私とライバルと
本日4話目です
家に帰ると、訓練着に着替えて訓練に参加する。
勿論、ここ最近日常となったアンナとエナリーヌへの指導も共に行う。
「……それでは、メルさん。よろしくお願い致します」
ちょうど二人への指導が終わった時に、エイベルさんが訓練場に上がって来た。
柔らかく親しみ易い雰囲気と人当たりの良い笑みは、剣を持つ者の独特の鋭さを感じさせない。
気の良いお兄さん、といった感じだ。
実際彼はこの訓練場の諸先輩がたに可愛がられているし、あまり接点のない筈のアンナとエナリーヌもどうやら彼とは良い関係を築いているようだった。
「ええ、こちらこそ」
けれどもそれに騙されて、戦いにおいて油断してはならないと私は内心笑う。
彼の力量は、恐らく頭一つどころではなく二つ三つ飛び抜けているのだろうから。
彼が正面に立つと、私は剣を構えた。
彼も同じく、無言で剣を構える。
先ほどまでの柔らかな雰囲気は霧散し、代わりに視線は鋭くなったいた。
少しの間互いに動かず、暫く相手の出方を伺う。
ジリ……と少し足を僅かに動かした際の音が耳に入って来た。
瞬間、私は動き出す。
それと同時に、彼も動き出していた。
ガキン……と、剣と剣が交差する。
つい楽しくて口角が上がってしまうのを感じていたが、剣越しに見える彼の表情もまた同様に笑みを浮かべていた。
無理にその体勢を維持せず、私は剣と共に身を引いた。
そしてまた、一瞬たりとも隙を見逃さぬよう互いに相手の出方を伺う。
……私たちの闘いは、周りから見れば決して面白いそれではない。
派手な立ち回りは一切なく、剣を交じり合わせることも多くはないのだから。
彼が動いた瞬間、それに対応するように……逆にその攻撃を利用するように反撃を与えるべく私も動き出した。
数度打ち合い、不利と見て今度は彼が身を引く。
「……ストップだ、ストップ」
それを何度か繰り返した後、クロイツさんによって止められた。
「ホラ、そろそろ終わりの時間だぞ。撤収の準備を始めろよ」
クロイツさんの声で動きを止めた私たちは、互いに苦笑しつつ一礼をする。
「ありがとうごがいます、メルさん」
「こちらこそ、ありがとうございました。エイベルさん」
訓練場から降りつつ、私たちはそれぞれタオルで汗を拭っていた。
「そういえば、エイベルさんはいつまで第一師団に? 確か期間限定での所属でしたよね?」
「あー……それが実は、とっくに見習い期間は終わっているんですよ。なので本来はこちらの訓練の参加も遠慮しないといけないのでしょうけど……」
頰をかきつつ、彼は苦笑を浮かべる。
「皆さんが、せっかく腕を上げたのだから鈍らせないように参加した方が良いと誘ってくださっていまして。本来の業務もあるので頻繁にとは来れませんが、いただいた機会ですのでなるべく参加させていただいているんです」
過分な評価をいただいて恐縮です、と笑って言葉を〆た。
こうして接していると、本当にただの気の良いお兄さんという感じなのだが……本当に戦っている時とは違うものだと私も笑ってしまう。
「本来この訓練はどなたも参加できるという趣旨のもの……皆さんが認めていらっしゃるのであれば、何ら引け目に感じることはないのですよ。ですがそれにしても本来の仕事もあってお忙しいというのに……大変でしょう?」
「いいえ、そんなことないですよ。現在の所属部署は繁忙期を外しておけば、あとは割と自由にできますので」
「へえ、そうなんですか。同じ国軍でも、部署によって随分と異なるのですね」
「ええ、そうなんです」
周りを見れば、帰り支度を終えた者から少しずつ訓練場を後にし始めている。
人が少なくなればなるほど、訓練によって熱くなり過ぎた空気が少しずつ冷めていくような気がした。
汗を拭っていたタオルを適当に折りたたむと、視線を再びエイベルさんに向ける。
「またいらした時には、是非声をかけてくださいませ。それまでにしっかりと訓練をしておきますので」
「ええ、勿論。……メルさんが訓練をされるのであれば、僕もこれ以上差をつけられないように自主練に励まなければなりませんね」
「まあ、ご謙遜を。……それでは、そろそろ私は失礼致します」
「はい。では、また次の訓練で」
そして私はエイベルさんを残して、アンナとエナリーヌと共にその場を後にした。




