父の嘆き 弐
内容を第6部より場面を追加したかったために刷新しております。また、これまでの部分についても細かいところを変えています。大変申し訳ございませんが、改めてお読みいただけると幸いです。
※ダイジェスト化は、ありません。
正直に言えば、一瞬惑った。
願ったり叶ったりのはずの言葉だった。
メルリスには、護身の術は身につけて欲しいと思っていたのだから。
けれども彼女が願うのはそれではないと、その瞳が語っていた。
憎悪の炎が揺らめく、その瞳が。
だからこそ、惑った。
復讐などという血の道を進むのは、自分一人で十分だと。
けれどもそれと同時に、ムクムクとこの才を伸ばしてみたいという欲が出た。
そうして、気がついたら了承していたのだ。
始め、彼はすぐ彼女が根を上げると思っていた。
むしろ、そうしてくれとすら。
けれども、彼女は泣き言一つ言わずに訓練をこなしていった。
そしてその瞳は少しも曇らず、ただただその道を進んでいく。
果たして始め彼女が儂に訓練を願ってから、今日この訓練に参加するまで何年が経ったか…….七年か。
始めの数年は地味で辛い基礎体力向上と素振りだけだった。
その間、シュレーの言う通り遊びたい盛りのあの娘は、飽きることもその憎悪の炎を絶やすこともなく、ひたすらその訓練をやり遂げていた。
……矛盾していると、儂とて自身を何度も笑った。
止めるべきだ、それには訓練自体止めさせるのが一番だということは分かっていた。
泣き言を言ってくれ、そうすれば訓練を止めさせる良い口実なのに……と何度も思った。
一方で、少しも曇ることなく一点を見続ける彼女の瞳が、自分の娘ながら好ましかったのだ。
そして与えられたモノ以上を求め実行し続ける彼女の、その姿が。
その先に彼女がどこまで強くなるのか、楽しみにすらしてしまっていた。
それ故に、いつの間にか儂は止めることを止めた。
そして剣の型を教えたのだ。
最初は見れた剣筋ではなかった。
けれども徐々に鋭く、そして、素早くなっていった。
それはもう、面白いほど順調に。
先に訓練を始めていた三歳上の兄に追いつき、打ち合わせをさせてみた。
そのうち兄では相手にならなくなり、儂が打ちあうようになった。
身長に伴う手足の長さも、力も、速さも何もかもが違う。
けれども、彼女は儂に食らいついてみせた。
力が足りないのであれば……それを補うための技や動き方を、あの娘は自ら作り上げていったのだ。
そのうち、彼女と対峙する度にゾッと鳥肌が立つようになった。
葬儀の時に感じた、彼女の異才。
それはやはり決して思い違いではなかったのだと、儂は笑った。
儂を以ってしても、紛うことなく彼女は天才であった。
一を聞いて十を理解するのではない。
教わらずとも自ら十を理解し、一を聞いてはその一を深めるのだ。
それが、彼女の才だった。




