彼の問いかけ
本日4話目の投稿です
涙を流しているせいで、視界がボヤけていた。
けれども、慣れた道を走ることにそれは障害にならない。
走って、走って、走って。
そうして辿り着いたのは通い慣れた塔だった。
思えば、辛い時にはいつもここに来ている。
自分では抱えられないほどの苦しい思いに苛まれた時に思い浮かぶのは、いつだってここなのだ。
私は階段を駆け上がり、天辺を目指す。
一番高いところ……街の全てを見渡せるそこにたどり着いた時、私はすぐ様彼の姿を探した。
けれども、彼……ルイの姿はそこにはなかった。
そんな都合よく現れることはないか……と、その場にへたり込みそうになった時。
「お前も来ていたのか、メル。久しぶりだな」
瞬間、私は振り返る。
「ルイ……」
彼は私の顔を見て、僅かに驚いたような表情を浮かべていた。
「どうかしたのか、メル?」
その問いに、私は答えない。
否、答えられなかった。
ヨタヨタと彼の元に近づき、縋り付くようにしてわんわんと泣き出していた。
彼はそれ以上私に問いかけることなく、ただただ黙って抱き締めてくれた。
……それから、どれぐらい泣いたのだろうか。
ひたすら泣いて、泣いて、泣いて……泣き疲れて、涙は止まった。
涙と共に苦しみや怒りといった黒いモヤモヤも流してしまったようで、今の私は随分と落ち着きを取り戻している。
……けれども、今は違う意味で心がざわついていた。
感情に任せてルイに抱きついているという、その現実に。
恥ずかしくて、顔を上げることができない。
「……落ち着いたか?」
冷静な彼の声色に、益々恥ずかしさが募る。
「ご……ごめんなさい、突然……!」
「……気にしないで良い。それより、大丈夫か?」
「う、うん……泣いたら、少しスッキリしたわ……」
慌てたままそう言うと、彼はポンポンと優しく私の背中を叩いてくれた。
「まあ、落ち着け。それで、何があったのか聞いても?」
「……それは……」
私が言葉を濁すと、彼は苦笑いを浮かべる。
「言いたくないから、言わなくても良いぞ」
「……ううん」
それから私は、ルイに話した。
国軍に入ることを目指していたことを。
そして、それが不可能だと突きつけられたことを。
時折感情に任せて話す私の言葉は、時系列も何もかもめちゃくちゃで、さぞかし聞き難かったことだろう。
けれども彼は最後まで話の腰を折ることなく、静かに聞いていてくれた。
「……お前は、真っ直ぐだな」
そうして言いたいこと全てをぶちまけて、暫く無言だった私に彼が呟いたのはそんな言葉だった。
「真っ直ぐ?」
「そう。これと決めた道に一直線に進むんだな、と。そのひたむきな姿勢と懸命さを、俺は尊敬しているよ」
「う……あ、ありがとう」
まさかの褒め言葉に、私はつい言葉が詰まった。
「俺が勝手に思ったことだ。……話が脱線してしまったな。それで、国軍に入れないこと……か。その男の言葉だけで諦めるのであれば、その程度の願いだったということだ」
耳の痛い言葉に、私はつい反射的に彼を睨んだ。
そんな私の表情に、彼は苦笑いを浮かべる。
「お前には、幾つもの選択肢がある」
「……それって、単純に国軍を諦めろってこと?」
「そうじゃない。見方を変えてみろということだ。例えば……そうだな。そもそも、お前は何で国軍に入ろうと志した?お前は、何の為に武を磨いているんだ?武を極め軍で名誉を得るためか、それとも民を守る為なのか」
「それは……」
彼の疑問に、今度は私が考えるように下を見た。
「まずは、そこから考えてみろ。広い視点で、自分のことを振り返る良い機会なんじゃないか?国軍に入るのは目的だったのか、それとも、手段だったのか」
彼の問いかけに、私は答えることができない。
「前者なら今は思いっきり泣くと良い。後者ならば、何故泣く必要があるのか?手段だった場合、お前の目指す姿をもう一度考えてみろ。目標、と言い換えても良いかもな。その目標に対してどういうアプローチがあるのか」
「……難しいわ」
「例えばお前が国軍に入りたいと思ったのが手段だったとして、目標が今まで積み上げた剣技を活かしたいだったとしよう」
「うん」
「剣技を活かすのには、国軍に入るしかないのか? ……そうじゃないだろう?推薦を貰って騎士に入団するのも手だし、傭兵だとて剣を扱う」
「……確かに」
「まあ、あくまで例だけどな。そうして一つずつ、考えていけば良い。まずは、ゴールを定めること。そこから、どうすればそこに至るのか、その方法を幾つか考えてみる。その結果、やっぱり国軍に入るのが一番だと思ったのなら……」
「……なら?」
「どうすれば国軍に入ることができるのか、考える方にシフトすれば良い」
「でも、国軍には入れないって……」
「……ああ、そうだ。今まで一人も女性で国軍に入った女性はいない。けれども、何でダメなんだ?」
「それは……それは」
言葉を詰まらせた私に、彼は笑った。
「な?分からないだろう?その理由を突き詰めて、一つずつ問題を潰し込んで……そうして、認めさせてお前が女性初の国軍兵になれば良いじゃないか」
まるで、目から鱗が落ちたような心地がした。
それと同時に確かに、と私も笑う。
今の私には、一体何故女性が国軍に入れないのかその理由が全く分からない。
力が弱いからなのか?
それとも単純に、法でそう定められているのか。
分からないからこそ、一方的に自分を否定されたような気がして納得ができなかったのだろう。
「うん……そうね。考えてみる。どうして私が国軍に入りたいと思ったのか、もう一度ちゃんと。考えて考えてそれでもやっぱりコレしかないと思ったら、その時は……足掻いてみせるわ」
私の言葉に、ルイは眩しそうに目を細めて笑った。




