29 約束
激動の修学旅行一日目を超え、いよいよ二日目の朝がやって来た。
昨晩は何度も美晴に一緒に寝ようと誘われまくったが、何とか逃げ切って自室で睡眠を取ることができた。
なので疲れもよく取れ、快調な気分で旅館を飛び出していく。
修学旅行二日目は自由行動なので、遥輝は三人の班員と合流して早速街中へ向かって電車に乗った。
(あ〜平和だなぁ)
何というか、ある人物がいないだけでほのぼのとした気分で過ごせる気がする。
世界が暖かいというか、ふわふわで柔らかいというか。
つい浮いてしいそうなぐらいに遥輝の心は軽くなっていた。
(この平和が今日は続きますように)
電車内でだらんとしながらそう考え、今日の安全祈願を済ませた。
それから20分後に街に到着し、遥輝は班員と共に様々なところを観光して回った。
名物の建物を見に行ったり、美味しい食べ物を食べながらぶらぶらとそこら辺を回ってみたり。
そんな遥輝にとってとても幸せな時間を過ごし、気づけばもう昼を過ぎていた。
「やべ、もうこんな時間か」
「何だよそんなに時間気にしてよ。どっか行きたいとこでもあんのか?それとも誰かと待ち合わせか?」
「んん、まぁ、そんな感じ」
遥輝はあえて濁して答えるが、班員達には謎に伝わってしまって。
遥輝以外の三人は公衆の面前で堂々と罵詈雑言を浴びせてきた。
「んだよこの裏切り者!!!」
「ええそうですか!!俺らなんかより彼女ですか!!」
「クソ滅びやがれリア充が!!!」
(返す言葉もねぇ…)
実際裏切り者ではあるし。
でもこれには理由があるのだ。
あれは昨晩、夕食を食べ終えて温泉を上がった後の話だ。
浴衣に着替えて部屋に戻る最中に美晴に捕まり、そのまま美晴の部屋まで連行された。
そして少しだけ世間話をした後、美晴が突然「一緒に寝ようよ」と言い出したのだ。
だがそんなことをすれば当然ルームメイトにバレるし、そこから大きな騒ぎになりかねないので丁重にお断りしたのだが、美晴は諦めの悪い人で。
何度もせがられるが遥輝は心を鬼にして断り続けた。
そして数分が経った時にとうとう美晴が泣き始めてしまい、折衷案として修学旅行二日目のデートを提案したのだ。
これが今回の事の経緯だ。
班員には申し訳ないが流石に約束をすっぽかすわけにはいかない。
余計に拗ねられそうだし。
なので遥輝は深々と班員に頭を下げた後、美晴との待ち合わせ場所に向かった。
「遥輝く〜ん!こっちだよ〜!」
少し早歩きで目的地まで向かっていると、その付近で手を振る美晴の姿が見え、ダッシュでそちらに向かった。
「ごめんなさい、待たせちゃいましたか?」
「ううん、私もちょうど来たところだから」
「そうですか。なら、行きましょうか」
仕事上がりの美晴を連れて目的地を案内する。
「お、ここですかね」
「そうだね〜。結構大きいね」
昨晩遥輝がデートスポットに提案したのは、大規模なフラワーパークだった。
国内でも有数の花の数で、カップルには人気があったりするらしい。
遥輝も元々いつか美晴と旅行した時にでも来てみたいと思っていたところなので、ちょうどいいと思ってここを提案した。
(ここにして正解だったな)
実際に大量の花を見て圧倒され、遥輝は直感的にそう感じた。
美晴も早速楽しんでくれているようだし。
「おお〜!見て見てこれ!!お花でハートを作ってるよ!!」
美晴想像よりもは喜んでくれているようで、入ってからすぐにはしゃぎ始めた。
そんな無邪気な笑みを浮かべる美晴を見ながら遥輝は花と美晴を見比べた。
(ん〜…花も綺麗で可愛いけど、その何倍も美晴さんの方が綺麗だし、何倍も可愛いな)
これを口に出せば喜んでくれるだろうが、それは恥ずかしいのでやめておく。
「お〜い!こっちで写真撮ろ〜!」
また美晴は楽しそうにうろうろしている。
ホント、普段は大人ぶってるくせにやっぱりまだまだ子供なところもあるな。
(ま、そこも可愛いんだけど)
美晴のことを眺めながらそう考えつつ、駆け足で彼女のもとに向かった。




