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30 最悪の夢


「ねぇ、いいよね?もう我慢しなくても」


そう言いながら美晴(みはる)は服に手を伸ばしてくる。


「ちょ、やめ…」

「ううん、やめないよ。私、ずっとお預けされてたんだから、もう我慢できないよ」


美晴は遥輝(はるき)をベッドに押し倒し、そのままの勢いでキスをする。


最初は普通のキスだが、次第に舌を絡めるような深いものに変わった。


いつもならここら辺で脳の制御装置が作動して強制的にために入るのだが、今日は何故か作動しなかった。


(何だこれ…気持ちいい…)


次第に遥輝の脳内は溶かされ、完全に身体の力を抜いて美晴に身を委ねた。


それがわかると美晴は嬉しそうに笑い、遥輝の下半身に手を伸ばした。


「あ、そこは__!」



「ダメェェェッ!!」


修学旅行三日目の朝、遥輝はとんでもない叫び声と共に目を覚ました。


「あれ?夢…か?」


少しずつ脳も働くようになり、アレが夢であったことに気づいた。


(なんて夢を見てんだ俺は…!)


だが仮に夢であったとしても、あんなものを見てしまえばドキドキせずにはいられず。


(あーもう…!…とりあえず頭冷やすか)


遥輝は身体が熱くなるのを察知し、一度冷水を浴びて落ち着けようと旅館内の温泉に向かおうとした。


だがその途中、思いがけない人物に遭遇してしまった。


「あれ?遥輝くん?」

「!?美晴さん…」


今一番会いたくない人の声が耳に入り、思わず心臓が大きく跳ねてしまった。


「どうしたのそんなの驚いて。浮気でもしてたの?」


美晴は笑顔でとても恐ろしいことを言ってくる。


「いや、そんなことはしてませんよ」

「ならなんで?」

「それはその…」


ここで正直に話さないと、本気で浮気を疑われてしまいそうだ。


だが正直に話してしまうと、それはそれで大変なことになりそうだ。


これがジレンマというやつか。


(どっちに転んでも死にそうだな…)


なら楽に死ねそうな方を選ぶしかないか。


というわけで、遥輝は正直に話すことにした。


「美晴さんが…俺を襲ってくる夢を見まして…」

「私が、遥輝くんを?」

「はい」

「ふ〜ん、そうなんだぁ」


美晴はニヤニヤと笑いながらわざとらしい口調で質問を投げてくる。


「襲うって、どういう意味?パクって食べちゃうこと?」

「ん〜…まあ、あながち間違ってはないですね…」


遥輝の回答を聞くと、美晴はさらにニヤニヤとして。


「ふ〜ん、私が遥輝感をパクっと、ねぇ…」

「いや食べられてはないんですけどね…。まだ未遂でしたし…」

「え〜そうなんだぁ」


途端に美晴は悲しそうに顔を下に向け、ダランと肩の力を抜いた。


そんな美晴を見て遥輝は(襲ってて欲しかったのかよ)などとツッコミを入れつつ、早く美晴から離れるべく会話を終わらせにかかった。


「じゃあ、俺朝風呂行ってくるんで」

「私もそうだよ〜」

「あ、そうですか。ならさようなら」

「ちょっ、待って!!」


遥輝は知っていた。


ここで待てば確実に混浴に連れて行かれることを!


(流石に修学旅行で混浴はヤバい…!)


家ではいいのか?などといったもう一人の自分の言葉は無視し、早足で温泉に向かった。


そして何とか男湯に到着し、ほっと一息ついた。


その頃ようやく美晴も追いついたらしく、ぶつぶつと文句を吐いていた。


(これは後でどうなるか…)


おそらく説教は免れないだろう。


ならせめて少しでも長く温泉に浸かってやろうという気持ちで上の服を脱ぐ。


そして上半身が裸になった時、思わず今朝の夢が脳内によぎった。


(っ!?何思い出してんだ俺は!!)


首を大きく横に振って忘れようとするが、脳内にこびりついた記憶はそう簡単には拭えず。


(あークソ!なんか夢の続き始まっちまったじゃねぇか!!)


脳が勝手に夢の続きを作り始め、いよいよ収集がつかないところわできてしまった。


(もうこうなったら…アレをやるしかないな)


今朝の記憶を消すにはアレをするしかない。



遥輝は自然とそのような考えに至り、気合を入れて温泉に入った。


こうして遥輝の第七回のぼせて記憶を消そう選手権が始まったのだった。


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