私の軌跡 参
内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、これまでの部分についても細かいところを変えています。大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。(12月3日更新二話目です)
※ダイジェスト化は、ございません。
……体力作りと素振りだけの毎日を過ごすようになって、どれぐらい過ぎただろうか。
私の素振りを見たお父様が突然、『見ていろ』と言って私の前に立った。
ずっと見ているだけで何にも指示を出さなかったのに、急にどうしたのだろうか?
その問いを口にする前に、お父様は自ら型をなぞり始めた。
見て覚えろということなのか。
色んな疑問が置き去りにされたけれども、頭を切り替えて目の前の動きに集中する。
一挙一動、お父様の動きを目に焼き付けるように瞬きも忘れて見た。
「練習しろ」
そう言い捨てて、お父様の実演は終わった。
一人残された私は、目に焼き付けたものを思い出しながら、何度も自身で動く。
……けれども、中々思うようにいかない。
頭の中にあるイメージに、身体がついていかないのだ。
ぎこちなさと甘さが目立って、そんな自分の動きに自身で腹を立てる。
何故、できないの…!?という、もどかしさで。
多分、自分の目指す動きのイメージができているからこそ、よりもどかしく感じるのだろう。
それから毎日の訓練メニューに型をなぞることが加わったのは、言うまでもない。
「……つ」
また、マメが潰れた。
見れば、手のひらの紅に木刀の持ち手のところが少しばかり染まっている。
私は置いてあった手拭いを破ると、それを手のひらに巻きつけた。
……痛くなんか、ない。
……辛くなんか、ない。
本当に痛いということを、本当に辛いということを……私は知っているのだから。
目に見える傷は、治る。
本当に恐ろしいのは……目には見えない、傷だ。
むしろこの痛みは……この辛さは、私の中に渦巻く激しい憎しみを、より燃え上がらせてくれる。
だから、私は止めない。止められない。
そうして私は、素振りを再開させた。
そんな訓練を、ひたすら繰り返す。
教えられたそれをなぞって一通り身体に染み込ませた頃、お兄様と模擬戦をするようになった。
模擬戦と言っても、軽く打ちあうぐらいの可愛らしいそれ。
けれども型を更に身体に叩き込むには、もってこいだった。
一人でやるのと、誰かを相手にするのとではやはり違う。
どちらも強くなるためには必要な訓練だと、やりながらそう感じた。
そのため、お兄様の打ち合いと並行してそれまでの訓練も勿論行っていった。
「はあ、はあ……っ!」
額から溢れ落ちる汗を、私は手で拭った。
そしてそのまま手のひらに、視線を落とす。
この頃には手のひらにマメができにくくなっていて、代わりに固くゴツゴツとした……とても女の子の手ではないようなそれになっていた。
今までの鍛錬が形になって現れているようで、純粋に嬉しい。
ニンマリ仄暗い笑みを浮かべつつ前に視線を向ければ、目の前にいるお兄様は疲れ切っているのか座り込んでいる。
私もまた、膝に重心を預けるかのように片手をそこに置いて荒い呼吸を繰り返していた。
「メリー。次は儂と打ち合うぞ」
いつの間にか現れたお父様が、突然そんなことを言い始める。
その言葉に、一瞬ポカンと呆けてしまった。
けれども次の瞬間にはその言葉を理解して、私はつい笑う。
やっとだ。
やっと、お父様と打ち合うほどまでには認めていただけたのだと。
感じたことのない充足感と、嬉しさ。
そして少しの、緊張と恐れ。
「よろしくお願いします……!」
そうして、今度はお父様と一対一での模擬戦が始まった。
お父様は手加減をしていてくれたのかもしれないけれども、私からしたら容赦のない打ち筋だった。
「どうした、そんなものか?」
倒れ込む私を、お父様が見下ろす。
……全然、届かなかった。
少しは強くなったと思ったのに、お父様を前にすると余りにも無力。
正直、悔しい。
私は地べたに這い蹲りながら、お父様を見上げた。
お父様と私の間には、歴然とした差がある。
それは、経験もそうだし強さも速さも何もかもが足りていない。
ならば、それを埋めるナニカを私は生みださなければならない。
……お父様ですら、現実の理不尽に大切なモノを失ったのだ。
ならば、私はどれだけ強くなれば良い?
どれだけ強くなれば、私は私の望みを叶えられる?
……分からない。
けれども、少なくとも今、こうしてお父様に見下ろされているようではまだまだだ。
私は震える手で地面を押すと、再び立ち上がる。
「まだまだ、です」
そうして、私は再びお父様と打ち合った。




