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武家の嗜み  作者: 澪亜
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婚約者と義父の密談

「……父上。リンメル公国の調査はその後どうなりましたか?」


「ああ……なかなか脇が固くて厳しいもんさ」


ふう、と息を吐きつつ書類をバサリと机に放る。

俺はそれを手に取ると、パラパラと見た。


「穏健派と強硬派……それぞれの内情を引き続き調査しつつ、接触を図っているところですね」


「まあな……。だが、どちらの派閥も警戒心が強くて参っちまうな。やっぱり権力闘争に明け暮れているっていうお国柄かねえ……」


リンメル公国……それは、タスメリア王国の北部そしてトワイル国の東部にそれぞれに隣接する国だ。


「今のところ、強硬派……領土拡大を主張する一派は上層部の一部。リンメル公国内の権力闘争で敗れいれば、この国の脅威もなくなるでしょう」

「ああ、その線で工作ができるよう強硬派の弱みを優先的に調査させているよ。……だが、万が一ということもある。状況が変われば、あっという間に戦いに突き進むのが戦争さ」


「それは、トワイル国との戦を指していますか? ……確かにあの戦争はトワイル国の不作を引き金に、あっという間に始まってしまいましたが……リンメル公国はトワイル国と同じくこのタスメリア王国の北部に位置しつつも、土壌が良いからか穀物類の生産量は安定していると伺っています。一体、状況が変わるというのはどのような事を想定していますか?」


「まあ、自分でも考え過ぎだとは思っているが。……お前さん、権力闘争によって割れた国を一つにまとめるお手軽かつ効果的な方法を知っているか?」


父上の言葉に俺はは一瞬考えてから、口を開く。


「……共通の敵を作ること、ですか」


「そういうことだ。まあ……権力闘争は表面化に至っていない上、この国には英雄様がいるからな。単なる考え過ぎっていう可能性が高いけどな。……それはさて置き、お前さんこそ傭兵の件、進んでいるのか?」


「進んでいる……と言うよりも、動きがありません。先般お伝えした通り、アンダーソン侯爵家の領地に集まった奴らは依然アンダーソン侯爵家に留まったままです」


「なるほど、な」


「だから、だったのですか?」


「……何だ?」


俺の質問に、鋭い視線を父上は向けた。


「メリーとの婚約を仕向けた理由ですよ。アルメリア公爵家に嫁げば標的から外れ、戦からも遠ざけることができるかもしれない……と」


「お前さんの初恋だったんだろう? 父として、その手助けをしただけさ」


「……父上が、そんなお優しい性格をしているとは知りませんでしたね」


「馬鹿。俺は優しいぞ? その証拠に、可愛い可愛い息子をおちょくりたくて仕方ないんだ」


楽しそうに笑う父上に呆れつつも、口を開く。


「まあ、良いです。確かに優しい性格ですね。……親友に対しては」


「ははは……まあな。尤もあの嬢ちゃんなら、戦に巻き込まれても大丈夫だったかもしれねえがな」


「冗談を言わないでください。確かに、彼女は強い。だが……それ故に先頭を切って駆け抜け、他者を守ろうとその両手を精一杯広げようとする。そんな、酷く危うい強さなんです」


「何だ、本当に惚れているんだなあ」


そのしみじみとした父上の感想に、顔が熱くなるのを感じた。

やがて、取り繕うように咳を一回する。

そんな俺の姿を、父上はニマニマと笑って見ていた。


「……それで? ガゼル殿は何と?」


「殺したくない、だとさ」


大きな溜息を吐きつつ、父上は答える。


「まさか、父上はそれを容認されたのですか?!」


「仕方ねえだろう。それ程の気迫だったんだよ。無闇に手を出したら、味方の筈の俺の方が噛みつかれそうなほどの……な」


「しかし、それでは……」


「無論、もしも奴が動いたら勝手にこちらも行動すると伝えている。……ルイ、どんな情報も見逃すな。お前の嫁の実家を、守りたいならな」

「元より、そのつもりです」


「……だろうな。リンメル公国の方は引き続き俺の方で探らせる。……今度こそ、戦火からこの国を守るぞ。ルイ」


「ええ」


その後、俺はその部屋から退出した。

部屋を出ると、さっさと自らの部屋に戻る。

そして、自分に与えられた席にドカリと座った。


「……随分とお疲れのようですね、ルイ様」


側仕えの男が、そんな俺の様子に苦笑しつつ声をかける。


「そう見えるか? ……なら、俺もまだまだだな」


「お厳しいことで」


そっと青年が茶を注ぎ、それを俺の前に置いた。


「……俺は、お前の方こそ厳しいと思うが? 特に、自分に対して……な」


「そんなことありませんよ。どうやら、私はまだまだのようでしたから」


苦笑しつつも、どこか楽しげに青年が喋る。


「へぇ……興味があるな。お前がそう思い至ったキッカケに」


「別に、特段大きな出来事があった訳ではありません。……世界は広いのだと言うことを、改めて知っただけです」


何かを考えるように一瞬目を伏せつつ、俺は注がれたお茶を飲んだ。

けれどもすぐに、視線を戻す。


「……。まあ、良い。少し一人にしてくれないか? ベルン」


「畏まりました。それでは、失礼致します」



青年の退出していく様を見送ると、徐に書類に目を通し始めたのだった。



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