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武家の嗜み  作者: 澪亜
22/144

私の挫折 参

内容を第6部より場面を追加しております。

また、それまでの部分につきましても細かな部分を編集しております。(12/3編集)

大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。

※ダイジェスト化はありません。

午後の訓練は、騎士団も交えたそれだった。

いつも通りのメニューをこなし、模擬戦が始まる。


私の相手は、騎士団の若手だった。

少なくともこのアンダーソン侯爵邸では、初めて見る顔。

……何でも、騎士団の若手の中でもホープと呼ばれるような、先の楽しみな人物らしい。

その前評判に相応しいような、鋭く素早い剣筋だ。


剣を交える度に、だんだんと押されているのが分かる。

そうこうしているうちに、私は深入りし過ぎて、逆に相手のペースに陥り、ついには剣を弾かれてしまった。


……本当に、どうしてしまったのだろうか。

身体が、思うように動かない。

分かっているのに、反応ができない。


「……そこまで!勝者、ドナルティ!」


審判の号令が、響く。

悔しさに、己の不甲斐なさに思わず唇を噛み締めた。


「……ガゼル将軍の秘蔵っ子と聞き、楽しみにしていたが……所詮、この程度か」


吐き捨てるように、相手……ドナルティは言った。


「感違いするな。ガゼル様の御息女と近しい年齢故に護衛に抜擢され、その役目故にガゼル様より教授いただいているだけのこと。お前が平民であることに変わりはないし、お前のような輩がこのアンダーソン侯爵家でデカい顔をして訓練を受けているのも不愉快だ」


そう言って闘技場を去る彼に、私は何も言い返せない。

正直、秘蔵っ子って誰のこと?だとか、ツッコミを入れたいところはたくさんあったけれども。

 

でも、彼の言葉は私の胸に突き刺さった。


……私は、私の生まれによって恵まれた環境に置かれていたことを否定できない。


なにせ、剣を持ち始めた頃から、国の憧れの英雄であるガゼル将軍に教えを受けていたのだ。何人もの現役の兵たちや騎士たちが望んでも受けることができないものを、当たり前のように受けていた。

それは、恵まれている以外の何物でもないだろう。



恥ずかしかった。

悔しかった。


私は、いつの間にか驕っていたのかもしれない。

……強くなったのだと。

強くなって、周りから認められるようになったのだと。


アンダーソン侯爵領で訓練を受けていた時、同じく訓練を受けていた護衛隊の皆の態度が軟化したことを、そう受け止めていた。

けれども現実は、そうじゃなかったののかもしれない。


単に、私の背後に私を抜擢したお父様の姿が見えていたから。

それが、理由だったのだ。


だというのに、王都では勝ち星をあげることができていない。

それ故に、逆にわたしの存在にイラつくのだろう。


……領地ではもしかしたら、態度の軟化だけでなく、模擬戦で相対した時に手加減をされていたかもしれないとすら、思えてくる。


どんどん思考が悪い方へとむかって……けれどもここで泣くワケにはいかないと、私は腹に力を込めた。


そして訓練が終わるまで我慢し、終わったその瞬間……私は、街に出た。


家では、泣きたくなかった。

泣けなかった。

父にも、兄にも、ばあやにも誰にも知られたくない。

泣いたことをではなく、泣いた理由を。


ちっぽけなプライドだけれども、これ以上私はそれを傷つける勇気がなかった。


向かった先は、王都内にある塔だった。

いつかに、お父様に連れられて来た場所。

塔の中に入るには勿論見張りの兵士がいたけれども、我が家で訓練を受けているメンバーで、私とも顔見知りだったため、すんなりと中に入れてもらえた。


長い長い階段を登って、頂上にたどり着く。

王都が見渡せるここの景色は、とても素晴らしい。

有事の際の見張り台として建立されたため、一般的な開放はないが。

だからこそ、このような美しい光景が見れるここには、今私しかいない状態だった。

 

初めてここで景色を見た時は、感動した。

けれども今は、その景色も瞳が潤んでよく見ることができない。

さっきまで我慢していた気持ちが、一人になったと思った瞬間溢れて、次々とその感情のままに涙が溢れ出てくる。


「……うっ………うううぅぅー!」


 悔しかった。

 恥ずかしかった。

 ……惨めだった。


まるで道化のようではないか。

私を見るとき、皆は私を通り越して父を見ていた。


なのに、私は……。

心に積もる負の感情が、重くのしかかって胸が痛い。

 

泣いても、それはちっとも軽くならない。

むしろ、重くなるばかりだ。


叫び出したい、と口を開きかけた時だった。

カタリと物音が聞こえた。



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