第19話 いいのよ・・・
しばらくの間、僕は煩悩に苛まれていたが。
ようやく、落ち着いた頃、僕は先輩に聞いてみた。
「先輩、先輩は30年位前から、その姿だけど。
先輩は、どうしたいんですか?」
「えっ!」
「だって、ほっとけばそのままなんでしょ。
僕は、このままじゃ良いとは思えないけど」
「・・・」
僕が聞いてみると、先輩が一旦、黙った後。
「いいのよ・・・。
これが、私への罰なのよ・・・」
「えっ?」
「私のせいで、弟が死んだのだし。
それに、今更会えたとしても、どんな顔をして会えば良いの?」
「・・・」
「多分、いつになるのか分からないけど。
私の存在が消滅するまで、ずっと、このままだと思う」
「そ、そんな・・・」
僕は、先輩の言葉を聞いて悲しくなった。
「ダメですよ! 先輩は、このまま、この世に縛られたままじゃ。
ちゃんと成仏?しないと!
そう言えば、先輩は死んでから、僕以外の人間と話をした事がありますか?」
「・・・ううん、ちゃんと話をしたのは、諒くんが初めてよ。
他は、話しかけると逃げたしていた」
「じゃあ、今は僕が居るけど。
卒業した後は、また、いつまでも一人ぼっちになるんですよ」
「・・・」
僕の言葉に、先輩がしばらく考え込む。
「しょうが無いよ、これが私の罰だから」
悲しそうな笑顔で、先輩がそう言った。
それを聞いて興奮した僕は。
「ダメです! 先輩は幸せにならないと!」
「じゃあ、諒くん。
何か、良い方法でもあるの?」
「うっ!」
僕は、先輩を問い詰めるが。
先輩からの質問に、思わず言葉が詰まった。
「だから良いの。
ありがとう、そう言ってくれて」
そう言って、嬉しさと悲しさが混ざった笑顔を見せる。
おそらく、どうにもならない現実と。
自分を心配する僕に対する感情からだと思う。
「あっ、でも今は、弟に似ている君と居るから。
とっても、心が安らいでいるんだよ・・・」
と、僕を心配させない様な事を言うが。
逆に、その言葉がとても悲しく聞こえる。
「・・・」
「(ギュッ!)」
「あっ・・・」
自分を諦めてしまっている先輩が悲しくて。
僕は思わず、緩めていた腕の力を強めた。
自分の身体に廻った腕の力が、急に強くなった事に。
先輩が、小さく驚きの声を上げる。
先ほどまでの抱擁と違い、邪な考えが全く起きなかった。
ただ、悔しいと言う感情しか起きなかったのだ。
「・・・」
「・・・」
二人は、先ほど同様、黙り込んだが。
先ほどとは違い、浮ついた感じはなく、重い空気の中で沈黙していた。
・・・
そうやって僕は、座りながら先輩を、後ろから抱き締めたまま。
全校生徒下校のアナウンスが流れるまで、その状態で居たのだった。




