第10話 いい風だね
「はあ、あついなあ・・・」
ある日の昼休み。
今日は、今年一番の暑さの上。
空調が故障していて、校舎の中がとても暑い。
一応、この陣立学園は。
私立の学園らしく学校の設備がとても整っている。
空調も全教室で利用出切るので、いつも涼しく勉強していたのである。
なので、今日みたいな事があると。
普段、空調があるのに体が慣れきってしまっているので、とても堪えるのだ。
午前中も昼に近づくに連れ暑くなっていき。
昼食も、食堂で暑い思いをして食べたのであった。
「はあ、どこか少しでも涼しい所に行こうか・・・」
いつもは食べた後、図書室に行くのだが。
この調子では、図書室も暑いだろう。
却って、外の方が涼しいかもしれない。
そう思い僕は、校舎の外へと向かった。
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「はあ・・・、ここは涼しいなあ・・・」
僕は、校舎の外れにある、大木の木陰に居た。
この大木は、校舎のすぐ脇にあるので、上靴のまま行けるのだ。
校舎でも、この付近は実験室や倉庫などばかりので。
普段から、余り人気が無い。
大木の先も、数本の木があって林になっていて。
周囲の校庭に比べ、明らかに気温が低い様に見える。
しかし、今日みたいな状況だと、誰か居てもおかしくないのだが。
以外と、誰も居ない。
大木の木陰が校舎に差し掛かった中、建物の段差に腰を下ろし涼んでいると。
「よっ」
「あれっ?」
人の気配がしないのに、予想もしない声が右隣から聞こえた。
見ると、涼子先輩が両手を後ろに廻し、上体を大きく傾けて僕の顔を覗き込んでいた。
「どうして、ここに?」
「うん? 廊下を歩く君が見えたから、後を付けて来たの」
「それじゃあ、ストーカーですよ・・・」
僕は少し呆れた様に言った。
「・・・隣、良い?」
「良いですよ、どうぞ」
「よいっしょっと」
僕が隣に座って良いと言ったので、先輩が僕の右隣に座った。
先輩は、僕の隣で膝を抱えて、体育座りみたいに座っている。
「諒くん、ここは良い風が吹いているね・・・」
「はい・・・」
先輩は、木陰に拭く風に切れ長の目を細めた。
木陰には、林の方から風が吹いていて。
その風が、涼しくて気持ち良い。
先輩がその風に、気持ち良さそうに身を任せていた。
「(コッン)」
僕も、先輩の様に風に身を任せていたら、イキナリ肩に何かが乗ってきた。
見ると、先輩が僕の右肩に頭を乗せていた。
「先輩?」
「諒くん・・・。
少し、このままで良い?」
「良いですよ」
先輩が少し甘えるような声でそう言ったので。
僕は、先輩の気の済む様にさせた。
ふと、木の上の方を見ると、木漏れ日が僕の目に付いた。
木漏れ日は、決して不快では無いが、キラキラして僕の目を惑わせ、落ち着かなくなる。
前に僕は、先輩の事を真夏の木陰で感じる涼風みたいと、思った事があった。
確かに温度が低くそうだが、冷たくなく、むしろ涼しくて心地良い。
それと同時に、真夏の木陰で感じる木漏れ日だとも思った。
キラキラしてないが、先輩は僕を惑わせ、落ち着けなくなってしまう。
「諒くん、気持ち良い・・・」
先輩がウットリする様な声でそう言うと、頭を動かして僕の肩に頬ずりをする。
僕は、そんな先輩を見ると、思わず頬が緩んでしまう。
こうして昼休み中僕は、木陰で先輩の好きな様ににさせていた。




