32 なんでそれを?
「…美晴さん?」
修学旅行が終わり、いよいよ冬休みを迎えた遥輝は特にすることもなく暇だったのでデパートで買い物をしに来ていた。
だがその途中で思いがけない人物に出会い、つい身体が震えてしまう。
「な、何でここに…今日は仕事なんじゃ…」
「うん、そうだよ」
「なら何で…」
至極真っ当な疑問を投げると、美晴はいつものように当たり前のことを話すような口調で理由を話した。
「遥輝くんとデートしたかったからだよ♡」
「……」
いつも思うのだが、全然理由になっていない。
恐らく美晴は遥輝とデートをしたいがために一瞬で仕事を終わらせているのだが、そんなの普通に意味不明である。
まあそれだけ技術があるということなのだろうけれども。
何というか、絶望的に嬉しくないな。
(その才能をもう少し別のところで使ってくれよ…)
遥輝は脳内でそう呟くが、言葉にすると拗ねられそうなので口は開かず。
「さ、早く行こ?せっかくのデートなんだから♡」
遥輝が黙って頭を悩ませていると、美晴が手を繋いできてそのまま強制的に歩かされた。
「で、今日はどこか行きたいところとかあるの?」
歩き始めた頃、美晴は今日の遥輝の目的を訊く。
だが遥輝の耳には入っておらず、遥輝はある不可解なことについて思考を巡らせていた。
(この人、いつもどうやって俺の居場所を特定してんの?)
そう、この点においては流石に不可解すぎるのだ。
いくら遥輝とデートしたいがために仕事を早く終わらせたといえど、そもそも遥輝の場所がわかるはずがないのだ。
(何か裏がある気がするな…)
最近は慣れてきてしまっていたのであまり考えていなかったが、どう考えてもおかしい。
美晴なら「愛の力だよ?♡」とか言いそうであるが、もうそんなので説明できる次元を超えている。
(今後の為にも、不安は解消しておくべきか)
流石にこのカラクリを知らないと将来色々と怖い。
部屋別に浮気中に突撃されるのが怖いとかいう意味ではなくて。
普通に心臓に悪いのでやめてほしいというだけである。
というわけで、遥輝は美晴の質問を無視して話を切り出した。
「美晴さん」
「なに?」
「美晴さんは、どうやっていつも俺の場所を特定してるんですか?」
かなり直接的に問いかけると、美晴は誤魔化すような笑みを浮かべた。
「愛の力だよ?♡」
「…嘘ですよね」
完全に予想通りの返答だったので一瞬で嘘だとわかり、遥輝は美晴に字と目を向けた。
流石にこんな嘘は通用しないと悟ったのか、美晴は苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「ねぇ、私が初めて遥輝くんの家に泊まった時のこと、覚えてる?」
「ええ、もちろん。それと何か関係が?」
「実はその時に…遥香ちゃんに遥輝くんのスマホのロックを解除してもらってGPSの登録を…」
「え!?」
遥輝はスマホを急いで取り出し、設定画面を開いた。
そして色々探していくうちに、美晴のスマホと思われるものが登録されているのを発見した。
「ま、マジか…」
遥輝の心臓はバクバクになり、衝撃で身体が動かなくなる。
そんな遥輝の反応を見て美晴は申し訳なく思ったのか、頭を下げて謝罪の気持ちを述べ始めた。
「ごめん!どう考えてもやりすぎだし、気持ち悪いよね…あの時の私、どうかしちゃってた…」
美晴は顔を青くしながら頭を下げ続ける。
「こんな彼女、嫌だよね…。嫌いになっちゃうよね…」
美晴は悲しそうな顔をしながら下を向いている。
流石にそんな顔をされては、男として黙っていられない。
「いえ、嫌いになんかなりませんよ。むしろ美晴さんの愛が伝わって嬉しいです」
美晴の肩に手を置きながら優しく声をかけると、美晴は目を見開いたまま顔を上げた。
「え?そう…?い、いいの?遥輝くんの居場所を24時間把握してても…」
(え、そんなことしてたの?)
普通に怖くなってきたんだけど。
でももう後には引けないか。
別にこの人になら監視されてても不快じゃないし。
「まあ…いいですよ。俺でよければ、好きなだけ監視しててください」
「監視って…ふふっ、そんなことはしてないよっ♡」
(いや24時間人の居場所把握してるのは監視以外の何物でもないんよ)
心の中で当然のことをツッコむが、もちろん声には出さない。
そんなこんなしていると、美晴は嬉しそうに笑いながらまだ歩き始めた。
でも遥輝はそれどころではなかった。
(で、姉さんは何で俺のスマホのパスワードを…?)
とりあえずパスワードを変えることを決意しつつ、美晴を追いかけるのだった。




