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夏の涼風  作者: 海獅子
10/36

第10話 いい風だね


 「はあ、あついなあ・・・」



 ある日の昼休み。


 今日は、今年一番の暑さの上。

空調が故障していて、校舎の中がとても暑い。


 一応、この陣立学園は。

私立の学園らしく学校の設備がとても整っている。


 空調も全教室で利用出切るので、いつも涼しく勉強していたのである。


 なので、今日みたいな事があると。

普段、空調があるのに体が慣れきってしまっているので、とても(こた)えるのだ。


 午前中も昼に近づくに連れ暑くなっていき。

昼食も、食堂で暑い思いをして食べたのであった。




 「はあ、どこか少しでも涼しい所に行こうか・・・」




 いつもは食べた後、図書室に行くのだが。

この調子では、図書室も暑いだろう。


 (かえ)って、外の方が涼しいかもしれない。


 そう思い僕は、校舎の外へと向かった。




 *********




 「はあ・・・、ここは涼しいなあ・・・」




 僕は、校舎の外れにある、大木の木陰に居た。


 この大木は、校舎のすぐ脇にあるので、上靴のまま行けるのだ。


 校舎でも、この付近は実験室や倉庫などばかりので。

普段から、余り人気(ひとけ)が無い。


 大木の先も、数本の木があって林になっていて。

周囲の校庭に比べ、明らかに気温が低い様に見える。


 しかし、今日みたいな状況だと、誰か居てもおかしくないのだが。

以外と、誰も居ない。


 大木の木陰が校舎に差し掛かった中、建物の段差に腰を下ろし涼んでいると。




 「よっ」


 「あれっ?」




 人の気配がしないのに、予想もしない声が右隣から聞こえた。


 見ると、涼子先輩が両手を後ろに廻し、上体を大きく傾けて僕の顔を覗き込んでいた。




 「どうして、ここに?」


 「うん? 廊下を歩く君が見えたから、後を付けて来たの」


 「それじゃあ、ストーカーですよ・・・」




 僕は少し呆れた様に言った。




 「・・・隣、良い?」


 「良いですよ、どうぞ」


 「よいっしょっと」

 



 僕が隣に座って良いと言ったので、先輩が僕の右隣に座った。


 先輩は、僕の隣で膝を抱えて、体育座りみたいに座っている。




 「諒くん、ここは良い風が吹いているね・・・」


 「はい・・・」




 先輩は、木陰に拭く風に切れ長の目を細めた。


 木陰には、林の方から風が吹いていて。

その風が、涼しくて気持ち良い。


 先輩がその風に、気持ち良さそうに身を(まか)せていた。




 「(コッン)」



 僕も、先輩の様に風に身を任せていたら、イキナリ肩に何かが乗ってきた。


 見ると、先輩が僕の右肩に頭を乗せていた。




 「先輩?」


 「諒くん・・・。

少し、このままで良い?」


 「良いですよ」




 先輩が少し甘えるような声でそう言ったので。

僕は、先輩の気の済む様にさせた。


 ふと、木の上の方を見ると、木漏れ日が僕の目に付いた。


 木漏れ日は、決して不快では無いが、キラキラして僕の目を(まど)わせ、落ち着かなくなる。


 前に僕は、先輩の事を真夏の木陰で感じる涼風みたいと、思った事があった。


 確かに温度が低くそうだが、冷たくなく、むしろ涼しくて心地良い。


 それと同時に、真夏の木陰で感じる木漏れ日だとも思った。


 キラキラしてないが、先輩は僕を惑わせ、落ち着けなくなってしまう。




 「諒くん、気持ち良い・・・」




 先輩がウットリする様な声でそう言うと、頭を動かして僕の肩に頬ずりをする。


 僕は、そんな先輩を見ると、思わず頬が緩んでしまう。


 こうして昼休み中僕は、木陰で先輩の好きな様ににさせていた。



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