第16話 先輩の昔話1
しばらく、お互いに抱き合った後。
僕は先輩の後ろから、腕の上から抱いた様な格好で立っていた。
抱き合っていた途中で、突然、先輩が僕に背中を向けたかと思うと。
僕の腕を掴み、それを自分の身体にに廻すと、背中を僕に密着させてきた。
「ねっ、ギュ〜として♡」
後ろを振り向いて、上目遣いで、甘える様におねだりする先輩を見て。
僕は、仕方がないと思い、ため息を付きながら廻した腕に力を入れた。
先輩は、一見すると清楚で上品な美人だけど。
こんな風に、甘える様におねだりしたりと、ギャップが有る所がある。
だからこそ、普通の上品な美人の様に近づき難い所が無く、気安いから。
涼風みたいに心地良いんだろう。
そうやって、先輩を後ろから抱きながら木陰の中で、林の方から吹く風に体を晒していた。
・・・
「涼子先輩、先輩はやっぱり、幽霊なんですか?」
ふと僕は、先輩に確認したかった事を訊いてみた。
「う〜ん、大まかに言うと、そうだけど。
正確に言ったら、少し違うかな?」
「どう言う事ですか?」
「死ぬ時に、生まれた分身とでも言うのかな。
詳しい事は、自分自身でも良く分からない」
「?」
予想外の答えに、僕はクエスチョンマークを頭に浮かべる。
「諒くん、私に弟が居たって言ったよね」
「はい」
「実は、弟は私のせいで死んだの・・・」
「えっ!」
僕は先輩の言葉に驚いた。
「そして私は、弟の事を愛していたの。
弟じゃなく、一人の男の子として」
「ええっ!」
続けて先輩が告白する、トンでもない内容に、僕は驚いた。
「しかし、それに気付いたのは。
あの子が死んでからなの、遅いよね」
「・・・」
僕は、先輩の言う言葉を黙って聞くしかなかった。
「私は小さい頃から、心臓の病気でよく発作を起こしていた。
死んだのも、それが原因なの」
「そんな私の側に、よく弟が居てくれた。
名前は優って言うんだけど、名前通り優しかったの。
それに諒くんにとっても似ていたのよ。
顔かたちだけでなく、性格も雰囲気も何もかもが」
振り向いて、僕に嬉しさと悲しさが、ない交ぜになった様な微笑みを見せてくれた。
「他の男の子達は乱暴で近寄りたくなかったけど。
優だけは別で、それどころか居心地が良くて。
いつも、一緒に居るのが当たり前だった」
「そんなある日、二人で道を歩いてジャレ合っていたら。
私が発作を起こして倒れそうになった所を、運悪く、自動車が通ったの!」
「それを見て、咄嗟に優が私を庇ってくれた・・・」
振るえる声で、そう言って先輩が顔を俯かせる。
「私は、優のおかけで、かすり傷で済んだけど。
優は、血まみれで呻きながら倒れていた」
「私は慌てて優の所に駆けよって、半狂乱で優の名前を呼んだ。
でも優は」
”姉さん、無事だったの、良かった・・・”
「って、自分の事より、私の事を案じていたの!」
先輩が、嗚咽を漏れしつつ、話をした。
「それから直ぐに病院に運ばれたけど、既に息を引き取っていた」
「それで最初の内は、弟の死のショックに、しばらく混乱していたけど。
落ち着いた頃から、失くしてみて初めて、弟のかけがえの無さに気付き。
そして、命がけで私を助けた、弟の愛の大きさを思い知ったの」
「いつも、その事を思っている内に。
優の事を弟以上に思う、自分がいつの間にか居たの。
遅いよね、相手が死んだ後なのに・・・」
先輩が、一旦、話を区切ると、しばらく沈黙する。
僕も、先輩が落ち着くまで、黙って待っていた。




