父の嘆き 参
内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、これまでの部分についても細かいところを変えています。大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。(12/4更新2話目)
※ダイジェスト化は、ありません。
「……御当主?」
つい昔を振り返ることに夢中になって言葉を返さなかった儂に、ガリヤが伺うように問いかけた。
その言葉に、儂は我に返る。
「すまん。まあ、少し考え事をしておってな。……彼女が、強さを求める理由……か。儂と同じだよ」
「同じ、ですか?」
「ああ。大切なモノをむざむざと奪われ、自らの力不足を呪う。その果ての、覚悟だ」
「……つまり、復讐が願いだと?それなのに、将軍は彼女に教えを授けたのですか?」
「言っただろう?同じだ、と」
そう言うと、二人とも痛ましいものを見ているかのような表情を浮かべた。
「……まあ、それ以上に彼女のその才を見出して年甲斐もなくはしゃいでいるというのもあるがな」
重々しくなった空気を吹っ飛ばすように、努めて明るく言った。
そうすると、二人は目に見えるほどホッと安堵していた。
「あの子のことを、よく見てやってくれ。そして、できれば導いてやってくれ。儂には、その資格がないのだから。勿論、儂も気にかけてはいるがな」
「……畏まりました」
「了解です」
二人は異口同音に、了承の言葉を返す。
「長居をしてしまい、申し訳ありません。我々は、これにて失礼致します」
そして二人は部屋から退出して行った。
儂は二人の背を見送った後、訓練場に向かうべくその部屋を出る。
訓練場近くで、パークスを見かけて立ち止まった。
パークスの視線の先には、メルリスが訓練をしている姿。
それを微笑ましそうに、優しい瞳で見守っている。
パークスもまた、儂の訓練を受けているため同世代の中では頭一つ以上抜きん出ていた。
それは親の贔屓目などでなく、純然たる事実。
けれどもそれでも、メルリスの力には及ばない。
パークス自身、それは嫌という程分かっているだろう。
だというのに淡々とその現実を受け入れ、今もああして優しく見守るその姿に、儂は内心首を傾げた。
「……悔しくないのか」
それ故に、儂はついそうパークスに問いかける。
パークスは意外な問いかけだと言わんばかりに、キョトンと儂を見上げていた。
「全く。……私は、アンダーソン侯爵家の一員であり、貴方の息子です。自らの限界というのを、理解しております故」
そう言った彼は、清々しいほどの笑みを浮かべている。
「限界などと……そのようなもの、破ってみせれば良いではないか」
「父上。確かに始めから限界を決めつけて諦めることは、愚かなことです。ですが、自らの力量を正しく計るということも必要ではないでしょうか。……アレと私は、元々立っている場所が違うのでしょう。大それたことを申し上げますが、父上が訓練をつけている大人たちに勝てないとは決して思いません。ですが、アレに追いつくビジョンだけは……私には全く見えません。真の天才を見たときには、嫉妬するのも馬鹿馬鹿しいと思うということは、本当ですね」
淡々と冷静に告げた息子の姿に、儂は内心唸った。
正しく、息子は息子で真理をついていたのだ。
勇敢と無謀は異なる。
自らの力量を見極め、時には引くことだとて求められる。
発破をかけてもどこまでも冷静かつ、子どもらしからぬ物言い。
息子は息子で面白い才を持つと、滾った。
彼自身が言う通り、決してパークスも弱くない。
メルリスのように儂の腹心の部下と良い勝負をするとまではいかないが、儂が鍛えている面々の中でも日の浅い者ならばあるいは勝ち星を挙げることができるかもしれないレベルには。
長じれば、一角の武将になれると切望されるほど。
……けれども、パークスの本当の才は別のところにあるのかもしれないという考えが頭を過ぎる。
儂やあの娘と比べ、闘争心や純然たる武への執着は薄い。
その代わりに……否、それ故に彼はどこまでも冷静に戦力を分析している。
それは戦場で指揮をする参謀の才だと思った。
「……なあ、パークス。軍略を、学んでみないか?」
そこまで思い至り、何の気もなしに儂はそうパークスに打診した。
「良いのですか!?」
儂の言葉に、パークスの顔が輝く。
それだけは年相応なそれだと、内心苦笑いを浮かべた。
「実は父上に、近々打診しようかと考えていたのです。以前より父上を訪ねて来る国軍の面々の話を聞いて、興味を抱いていましたから」
「そ、そうか。ならばそいつらに打診をしておく。決まったら、再びお前に言おう」
「よろしくお願いします」
「ああ、分かった」
頭を下げたパークスのその頭を撫でて、儂は再び訓練場に向かうべく歩き出す。
……面白いじゃあないか。
娘に前線を任せ、息子は後方での参謀の役割を担わせ。
儂が将として、全体を総括する。
それは、単なる夢物語。
娘が女人である故に、決して実現するはずのない布陣。
だというのに、その考えを思い浮かべると興奮して仕方がない。
「……儂も、訓練するとするか」
それを落ち着けるよう、そう独り呟く。
たまたま側に控えていた護衛隊の奴らが儂のその言葉と表情を見て二、三歩下がって行ったが……まあ、良い。
今はこの夢に酔いながら、楽しもうじゃないか。




