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夏の涼風  作者: 海獅子
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第34話 さよなら、姉さん


 しばらく、お互いに抱擁していたが。

ようやく、一番の目的を話す事が出来ると思い、話し始める。




 「姉さん」


 「どうしたの?」


 「僕が会いに来たのは、前世の事を話すだけじゃないんだ」


 「どう言う事なの?」


 「僕の想像通りなら、姉さんは成仏?出来るんだよ」


 「・・・」




 しかし、先輩は明らかに不満そうな顔をした。




 「いいよ、せっかく優にもまた会えたし」


 「でも、今のままじゃあ、おかしいよ。

いつまで経っても、さ迷うなんて。

第一、姉さんは、この学校から動けないじゃないか」


 「優が、学校に来てくれれば良いじゃない・・・」


 「確かに、僕が居る間は良いけど。

いつまでも、この学校に居られる訳じゃないよ。

卒業してから、特に用も無いのに良く来るOBなんて。

どう考えてもおかしいと思うよ」


 「・・・」


 「それに、何十年か経って、僕が死んだ後。

また、何十年、いや、下手をしたら何百年も。

一人で、さ迷わなければならないんだよ」




 僕の言葉を聞いて、先輩が黙り込んでしまった。




 「そしたら、また僕が転生するまで、偶然、出会うまで待つつもり?

今、再会したのは、たまたま偶然だからであって。

次も、こんな風に出会えるとは限らないんだよ」


 「・・・」


 「お願いだから、早く天に登って欲しい。

姉さんと別れるのは辛いけど、姉さんが不幸になるのはもっと辛いから」


 「優・・・」


 「僕は、姉さんと気持ちが通じ合えた事が嬉しいから。

それを思い出にして、これから生きて行けるよ」




 僕は、できる限り暗くならないよう、先輩に微笑みかけたが。

上手く、伝わったのだろうか。



 ・・・



 「分かってるよ優、いつまでもこのままではイケナイのは。

でもあなたが優でと分かって、離れたくなかったから、少しワガママを言っただけよ。

だけど、どうすれば良いの・・・?」




 先輩が、自分を納得させるように、そう言った様に僕には見えた。




 「姉さんが死んだ時、僕に会いたい気持ちと顔向け出来ないと言う気持ちが葛藤して。

分裂したって、言ってたよね」


 「ええ、そうよ」




 僕が言った事に、先輩が(うなず)く。




 「でも今、僕と会って、僕がそんな事は良いからと言って後。

姉さん、どうだった?」


 「私は、やっと許されたと言う気持ちになれた・・・」


 「そう、だから、もう天に登れない理由が無くなったんだよ」


 「あっ」


 「だから、後は、天に登りたいと言う気持ちを、持てば良いと思うよ」




 僕がそう言うと、先輩はハッとした顔をする。




 「じゃあ、天に登りたいと思うから」




 先輩がそう言って、僕から離れ、胸元に手を組み、目を閉じる。



 ・・・



 そのまま、時間が経っていく、そうすると。




 「(ピカッ!)」




 先輩の体が一瞬光った。


 それで僕は目を閉じ、また開くと。

先輩の体が光りながら、半透明になっていた。




 「ね、姉さん!」


 「優、どうしてか分からないけど。

私・・・、どうやら、天に登れるみたい・・・」




 先輩は、半透明になりながら光っている。

先輩は、自分の両手を見て、そう(つぶや)いた




 「優、もう行かないと、イケナイみたい」


 「姉さん!」




 半透明になって光っていた姉さんは。

急に浮き上がると、徐々に天に登り出した。




 「姉さん! 姉さん!」


 「優、私と別れるのは辛いって言ったけど。

大丈夫、あの図書室の娘が居るから」


 「ひょっとして、芝山先輩の事?」


 「そう、あの娘は、あなたに好意を持っているから。

多分、私の代わりになってくれるよ」




 徐々に浮き上がりながら、先輩が僕に微笑みかけた。

しかし、それは僕を心配させない為である事は、涙に揺れる瞳を見れば分かる。




 「優、また会えて、とても嬉しい。

そして、私を許してくれて、ありがとう・・・」


 「姉さん! 姉さん!」


 「じゃあ、もう行かないと。

さようなら、優、愛しているよ」


 「姉さん! ねえさーーーーーん!」




 先輩は、そう言うと、次第に人の形から光る玉になり。

そして、登る速度が上がって行き、だんだん姿が小さくなって行った。



 ・・・



 とうとう、その姿も見えなくなってしまったが。

それでも僕は、消えた方向を眺め続けている。




 「僕も愛していたよ、姉さん・・・」




 僕は先輩が消えた方向を眺めながら、そう呟いていた。



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