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武家の嗜み  作者: 澪亜
17/144

私の初陣 弐

内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、それまでの部分につきましても細かな部分を変更しております。(12/3編集)

大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。

※ダイジェスト化はありません。

もしも、の未来など考えていても仕方ないじゃないか。

ふと、戦いながらそんなことを思う。

既に剣は私の身体の一部で、戦う術が私の身体に染み付いているのだから。


過ぎ去った過去は、変えることはできない。


あの日あの時私は疾うに選択し、こうして戦いの道を突き進んできたのだから。

もしもの世界など、考えても仕方ない。


お母様は亡くなり、私は戦いの道を選んだ……その結果が、これだ。

時は、前へ前へと進んでいく。

どんなに縋ろうとも振り返ろうとも、過去を取り戻すことはできないのだ。


選んで、積み重ねてきた毎日。

後悔など、あるはずもない。


気がついた時には、私の周りには誰もいなかった。

辺り一帯は血の海と化していて、何体もの物言わぬ骸が転がっている。

状況を確認するように周りを見れば、護衛たちもそれぞれ相手を撃破したようだ。


視線を前に向けると、生き残った敵が一人。

その男は今のこの状況に、完全に腰が抜けていた。

逃げるための馬も亡くし、この場を離れるための残された手立てはない。

私が目を向けると、男は短い悲鳴をあげながら後ずさる。


……随分怖がられたもんじゃないか。


失笑しつつ、私は男に剣を向けた。


「き、聞いてねえよ……!乗っているのが替玉だなんて。俺は、聞いてねえ!」


なんとまあ、私が替玉だと勘違いしているようだ。


まあ……私の姿や動きを見ていれば、確かに貴族の子女とはまず思わないだろう。

誤解を解くのは面倒だし、後々のことを考えると、彼の言った言葉に便乗させてもらうのが一番だ。


「お嬢様は体調が悪くてね。代わりに私が来たんだ。……というわけで、皆も驚かないで」


戦いが終わってハタと冷静になったらしい護衛隊の皆に、言い聞かせるように言った。

皆何が何だか分からないといった感じだったので、そのまま押し切る。


「それで?他に仲間はいるのか?」


「い、いない……」


「そうか。では、お嬢様を狙った理由は何だ?」


「し、知らない……!」


叫ぶ男を睨めば、男は顔を引きつらせる。


「本当だ!本当に、知らないんだ……!ただ俺たちは今日ここに侯爵家のお嬢様が通るって情報を掴んで、それで……」


「……。裏を取る必要がありそうね。そこの貴方と貴方、この男を捕縛し、王都のお父様に身柄を渡してちょうだい。併せて、この件の報告を」


「メルは……」


「私は、領地に帰るわ。土台、私が影武者としてお嬢様の代わりに出るのは無理があったし。この件を将軍から女王様に報告して、心労で倒れたとでも言えば理解してくださるでしょう。……つけ毛もなくなっちゃったしね」


病弱なお嬢様説が出ている私が、こんなことがあって平気な顔をして出席したら、そちらの方が不自然だ。

 ……なんて、出席しなくて良いなら出席したくないだけなのだけど。


みっちりレッスンを受けたとはいえ、付け焼き刃の状態で王族主催のパーティーに参加したくないというのが本音だ。


馬車を見れば、全損はしていないが随分あちらこちらに傷ができている。

一番の問題は、車輪がガタついているということだ。


「ばあや、大丈夫?」


中にいるばあやに声をかければ、ばあやは血の気が失せた顔色をしていた。


「……は、はい」


私が差し出した手を掴むばあやのそれは、カタカタと小刻みに震えている。

……気を失わないだけでも、流石侯爵家に仕える者だいうべきなのだろうか。


「その者は他に仲間がいないといっていたけれども、本当かどうかは定かではない。ここにいつまでもいるのは危険でしょうから、さっさと行くわよ。……王都に行く二人は、一人捕虜を連れて行くのだから尚更ね。それと、彼女には申し訳ないけれども、誰かの馬に乗せてもらってちょうだい」


私は、手綱を握った。


「それじゃあ、解散」


その言葉を言うが早いか、私は馬を走らせ始める。

王都に行く二人以外の護衛が、私の後に続いていた。

そうして、結局私は王都には行かずに屋敷に戻った。


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