私のリベンジ
基礎訓練を終えて、息を吐く。
周りを見れば、私と同じように訓練の汗を拭う国軍の面々。
けれどもそこに、いつもの笑顔はない。
久方ぶりの騎士団との合同の訓練に、心なしかピリピリしている雰囲気が漂っていた。
「ガゼル将軍。本日は、よろしくお願いします」
「うむ。こちらこそ、よろしく頼む」
騎士団の面々が到着し、代表者として一人がお父様に挨拶をしていた。
朗らかな挨拶とは対照的に、騎士と国軍兵士に流れる空気は相変わらず緊張感が漂うそれ。
特に、代表の後ろに控えている騎士たちから刺々しい視線を感じていた。
まあ……慣れている国軍の皆はともかく、女の子が独りこの場に立っていることが彼らにとっては不可解かつ不愉快なのだろう。
挨拶が終わってすぐに、訓練が始まった。
まずは、素振りからだ。
皆、黙々と素振りをこなしている。
そんな中を、お父様が間を縫うように歩いて時々注意していた。
その後、いつものように模擬戦に移る。
交流を兼ねて、国軍兵士対騎士。
私は、国軍の人たちに組み込まれ出番を待っていた。
「次!メルとドナルティ!」
静かに待っていると、私の名前が呼ばれた。
聞き覚えのあるその名。
闘技場を見れば思っていた通り……かつて私が敗北した相手が立っていた。
……面白い。
どこまで自分が力をつけることができたのか、それを試すときがきたのだと血が滾る心地がした。
「お待ちください、将軍!」
けれどもそれに水を差すように、ドナルティが叫んだ。
「……どうした、ドナルティ」
「何故、私があんな子どもを相手にしなければならないのです!これでは、私の訓練になりません」
「メルが相手では、不服と申すのか」
一オクターブ下がったお父様の問いかけに、ドナルティは一瞬気圧されたかのように口を噤んだ。
けれどもすぐに、勢いを取り戻す。
「ええ。平民の、それも女など……。いくら将軍が目にかけているからといって、実力の足りない者などと戦っても私には得るものがありません」
「……と、言っておるが。メル、どうするか?」
彼の言葉に、けれども不思議と私の心は凪いでいた。
無理もない、と。
無様に負けた、前回の模擬試合。
彼にとっては、物足りないそれであっただろう。
私がいくら言葉を尽くしたところで、それは変えようのない事実。
何を言ったところで、彼の言を覆すことはできない。
「……言葉など、不要かと」
それはつまり、実力で黙らせるより他ないということだ。
私の言葉に、お父様は笑った。
「と、言っておる。まあ、ドナルティ。メルとの戦いに勝てたら、次も戦わせてやろう」
「……その言葉、違えないように」
不服そうながら、彼は渋々と了承した。
そして、彼は相対する私に視線を向ける。
侮蔑がこもった瞳に、何故だか私は笑いがこみ上げてきた。
周りを囲む騎士たちの視線も、似たり寄ったりだ。
泣いて逃げたくなるような敵だらけのような空間の中、けれども逆に私はそれが楽しくて仕方がない。
マダムの店で国軍の面々が闘志の込もった瞳を向けてきた時も思ったことだけれども……どうやら、私は飢えているようだ。
薄氷の上を歩くような、緊張感に。
そして敵をどう屈服させてやろうかという、支配欲にも似た闘志に。
笑いながら、剣を手にする。
けれどもそれを持った瞬間、その飢えはどこかにいった。
……というよりも、全てのことが些事となって頭から離れていく。
頭の中の様々な感情や考えが取っ払われて、ただただ目の前の敵と見定めた相手のみ集中していた。
クリアになった視界と頭の中は、ただただ戦いにのみ向けられている。
審判から、始まりの言葉が放たれた。
瞬間一歩動き……けれどもそれ以上動かない。
ただ風に揺られる木の葉のように、身体を揺らめかす。
いつでも、相手の動きに対処できるように。
そしてその痛いほど静かな間が続けば続くほど、私の神経は戦いにのみ向けられ、尚且つ意思やら感情といった私という存在そのものがより深く深くへと沈んでいく心地がする。
先に動いたのは、ドナルティだった。
私は彼の剣をさばく。
前後左右時折フェイントを交えて振るわれる、それ。
冷静に対処しつつ、機を伺う。
私を侮っているのか、それとも元々なのか……随分と、雑な動きだ。
素早く、力強い動きではあるが……否、だからこそ今までそれで押し通してこれたのかもしれない。
頭の片隅で彼の動きを分析をしつつ、隙ができた瞬間攻勢に打って出た。
一つ、一つと剣を重ね合わせる度、彼の体勢が崩れる。
そして最後に彼の剣を振り払い、首元に剣を添えた。
「……勝者!メル!!」
騎士団員を含めて呆気に取られる中、審判の声が高らかに私の名を呼んだ。




