らされた。
そもそもで、ルイは学年が違う。
おまけに生徒会の仕事もあるようだし、ロメル様の補佐をしている関係で学園を不在にしていることも多いため、中々予定が合わない。
オマケに男子寮に女性が訪れることは禁じられているし、その逆も然り。
違う学年の教室を訪れてゆっくりすることなんてできないし、そうなると会えるのは空いた時間に礼拝堂の逆側にある庭園に待ち合わせをするぐらいだ。
期待が外れただけに最初はかなりショックを受けたが、けれども逆に会えない時間が長ければ長いほど会えた時の喜びは大きくなる。
というわけで、庭園でルイと会えた今、私の期限は最高に良い。
「……と、そろそろ行かないと」
尤も、会えたところで長くは一緒にいられないのだけれども。
「まあ……そう。もう少し、一緒にいたかったのだけど」
「あまりそう言ってくれるな」
困ったような笑みを浮かべる彼に、申し訳なくなって俯いた。
「……また、会おう」
そっと、彼が私の頰にキスを落とした。
私も、彼の頰にキスを送る。
「ええ。……でも、途中まで貴方とご一緒しても?」
「勿論。学習棟までの短い道のりだが、共に来てくれたら嬉しいな」
彼の差し出す手を取り、横を歩く。
「……メルリス様、こ、こんにちは」
「御機嫌よう、ルード様」
「あ……メルリス様。御機嫌麗しゅう」
「御機嫌よう、ベリル様」
通りすがら挨拶をしてくるクラスメイト達に、それぞれ挨拶を返す。
「……随分と慕われているんだな」
四、五回それを繰り返したところで、ルイがポツリと呟いた。
彼にしては珍しく、少し苛立ちを滲ませたような低い声。
けれども、それとは反対に私の心は弾む。
……その苛立ちの根底にある感情を考えれば、嬉しくて仕方なかったのだ。
彼の苛立ちが深ければ深いほど、彼の愛を感じて。
「ただの挨拶よ? ……皆、クラスメイトだもの」
私もまた、彼が女性と話している姿を見るだけで心に黒い靄が広がる。
自分でも重症だなと思いつつ、けれどもその靄は私の意思とは関係なく生まれるのだ。
……勿論、それを表に出すことはしない。
女性と話すな、他の女性を見るななど到底無理な話なのだから。
彼の行動を阻害し、彼の夢への道を邪魔したくはない……その一心で、その靄を捩伏せているだけ。
本心では、彼を私でイッパイにしたいと……溺れるぐらい私で満たしてしまいたいという欲に捕らえられている。
……だから、こそ。
彼が私と同じ気持ちを持つこと感じ取って、殊更に嬉しいのかもしれない。
「それに、貴方以外の殿方に私が興味を持つとでも? ……本当の私を知ったら恐れて離れていきそうな彼らを」
私の言葉に、彼は小さく息を吐く。
「……すまん。狭量だったな」
「いいえ。むしろ嬉しかったわ」
「そうか」
彼の苦笑いは、そんな私の浅ましい気持ちを感じ取ってのものなのかもしれない。
けれども彼はそれ以上言わずに、再度私の頰にキスを落とした。
「ここまで、だな。………また、会おう」
「ええ、ルイ。御機嫌よう」
彼の背中を見送った後、私も教室に戻ろうと歩き始めた時のことだった。
「……メルリス様、少々宜しいでしょうか?」
三人の女子生徒に、声をかけられたのは。
彼女たちの顔に、見覚えがない……恐らく上級生だろう。
「申し訳ございませんが、私、これから授業がありますの。御用は、授業が終わってからでも?」
「………貴女、上級生の言うことが聞けないとでも?」
「お誘いするのに、相手の予定を考慮しないことが先輩のなさることなのですか?」
暗に上級生のクセに品のない誘いだと言ったその意味を正しく理解したのか、彼女たちは更に怒ったような表情を浮かべていた。
「授業が終わりましたら、再度お誘いくださいませ。その時は、お受け致しますから」
少し楽しそうなことになりそうだ、だなんて不謹慎なことを思いつつその場を後にした。
彼女たちから離れ、角を曲がったところで足を止める。
先ほどから感じていた視線の主を、確かめるために。
私を追ってその人物が曲がって来たところで、狙い通り止まっていた私とぶつかる。
「まあ……殿下。申し訳ごさいません」
その監視していた人物は、意外にもエドガー王子だった。
「いや……こちらこそ、すまん」
そっと、距離を取る。
……一体彼は何故、私の後を付けていたのだろうか。
「……あいつらと、対峙するつもりか?」
その疑問を彼にどう悟らせずに聞き出そうかと考えていたら、まさか彼から切り出してくれるとは。
「まあ、殿下。まさか先ほどの会話をお聞きになっていたのですか?」
分かっていながら、あえて問いかける。
「……たまたま通りがかってな」
彼は少し目線を外した。
……本人も苦しい言い訳だと思っているのだろう。何せ彼女たちに声をかけられたこの階は、基本淑女科の授業を行う教室が並んでいるのだから。
「対峙などと、大袈裟な……。単にお誘いを受けるだけですわ」
あえてそれを追求せず、話を戻す。
「三対一で、よくそのように余裕でいられるな」
「余裕も何も……純粋に、彼女たちがどのようなことをお話しになりたいのか気になりますので。それに、三対一など……まさか先輩がたが野蛮なことをされるとは思えませんし。やはり、少々大袈裟では?」
「普通の女性は、呼び出されたというだけで怯えるものでは?」
「まあ……殿下。お戯れを。よもや私の口から社交界での女性というモノを口にせよと?」
私の問いかけに、エドガー王子は一瞬たじろいだ。
「ただ、一言申し添えさせていただきますと……世の殿方が見ている『女性』は、ほんの一面に過ぎないということでしょうか」
エドガー王子は何かを言いかけて、けれども止めた。
「それでは、殿下。御機嫌よう」
そのまま更に何かを言われる前に、私はその場を離れた。




