私とお義母様と社交界デビュー
本日3話目です
「合格です、メルリスさん」
月日が流れ、私の学園の入学まで一年を切っていた。
とは言え、準備は早々に終わっていたので特段それに向けて何かをする必要もなく、私はいつも通りレッスンを受けていた。
そして突然、オーレリア様がそんなことを仰ったのだ。
「……オーレリア様、合格とは?」
軽く首を傾げつつ、問う。
「まあ……メルリスさん。勿論、貴女のレッスンの成果に対してですよ」
コロコロと、オーレリア様は楽しそうに笑っていた。
……オーレリア様がこんなに楽しそうに笑っていらっしゃるところを、初めて見た気がする。
「もうどこに出しても恥ずかしくないほど、貴女の淑女の嗜みは完璧です。……よく、頑張りましたね」
優しさが滲み出ているその笑みに、私もまた自然と笑みが浮かんだ。
「ありがとうございます、オーレリア様」
「礼は不要ですよ。未来の義娘のためですもの。……何より、貴女の頑張りがあったからこそです。もう一度言いますが、よく頑張りましたね」
「オーレリア様の導きがあったからこそです。……それに、ルイが隣にいてくれましたし」
「まあ……本当に仲睦まじいわね」
クスクスとオーレリア様は笑っていらっしゃった。
「学園への入学の準備はいいですか?」
「それについては、もう終わっております」
「そうですか。……それであれば、何の憂いもなく貴女のデビューの準備に集中できますね」
「デビュー、ですか」
ついに来たか、と僅かに心が重くなる。
社交界へのデビューは、最終的には各家の判断に委ねているものの、十二から十八歳の間で果たすとされている。
その中でも十四・十五歳でデビューする人が多いということなので、標準的な年でのデビューだ。
「今から準備を進めて、学園の入学前ギリギリと言ったところでしょうか。まずは、仕立て屋を呼んでおりますので、今から採寸とドレスの準備を始めましょう」
「え、今からですか?」
と言うか、この流れだとアルメリア公爵家で準備して貰ってしまう流れになりそうだ。
……我が家は男性しかいないので、オーレリア様に見立てて貰えるというのは大変ありがたいのだが。
「ええ、そうですよ」
パンパンと、オーレリア様が手を叩く。
それから間もなく、アルフに連れられて女性が一人部屋に入って来た。
「この方はマダム・クレジュール。私が懇意にしている仕立て屋よ」
オーレリア様の紹介に、クレジュールは頭を下げる。
「では、クレジュール。彼女の採寸を、お願いしますね」
それから、クレジュールは私の側に立ってあちらこちらと採寸し始めた。
手際良くして下さったおかげで、思ったよりも時間がかからずに終わった。
「オーレリア様。ドレスのデザインについて、何かご希望はございますでしょうか」
「そうねぇ……マダムはどのような色が彼女に似合うと思うかしら?」
「難しいですね。……色がとてもお白いので、どのような色も着こなせてしまいそうですね。ですがせっかくのデビューであれば、若さを活かして淡い色などどうでしょう?」
そう言って、クレジュールがいくつか布のサンプルを取り出す。
促されて私は立つと、その布を肩にかけるようにして当てた。
幾つもあるそれを、順々にかけられては外されを繰り返す。
「まあ……どれも素敵ですね。メルリスさん、好みの色はございまして?」
オーレリア様の問いかけに、私は内心悩む。
幾つもの種類があり、甲乙つけ難いというのが正直なところだった。
「……クレジュール、そちらは?」
広げられた布を見回していた時、ふと、出されていない布が気になって指差す。
「ああ……こちらは、まだ染める前のものでして。誤って、持って来てしまったのです」
真白の布。それが、妙に私の琴線に触れた。
「この布が良いです」
「こちらですか?」
少し困惑しつつも、クレジュールは私にそれを当てた。
「それならば、腰の切り返しで水色の薄衣を重ねるのはどうかしら?そう、そこを絞ってその布を当てて……」
オーレリア様が、クレジュールに指示を出す。
クレジュールはそれを忠実に再現していた。
「まあ! 素敵ですわ」
次第に形作られるそれに、クレジュールも喜色を顕にする。
「それでしたら、オーレリア様。裾のところに銀糸で刺繍を施すのはいかがでしょうか? 細かなダイアモンドを縫い付けて」
「それは良いですね」
「それから、白布はあえて細身に薄衣の方を重ねて……動くたびに白布が僅かに見えるような形にするのはいかがでしょうか? このような形に」
「そうね、その方が素敵だわ。サッシュもあえて白色にして……そう、そのような形ね」
……そうして、クレジュールとオーレリア様の白熱した議論の末私のドレスは決まっていった。
「それでは、私はこれから仕立てに入ります。今後も、よろしくお願い致します」
クレジュールはドレスが決まると、満足そうに去って行った。
……私はと言えばオーレリア様の珍しい熱中具合に圧倒され、終わった頃には少し疲れて椅子に腰掛けていた。
疲労を感じていても、勿論姿勢を崩すことなどしていないが。
「ごめんなさいね、メルリスさん。私、娘とドレスを選ぶということをしてみたくって。ついつい、はしゃいでしまいましたわ」
オーレリア様はそう言いながら苦笑を漏らしていた。
「いいえ。オーレリア様に監修いただき、安心してデビューを迎えることができます。ありがとうございます」
「そう言ってもらえて、良かったわ。後は小物類だけど……これは、ドレスの仕立てが進んでから合わせていきましょう」
「はい。そう致します」
「ふふふ、今から楽しみだわ。可愛い娘……それも手塩をかけた教え子でもある貴女がデビューを迎えるのですもの」
嬉しそうに、目を細めて笑みを浮かべていた。
「勿体ないお言葉です、オーレリア様」
胸の中に、温かいものが流れ込む心地がする。
私のことを、オーレリア様が自分の娘のように思ってくださっているその事実に。
それと同時に、今は亡きお母様とオーレリア様を重ねて。
……もしもお母様が生きていらっしゃったら、オーレリア様のように私のデビューに心弾ませてくださっただろうか。
きっと、そうだと思う。
オーレリア様は私の内心を読んで同意するかのように、一層笑みを深めていた。




