私の初陣 弐
内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、それまでの部分につきましても細かな部分を変更しております。(12/3編集)
大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。
※ダイジェスト化はありません。
もしも、の未来など考えていても仕方ないじゃないか。
ふと、戦いながらそんなことを思う。
既に剣は私の身体の一部で、戦う術が私の身体に染み付いているのだから。
過ぎ去った過去は、変えることはできない。
あの日あの時私は疾うに選択し、こうして戦いの道を突き進んできたのだから。
もしもの世界など、考えても仕方ない。
お母様は亡くなり、私は戦いの道を選んだ……その結果が、これだ。
時は、前へ前へと進んでいく。
どんなに縋ろうとも振り返ろうとも、過去を取り戻すことはできないのだ。
選んで、積み重ねてきた毎日。
後悔など、あるはずもない。
気がついた時には、私の周りには誰もいなかった。
辺り一帯は血の海と化していて、何体もの物言わぬ骸が転がっている。
状況を確認するように周りを見れば、護衛たちもそれぞれ相手を撃破したようだ。
視線を前に向けると、生き残った敵が一人。
その男は今のこの状況に、完全に腰が抜けていた。
逃げるための馬も亡くし、この場を離れるための残された手立てはない。
私が目を向けると、男は短い悲鳴をあげながら後ずさる。
……随分怖がられたもんじゃないか。
失笑しつつ、私は男に剣を向けた。
「き、聞いてねえよ……!乗っているのが替玉だなんて。俺は、聞いてねえ!」
なんとまあ、私が替玉だと勘違いしているようだ。
まあ……私の姿や動きを見ていれば、確かに貴族の子女とはまず思わないだろう。
誤解を解くのは面倒だし、後々のことを考えると、彼の言った言葉に便乗させてもらうのが一番だ。
「お嬢様は体調が悪くてね。代わりに私が来たんだ。……というわけで、皆も驚かないで」
戦いが終わってハタと冷静になったらしい護衛隊の皆に、言い聞かせるように言った。
皆何が何だか分からないといった感じだったので、そのまま押し切る。
「それで?他に仲間はいるのか?」
「い、いない……」
「そうか。では、お嬢様を狙った理由は何だ?」
「し、知らない……!」
叫ぶ男を睨めば、男は顔を引きつらせる。
「本当だ!本当に、知らないんだ……!ただ俺たちは今日ここに侯爵家のお嬢様が通るって情報を掴んで、それで……」
「……。裏を取る必要がありそうね。そこの貴方と貴方、この男を捕縛し、王都のお父様に身柄を渡してちょうだい。併せて、この件の報告を」
「メルは……」
「私は、領地に帰るわ。土台、私が影武者としてお嬢様の代わりに出るのは無理があったし。この件を将軍から女王様に報告して、心労で倒れたとでも言えば理解してくださるでしょう。……つけ毛もなくなっちゃったしね」
病弱なお嬢様説が出ている私が、こんなことがあって平気な顔をして出席したら、そちらの方が不自然だ。
……なんて、出席しなくて良いなら出席したくないだけなのだけど。
みっちりレッスンを受けたとはいえ、付け焼き刃の状態で王族主催のパーティーに参加したくないというのが本音だ。
馬車を見れば、全損はしていないが随分あちらこちらに傷ができている。
一番の問題は、車輪がガタついているということだ。
「ばあや、大丈夫?」
中にいるばあやに声をかければ、ばあやは血の気が失せた顔色をしていた。
「……は、はい」
私が差し出した手を掴むばあやのそれは、カタカタと小刻みに震えている。
……気を失わないだけでも、流石侯爵家に仕える者だいうべきなのだろうか。
「その者は他に仲間がいないといっていたけれども、本当かどうかは定かではない。ここにいつまでもいるのは危険でしょうから、さっさと行くわよ。……王都に行く二人は、一人捕虜を連れて行くのだから尚更ね。それと、彼女には申し訳ないけれども、誰かの馬に乗せてもらってちょうだい」
私は、手綱を握った。
「それじゃあ、解散」
その言葉を言うが早いか、私は馬を走らせ始める。
王都に行く二人以外の護衛が、私の後に続いていた。
そうして、結局私は王都には行かずに屋敷に戻った。




