26 マネージャー頑張って
楽しい時間は長くは続かず、もう日が落ちてしまった。
光がなくなると北の大地はかなり冷え、冬の始まりをまじまじと感じながら旅館にチェックインした。
「おぉこれはなかなか」
遥輝は案内された部屋に入り、早速布団を敷いてダイブした。
「いやっふぉい!って…案外痛いんだな」
「そりゃベッドじゃないからでしょ」
同室であるクラスメイトに当然のことをツッコまれるも、それに反応すれば負けな気がしたので無視して。
遥輝はそのまま布団に顔を伏せたまま一旦我に帰った。
(いや全身いてぇぇぇ!!!あいつ力強すぎだろ!?)
先程まではなんとか我慢できていた痛みが襲ってきて、思わず心の中で思い切り声を出す。
(普通に俺なんで耐えれた!?痛すぎて死にそうなんだけど!!)
あの出来事からしばらく経った今でもこの痛さ。
ならやられている最中は想像を絶する痛さだったのでは?
そう考えると過去の自分が怖くなってくる。
(あの時の俺カッコよすぎだろ…!!)
いや、全然怖くなかったわ。
むしろ完全に自画自賛している。
だがカッコよかったのはあながち否定できないのでこれが厄介で。
遥輝はジワジワと襲ってくる痛みに耐えつつあの時の自分を思い出し、自己肯定感を向上させていく。
(いや〜アレは流石の美晴さんも惚れたでしょ〜。フッ、罪な男だぜ⭐︎)
布団に突っ伏したままクソキモはよ○ねや(?)なことを考えていると、部屋の扉からノックがかかった。
「?誰だろ」
「先生か誰かだろ」
「俺出てくるわ」
ルームメイトが立ち上がり、部屋の扉を開けにいった。
「はーい、どうかしましたか…って、えぇぇぇっ!?」
部屋中にルームメイトの驚きの声が響く。
「?どうかしたか?」
「し、し、し…」
「し?」
「白雪先輩っ!?」
「は!?」
突然ルームメイトの口から美晴の苗字が呼ばれ、遥輝は嫌な予感がした。
(いやいや、流石にな…)
それがただの早とちりで終わればいいと思い、確認のため扉の方に向かって行った。
そしてそこに立っていたのはモデル顔負けの美貌を拵えた…いや、ガチのモデルだった。
「み、美晴さんっ!?」
「やっほ〜」
美晴は呑気に手を振りながら笑顔を向けてくる。
だが今はそんなことはどうでもよくて。
「なんでここに!?」
本日美晴は仕事で北の大地にきていてる。
先程は仕事を早く終わらせて無理やり合流したらしいが、今回は話が別だ。
まあ無理やり合流したのも意味がわからなかったが。
とにかく、こんな広い北の大地で旅館まで被るか?
そのような疑問が遥輝の頭に浮かぶ。
そしてもう一つ、考えたくない可能性が脳裏をよぎった。
「たまたま同じ旅館だったぽいね♡」
そう、無理やり同じ旅館にしてきたのだ!
どうせ美晴の言葉は嘘だ!
マネージャーとかに無理言って合わせてきたに違いない!
(そういう人だからなぁ…)
普通の人間ならこういう思考に辿り着かないだろうが、美晴の恋人を暫くしているとどうしてもそう考えてしまうのだ!
実際に今までも(あり得ないだろ)みたいに考えていたことを平気でしてきたし。
そして今もしてきてるし。
(もう慣れてきたな…)
遥輝は慣れたくないことに慣れてしまった自分に失望しつつ、一旦部屋から出て二人で話すことにした。
「きゃあ♡私、どこに連れて行かれちゃうんだろ♡」
「どこにも連れて行きませんよ。で、どうしてここに?」
「君と一緒に泊まりたかったから?♡」
「理由になってないですよ」
まあ、大体予想通り。
もうツッコむのも疲れてきたが、とにかく今は身体の痛みがバレないように振る舞わねば。
「え〜遥輝くんと一緒に寝たいから頑張って予定いじったのに〜。遥輝くんのいじわる」
「えと、せめてそういうのは事前に言ってもらえませんかね…」
「それじゃ面白くないでしょ?」
「そっすか…」
もう喋る気力すら湧かなくなってきて、今何か言われたら多分首を縦に振ってしまいそうだ。
「と、いうわけで。遥輝くん、私の部屋にきて?♡」
美晴は遥輝の状態をわかってこの提案をしてくる。
そして遥輝は言い争う余裕がないので普通に首を縦に振った。
「ふふっ♡じゃあ行こっ♡」
美晴は遥輝の手を握り、少し強めに引っ張りながら上の階に拉致した。




