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20 唇の感触


唇を離して目の前を見ると、そこには顔を真っ赤に染めて目を見開いている彼女の可愛い顔があった。


「あはは…なんだか照れますね…」


やらかした本人さえも恥ずかしがり、いよいよ気まずい空気が流れ始めた。


「急にごめんなさい。やっぱ、言ってからの方がよかったですよね…」


いくら美晴(みはる)からの奇襲を避けるためとはいえ、流石にやりすぎたと感じた遥輝(はるき)は目を下に向けて謝った。


それから数秒後、美晴の口からは想定外の言葉が飛び出した。


「ううん、すごくよかったよ。うん…すごく、ね」


美晴は恥ずかしそうに片手で顔を隠しながら目線を彷徨わせている。


可愛すぎる。


突然彼氏にキスされてあわあわしている彼女、可愛すぎる。


(やべぇもっかいキスしたい)


そんな可愛い動作をされると自然とそのような感情に至ってしまう。


だがしかし、流石に自分勝手すぎるのでその気持ちは胸の中で抑えておいて。


遥輝は可愛く目線を逸らしている美晴の目を見ながら笑い、頭を撫で返した。


「可愛いですね美晴さん。まさかあの美晴さんがキスひとつでこんなになるなんて思いもしませんでしたよ」

「なっ!そ、そんな事ないよ!?別にキスしてドキドキしてなんてないよ??」

「へぇ、そうなんですか。ならもう一回しても大丈夫ですよね?」

「もちろん大丈夫だよ!?お姉さんだからねっ!」


はい誘導成功。


案外チョロいなこの人。


普段はあんなにお姉さんぶってるくせに、こちらから攻めるとすぐに子供っぽくなる。


まあそこも可愛くて好きなのだが。


「それじゃあお言葉に甘えて」

「ちょっとまって!」


もう一度美晴に顔を近づけようとしたところでストップがかかり、遥輝は怪訝そうな顔を向けた。


「どうしたんですか?もしかしてやっぱり恥ずかしいとか…?」

「い、いや!そうじゃなくて…」


美晴は半ば投げやり気味にある提案をしてきた。


「わ、私から…してもいいかな?」

「!?」


その提案は破壊力が高すぎる。


今まで押しているつもりだった遥輝もすっかりその気がなくなり、全身が熱くなり始めた。


それを察したのか、美晴はニヤニヤと笑いながら顔を近づけてきた。


「もしかして…ドキドキしてる?♡ふふっ、か〜わい♡」

「!?べ、別にそんなことは…」

「え〜?可愛い彼女にキスしてもらえるっていうのにドキドキしないの?ショックだなぁ」

「…」


わざとらしすぎるだろ。


誘導してるのバレバレだし。


でもここで突っぱねても面倒な事になるのでしっかりと正直に答えておく。


「ええ、してますよ!!ドキドキしてますけど!?何か悪いですか!?」


だがやはり対抗心が湧き、少し反抗するような口調でそう述べた。


すると美晴は一瞬身体をビクンと跳ねさせ、ボソボソと何か呟き始めた。


「(ドキドキしてくれてるんだ…嬉しい)」


まあ聞こえてるんだけどね。


部屋には二人しかいないし、音楽を流したりテレビをつけているわけでもない。


つまりこの部屋では小さな声でもよく響くわけで。


(クソォォ!!流石にこれは挑発できねぇぇぇ!!!!)


流石にあの発言に触れるのはデリカシーが無さすぎると思い、心の中で叫ぶだけにとどめた。


一旦深呼吸して心を落ち着けてから前を向くと、目の前に美晴の顔あり、反射的に距離を取ろうとした。


だが美晴からガッチリと抱きつかれており、それはできなかった。


もう逃げ道は無くなった。いや別に無くていいのだけれども。


遥輝は覚悟を決め、目を瞑って美晴の行動を待った。


「じゃあ、するね?」

「はい」


それから数秒後、唇に柔らかい感触が伝わってきた。


二人はそのまま静止し、お互いの唇の感触を確かめるように唇を少しだけ動かした。


先程はわからなかった美晴のプルプルで甘い唇に魅了され、ずっとこのままでいたいと思った。


だが幸福な時間が長く続くことはなく、十秒程で美晴の唇は離された。


「どう?私の唇」

「すごく…よかったです…」

「そう?ならよかった♡」


美晴は嬉しそうに微笑み、遥輝から手を離して反対方向を向いてしまった。


そして顔を隠すように布団を被り、一言だけ声をかけてきた。


「おやすみ。遥輝くん」


それに対し、遥輝も嬉しそうに笑みを浮かべながら言葉を返す。


「おやすみなさい。美晴さん」


彼女の動作から喜んでくれていることが伝わり、遥輝は爽やかな気持ちで深い眠りに着いた。


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