第九十七話 お別れ――
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ピエロはいなくなったが、それ以上、特に餓鬼があらわれるようなこともなく、美狩も無事家族の仇を取ることが出来たので、結局餓鬼の件はこれで片がつくことになった。
「今回の件はしっかり上に報告して対処させてもらう。しかし、お前たちのおかげで助かった。これで俺の評価が上がるのは確実、あ、いや。とにかくありがとう」
別れ際赤井から至極感謝された。その言葉の中に紛れていた本音はできれば聞きたくなかったが、よく考えてみればこんな危険な仕事、打算の一つもなければやってられないだろう。
「ふん、お前は公安だったな。なら次会う時は敵同士かもな」
「お前らが悪事に手を染めればな。だが、薬はやらない、犯罪になるようなことにも加担しない。納税もしっかりしている。そんな連中を追いかけるほどこっちも暇じゃないのさ。できればそのままでいてくれるのを願うね」
「フッ」
「いい話だね」
「そうね見直したわ」
「いやいや! てかそれもう普通の一般人じゃね!」
皆が感心する中、シンキチのツッコミは冷静だった。
「竜藏さんって普段は仕事としては何してるのですか?」
そして気になったのか委員長が竜藏に問いかけた。
「フッ、しがない家づくりとかさ」
「大工じゃん! それもう大工じゃん! え? 大工なのにあんなに強かったの? それはそれで謎だよ!」
「ばかいえ! ご年配のかた向けの買い物代行や、塵屋敷の片付けなんかもやってるわ!」
「意外と手広い! 万屋だよね! それもう万屋だよね!」
『ツッコむなぁ』
餓鬼との長い戦いは終わったがシンキチのツッコミはまだこれからも終わらないだろう。
「俺達の戦いはこれからだみたいな締め方されようとしているよ! あと言うほど長くないからね!」
『俺達のツッコミはこれからだ!』
三百年間のご愛顧と応援ありがとうございました。シンキチ先生の新しいツッコミにご期待ください。
おわり
「いや、終わるなよぉおぉおおぉお!」
『まだ終わりじゃない。あとちょっとだけ続くのだ』
「むしろこれからが長い伏線張っちゃったよ!」
そしてシンキチがはぁはぁと肩で息をする。
「お前……やかましいな」
『声がでかいんだよね』
「誰のせいだよ!」
「あん?」
「あ、いえ、今のはその、俺の右手の炎のダマルクに向かって言ったことでその……」
竜藏に睨まれシンキチが慌てた。強力な力が手に入ったものの、本質的には気弱なのである。
『菜乃花』
「何、オニイサマヨ?」
『君とはこれでお別れだ』
「えぇ! どうして!」
ふと、菜乃華が手にしていた刀が喋りお別れを告げてきた。突然のことに驚く菜乃華であり。
「どうしてなのオニイサマヨ! 私、もっと君と一緒にいたいよ!」
『その気持ちは兄としてわか、あ、いや。とにかく無理なんだ』
「どうしてよ!」
『それは――このまま持っていると銃刀法違反だからだ!』
「そういうことだな」
「えぇぇ~……」
「意外と普通の理由だったーーーー! てか別れ方それ! 銃刀法違反だからってそれ!」
「仕方ないだろう。そういう法律なんだから」
赤井がやれやれと言った顔で答える。
「そうね。漫画やラノベじゃあるまいし、刀を持って学校をウロチョロしてラッキースケベな主人公を切りまくるなんてこと許されるわけないもの」
「先生妙に具体的だなおい!」
「えぇ~やってみたかったのに」
「やってみたかったのかよ! そんなんだから回収されるんだよ菜乃華は!」
『あ? 菜乃華?』
「あ、いえ、菜乃華さんです、すみません――」
シンキチのツッコミに理解のあるダマルクだが、いもう、いや菜乃華については手厳しいのである。
とにかく、結局このまま持たせるわけにはいかないからと、菜乃華のオニイサマヨは回収された。
真弓が手に入れたレーザー弓矢もだ。
「こんなあぶないもの、国家的にやべーからな……」
当然だが公安の赤井が無視できる代物ではないのだ。
「私のおはじきは大丈夫なの?」
「おはじきは大丈夫だが、多分あんたは大問題なんだよなぁ、まぁそこは上手く言っておくよ」
「ふふ、よろしくね」
ぽりぽりと後頭部を擦る赤井に笑顔で返す教子だ。そして教子は美狩を振り返るが。
「……家族の仇は取れた。これから私はどうしたらいいのか――」
「何言ってるのよ」
目を伏せ憂いのある表情で呟く美狩。そんな目的を失った少女に教子が言葉をかけた。
「貴方は私の部屋でこれからも普通に暮らして普通に学校に通って、友だちと青春を謳歌するの。それ以外に何があるのよ?」
「え? で、でもいいのか? 私のおかげで皆に迷惑掛けたのに」
「そんなことないよ! 悪いのはあの餓鬼という悪党だよ! 美狩ちゃんは悪くない!」
委員長が訴える。そう彼女はずっと美狩が悪くないといい続けていた。そしてそれは他の二人も一緒だ。
「そうだよ美狩ちゃん。折角友だちになれたんだし、これからも一緒だよ!」
「うんうん。むしろ離れると言っても追いかけて捕まえるから!」
「菜乃華、真弓――」
その時、美狩の目から涙がこぼれた。そして涙を拭いながらこれまで見せたことのないような笑顔も見せるのだった。
「うぅ、えぇ話や。ツッコむところがない」
「確かにな。ただ、あの委員長の料理は下手したらバイオテロに近いんだが」
「えぇええぇええぇええ!? そこまで! 一体何をどうしたらそうなるの! どうみてもただ卵と小麦粉と砂糖と、てかパンケーキの材料でしかなかったよね!」
『やっぱりツッコむか』
結局ツッコんでしまうシンキチなのだった。
とはいえ、本人に悪気がない以上細かいことを気にしてもしょうがないということで見逃されることとなった。
もっとも委員長の料理でやられた餓鬼は全体の三割程度であり大したことないと判断されても致し方なしだろう。
「そうそう三割程度、て! 多いよ! 思った以上だよ!」
こうして最後の最後までツッコミ続けたシンキチだったが、その後は色々あって普通に家に帰ることとなった。
「その辺雑だなおい!」
そして部屋に戻り、ふぅ、と一息つくシンキチであり。
「何か今日はつかれたな。技は二回しか放ってないのに」
『シンキチ』
「うん? どうしたダマルク?」
『大事な話があるんだ』
「はは、何だよあらたまって」
『……お別れの時間だ』
「え! お、お別れって、お前、消えるのか?」
シンキチの問いかけにダマルクがコクリと頷いた。
「なんでだよ! 折角俺の封印が解けたのに!」
『俺だって寂しいよ。でも、シンキチ、自分は長くいすぎたんだ。力も使いすぎたし、もう力が殆ど残っていない。だから、もう一緒にはいられないんだ』
「そ、そんな、ダマルク、そんなの嫌だよ。お前とずっと一緒にいたじゃないか。それなのに――て、全然長くねーよ! 何ならまだ一日もたってねーよ! 力を使い果たしたって、そもそも二回しか鳳極天氷使ってねーし!」
シンキチがツッコんだ。見事なノリツッコミであった。そうシンキチはノリツッコミを最後に覚えた。それがダマルクの最後の贈り物――
「え? ここは?」
気がつくとシンキチは謎の空間にいた。その空間の中では二人の人物が会話している。
「なんでやねん!」
「なんでやねん!」
「なんでやねん!」
「なんでやねん!」
『ある日道で――出会った二人がふと見るとボケあっていた。そんな時、どうしてツッコミたくなるのだろう?』
「いやいや何これ! 妙な空間に連れてきて何いいだしてんの!? てか二人共ボケじゃなくてツッコミだよね! しかもコテコテのツッコミを壊れたレコードみたいに繰り返してるだけだよね!」
『それは君がツッコミ体質だからさ』
「流した! 俺のツッコミ流して話を進めたよ!」
『そう、それだけが君の唯一の取り柄なんだ』
「酷いこと言った! 今なにげに酷いこと言ったよこの封印!」
『ボケをみたらすぐにツッコめるキャラクター――素晴らしいじゃないか!』
「俺褒められてるの貶されてるの?」
『だからさシンキチ。そろそろ、飯を食おうぜ腹が減った』
「……はい?」
『お母さん、料理が上手ですねプロでも中々この味は出せませんよ』
「あらあら、お上手ね。ダマルクちゃんお代わりいる?」
『あ、お気遣いどうも』
「て、すげー馴染んでるじゃん! 普通に食卓で飯食ってるじゃん! 消えるんじゃなかったのかよ!」
『さっきお別れだといったな? あれは嘘だ』
「嘘なのかよぉおぉおおおお!」
こうしてダマルクは暫くシンキチの腕に残ることとなったのだった――
◇◆◇
黒瀬 帝は完璧だった。ゲームの腕も完璧だった。格ゲーなどオンラインを含めてカイザーという二つ名で呼ばれる程に完璧であった。
そんな黒瀬だが、しかし彼は孤独でもあった。完璧故にどこか人と距離を置き、他者ともあまり関わり合いにならないようにも生きてきた。
故に常に退屈を持て余してもいた。故にサバイバルロストでは運命のコインの結果次第でゲームに乗ろうとさえ思っていた。
だがそれを邪魔した男がいた。海渡だった。許せないと思っていた。生かしてはおけないと思っていた。
だが、それから時が進み、いつしか黒瀬は皆とカラオケに行ったりボウリングをしたり、最近は海渡たちとアミューズメントパークなどで一緒に遊んだりもした。
だが、彼の本質は変わらないだろう。今でもきっと虎視眈々と海渡の命を狙っている筈だ。
そしてその時はきた。
「ハッピバースディー黒瀬~」
「黒瀬くん誕生日おめでとう」
「はは、黒瀬もそういうのつけるんだな」
そう今日は黒瀬の誕生日だった。そしてそれを聞いた皆が黒瀬の為に誕生日会を開いてくれた。
黒瀬は何故か参加することになり、頭にキラキラ光る三角帽子を乗せて鼻眼鏡も掛けていた。
だが黒瀬はチャンスだと思った。海渡を手に掛けるなら今しかないと思っていた。
目の前にはバースデーケーキ。これこそが海渡をやる武器となる。
作戦はこうだ! 海渡の頭を掴み、ふざけたふりして海渡の顔をケーキに押し付ける。海渡は窒息する。単純だが確実な手だった。
だが、その前にやることがあった。そう運命のコインだ。それを弾いて結果を見なければ――
「あ――」
しかし、ポケットをまさぐり黒瀬は気がついた。運命のコインがない。そう、黒瀬はコインを家に忘れてしまっていた。
黒瀬は迷った。コインを取りに戻るべきか――
「ほら黒瀬、ロウソクに火が灯ったよ。誕生日、おめでとう」
ふと、海渡が黒瀬に言葉を掛け、祝いの言葉を投げかけてきた。
「――フッ……」
黒瀬の顔にわずかだが笑みが浮かぶ。そして黒瀬はロウソクを吹き消し、この日ぐらいは楽しもうと、心に決めるのだった――
これにて第七章 餓鬼編は終了となります。
次は第八章!果たして次は何が待ち受けるのか!
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