15 聞いてないんですけど
あれから一ヶ月の間、遥輝は美晴ととても濃い日々を送っていた。
ある日はほとんど変装もせずにデートさせられたり、ある日はホテルに連れ込まれそうになったり。
もう本当、心臓に悪い出来事しか起こっていない。
でもそれが楽しかったりしてとても複雑である。
とまあそんな感じの日々を送っていたわけだが、今日は久々に家でゆっくり過ごせる日だ。
(この休日、絶対に満喫してやる!!!)
そんな感じで心の中で意気込んだところで丁度家のチャイムが鳴った。
それには遥香が対応し、少しだけ家を出て行った。
そして帰ってきた時には隣に人気モデルが付いていた。
「え?」
「お邪魔するね、遥輝くん」
「え、えぇぇぇぇっ!?」
人気モデルの突然の来訪に驚きを隠しきれず、遥香に状況の説明を求める。
すると遥香はすっとぼけたように話し始めた。
「あら、言ってなかったかしら?今日美晴とお泊まり会するって」
「いや聞いてねぇよ!!てかいつからそんなに仲良くなったんだ!?」
「う〜ん…最近?」
「美晴がよくあなたの好みとかを訊いてくるから、それでね」
そうやって遥香が暴露をすると、美晴が慌てて遥香の口を塞いだ。
「ちょっと遥香ちゃん!?それは言ったらダメだってぇ!!」
「ああ…そういうことか…」
どうりでこちらの好みを知っているわけだ。
どこから情報が漏洩しているのか気になっていたが、まさかこんなにも身近だとは。
別に悪い気はしないが。
「あんま余計なことは言わないでくれよ」
「それはもちろんわかっているわ。あなたが朝起きてから夜寝るまでのことしか話していないもの」
「うん、ほぼ全部じゃん!?」
そこはせめて食事の好みぐらいだろ…。
そんなことを呟くが、当然そんな常識は通用しないだろう。
だって今も二人でコソコソ話してるもん。
「(そうね…頻度はだいたい週5ってところかしら…)」
「(ご、五回も…!?私、そんなに耐えられるかな…)」
(いや何言ってんのこの人達!?)
なんかとんでもないことを暴露された気がする。
そもそもなんで知ってんの?
数字も割と正確だし、まさかバレてる?
(いやどうやって知ったんその情報)
バレてるとしてもどうやって?
普通に不可能なはずなんだけどな。
(今日からセキュリティ強めるか)
遥輝は自分の威厳のためにも今日から防犯カメラを導入することを検討しつつ、とりあえず部屋に戻ろうとした。
「あれ、遥輝くんどこ行くの?」
丁度部屋の扉を開けたところで後ろから美晴に声をかけられ、そちらを振り返る。
「自分の部屋ですけど」
「え〜私と一緒に話そうよっ」
「いや今日は姉さんとお泊まりするんですよね?なら俺は邪魔でしょうから…」
「そんなことないよっ!」
当然のことを述べると、美晴は大きな声をあげて否定してきた。
「今日はこの三人でお泊まり会するんだから君もいてくれないとダメだよ!」
「え?」
「え?」
何か想像していた返答と違い、戸惑ってしまう。
「えっと…今日は姉さんとお泊まり会するんじゃ…」
「いや、遥香ちゃんと遥輝くんとお泊まり会するんだよ?」
「え?」
いや聞いてないぞ?
だってさっきは二人でお泊まりするみたいなことを言って__
「あら、言ってなかったかしら?今日は三人でお泊まり会するのよ」
「いや聞いてねぇよぉぉぉ!!!!」
絶対わざとやってんだろこの人!
せっかく優雅な休日を過ごすつもりだったのに!
そんな愚痴を心の中で溢していると、美晴が近くまでやってきて耳元で何か囁き始めた。
「(今日はよろしくね♡)」
そう言って笑顔を浮かべた後、美晴は楽しそうに遥香と話し始めた。
その反面、遥輝はドキドキで動けなくなっていた。
(お泊まりって…つまりお泊まりってことか…?)
遥輝の脳内はピンク色で染まる。
だがすぐに首を振ってそれを打ち消し、一旦冷静になってから二人のもとに向かった。




