21 ファーストキス
小鳥の囀りが響く朝、遥輝はカーテンの隙間から入る太陽の光で目を覚ました。
まだ寝足りず、二度寝をしようと企むがそれは隣で寝ている彼女によって阻止される。
「こ〜ら、ダメだよ?二度寝しちゃ」
「…美晴さん…」
隣で子供を躾けるように口を尖らせる美晴を見て遥輝は微妙な気まずさを感じる。
(何から話せばいいんだ…?)
遥輝の脳内には昨夜の記憶が蘇り、思わず目を逸らしてしまう。
「お、おはようございます…」
「うん、おはよう。で、どうして目を逸らすの?」
「いえ、特に理由は…」
「ふーん…」
美晴の顔は見えないが、多分ニヤニヤしているだろう。
そしてそれを証明するかのように美晴は突然遥輝の頬を突き始めた。
「もしかして照れてるの?♡昨日のアレ、思い出しちゃった?♡」
「……」
遥輝は沈黙を貫くが、それが肯定であることは火を見るよりも明らかで。
「ん〜♡可愛いね〜♡私の唇、そんなによかった?♡」
「…まあ」
「そう?ふふっありがとね〜♡」
そう言いながら美晴は遥輝の背中に腕を伸ばし、そのまま抱き寄せてきた。
「!?」
「あ〜やっぱり好きだな〜♡遥輝くん可愛すぎるよ」
「子供扱いしないでください!俺は立派な高校生です!」
やはり子供扱いされているということに気づき、遥輝は反抗するようにそう言った。
だがそんな攻撃が美晴に効くはずもなく、さらにニマニマとした表情でこちらを見つめてくる。
「そうだね〜♡遥輝くんは立派な高校生だね〜♡」
絶対子供扱いしてんだろ。
よし、ここは一発ぶち込んでやろう。
(俺の威厳のために…!!)
遥輝は心に炎を燃やしつつ美晴に語りかけた。
「美晴さん、昨日の夜俺にキスされたとき滅茶苦茶照れてましたよね?」
「!?」
「いや〜あの時の顔は可愛かったなぁ」
遥輝はわざとらしく美晴を煽る。
(これで美晴さんも俺のことを子供扱いしなくなるだろ__)
その瞬間、美晴の腕の力が強まった。
「もぉ、それ掘り返すなんて悪い子だね。そういうのはダメだよ!私も恥ずかしいんだから」
あ、やっぱり恥ずかしいんだ。
でもなぜか今の彼女の表情に羞恥のようなものは感じられない。
なら一体、彼女は何を思っているのだろうか。
「でも、あの時の遥輝くんは本当に男らしくてカッコよかったよ。だから、照れちゃったのは女の子として当然の反応なんだよ?」
つまり彼女はもう吹っ切れているのだろう。
昨夜の出来事もそうやって心の中でまとめ上げているのだ。
(やっぱ、この人には叶わないな…)
美晴の説明を聞くと流石にこれ以上深掘りはできないと思い、遥輝は目を瞑った。
だがそれに関係なく美晴は話を続ける。
「遥輝くん。そんなに頑張らなくても、君がもう大人の男性だっていうことはわかってるよ。だって私のファーストキス、奪われちゃったもん」
「!?」
流石にそんな言い方をされると心臓が跳ねてしまう。
そして現在身体が密着している。
遥輝は心臓のドキドキが伝わっていないのか不安になる。
(頼むからもう少し離れてくれ…!)
そんな祈りが美晴に届くはずもなく、美晴は昨夜の出来事を嬉しそうに話し続ける。
「遥輝くんに力強い腕で抱き寄せられた時は、もう逃げられないんだなって感じたよ。私、これからこの人に襲われちゃうんだって、ドキドキしてたよ」
「なんか誇張してませんか!?」
「してないよ?私本当にそう思ってたもん」
やはりそう感じていたのか。
いや薄々誤解されてもおかしくないやり方だったとは思っていたが、それが確信に変わってしまい、遥輝は何とも言い難い羞恥心に襲われる。
「…すいませんでした」
「何で謝るの?言ったでしょ。私ドキドキしてたって。だから、遥輝くんは普段からもう少し積極的だと、私を服従させることができるかもね?♡」
美晴は頬を赤く染めながら少しドヤ顔でそう言った。
それに遥輝は呆れた目を向けた後、少し笑ってからツッコミを入れた。
「いや服従て。流石にそこまではしませんよ。でも、美晴さんをドキドキさせる為に、頑張りますね」
「うん!期待してるね!」
遥輝は早速脳内で作戦を練り始めた。
美晴の早い胸の鼓動を感じながら。




