第九十話 集められた生贄
結局、委員長を人質に取られてしまったことで全員が餓鬼に捕まり視界を封じられたままどこかへ連れていかれることとなった。
奴らが襲ってきたのは天下の往来であり、人々も多く歩いていたのだが全く気づかれることもなく目隠しされ車に押し込まれ今に至る。
本来ならありえないが餓鬼は特殊な能力を持つ。周囲に気づかれなくなる特殊な異能持ちがいたとみるべきだろう。
事実、今全員の動きが封じられているのも何らかの能力によるものだ。
「一体私達をどこに連れて行くつもりだ!」
視界が効かない状態にありながら、怒りを顕にする美狩。すると彼女たちを攫った連中は不敵に笑いながら答えた。
「ついてからのお楽しみだ。何、すぐに殺しはしないさ。ちょっとした余興に付き合ってもらう」
「余興って何を考えているのよ! いい! 私の生徒や委員長に手を出したら承知しないわよ!」
「はっは、気の強い女もいたもんだ」
教子も気丈に振る舞うがそれが逆に連中を喜ばせてしまっているようだ。
「うぅ、ごめんなさい私のせいで……」
一方で捕まってしまったことを委員長が激しく後悔していた。
「委員長のせいじゃないよ。悪いのはこんな真似してるこいつらだもん」
「そうよ! 菜乃華ちゃんの言う通り。こんな真似して絶対バチがあたるんだから!」
だが菜乃華も真弓も委員長の責任などと思っておらず優しい言葉をかけてあげる。そう悪いのはどう考えても攫った餓鬼たちなのだ。
「はは、面白い連中だ」
「その生意気な口がどこまで利けるか見ものだな」
だが悪びれる様子もなく餓鬼が笑い飛ばす。
そして五人はどこかで車から降ろされた後、そのまま運ばれ――そして乱暴に落とされた後、拘束が解かれ視界も戻っていく。
「……ここは?」
「くっ! まさか組織の手がここまで回るとは! だがお前たちは後悔することになるぞ! この僕の邪天眼が発動したが最後、最果ての宇宙に眠る大小宇宙の力によって第七天魔獣神ダマルクが復活しお前たちをまとめて吹き飛ばすに決まってる。それが嫌ならお願い家に帰して、ふぇ~ん暗いよ怖いよ~! て、あれ? 視界が……」
視界が回復し周囲の状況を確認する美狩。薄暗く周りの状況は完全には把握出来ないが、近くで倒れている人たちは確認できた。
すると先ず目についたのは右手に包帯をした鳳凰院の姿であった。
「鳳凰院! 何故お前が!」
「え? 鳳凰院くん?」
「なんで鳳凰院がここに?」
「あら、本当に鳳凰院くんじゃない」
「え? み、皆、先生まで!?」
「え~と、知り合いなのですか?」
何故かその場に居合わせた鳳凰院に教子やクラスメートが驚くが当然委員長は彼を知らない。
「え、え~と、その、道を歩いていたら急に――」
「は! そうか鳳凰院! さては連中の企みを知って潜入調査をするために来たのだな!」
「ふぇ?」
答えに戸惑う鳳凰院だったが、美狩がハッとした顔でわかったようなことを言った。
「そ、そのとおりだ。よくわかったな」
そして鳳凰院がそれを肯定するような発言を見せる。さっきまで泣きそうになっていたが今は奇妙な決めポーズまで見せていた。余裕がありそうだが膝はカタカタ笑っている。
「やれやれね……」
「え~とね委員長。彼は」
「え? 中二? 後輩なの?」
「え~とそうじゃなくて……」
それを見ていた教子が苦笑する。だがすぐさま真剣な目で周りを確認した。一方で菜乃華と真弓が委員長に鳳凰院について教えてあげていた。
「待って、他にも誰かいるわね?」
「ふん、騒がしい餓鬼共だ」
「厄介だな。こんな女子どもまで連れてこられるとは」
教子の言葉に他の皆も反応し教子が見つけた人間を確認した。いたのは二人の男性だった。一人は和装であり右眼に傷のある骨太な体をした男だった。風貌的にカタギには見えない。
もう一人は細身だが鋭い目をした男だ。スーツ姿ではあるが、ただのサラリーマンには見えない。
「貴方達は?」
「ふん、姉ちゃん。人に物を尋ねる時には先ず自分から名乗るものだぜ」
「あらごめんなさい。私は夢魅 教子。この子達の教師をしているの」
教子が素直に答えると骨太の男も瞑目し名乗りだした。
「……そうかい。俺は龍巳 竜藏。ま、見ての通りカタギじゃねぇ。ちょっとしたいざこざがあって奴らと揉めてたんだがこんな強引な手でくるとはな」
「私は赤井 遼だ。素性は明かせないが奴らを追っていたとだけ伝えておく。捕まってしまったがな」
どうやらそれぞれ事情があって餓鬼に狙われる羽目になったようである。
「それにしてもこんなところに集めて、奴ら一体何を?」
美狩が疑問の声を上げたその時、パッと光が灯り周囲の景色が一変した。捕らえられた全員はどこかの建物の中に連れてこられていたようだが、周りには観客席が溢れ、そこに多くの人物が座っていた。席は満員状態である。
「レディースアンドジェントルマーン! おまたせ致しました! さぁ本日の生贄はこの者たちだ! きっと目覚めたことで、これから始まる狂宴に震え上がっていることでしょう!」
そんな声が響き渡る。声の主は空中にふわふわと浮かぶ派手な格好をしたピエロであり、マイクを持って観客へアピールしていた。
「なんだこれは! 貴様らどういうつもりだ!」
「おっと、自称餓鬼狩りを名乗る少女、鬼滅 美狩が何やら吠えてますね~」
「な、こいつら私のことを……」
ピエロが全員を見下ろしながら美狩について触れ、それに彼女も驚きを隠せない様子だった。
「おやぁ? 意外そうな顔をしてますねぇ。でも、まさか私達がお前ごときの情報を掴んでないとでも? ハッハッハ甘い甘い! とっくに情報は掴んでいたのさ。そしてこれから始まるはお前たち生贄と餓鬼によるバトル、いや一方的な蹂躙かな?」
そんなことを楽しげに語るピエロに美狩だけではなく教子の目つきも鋭さをましていく。
「おっと、そんな顔しないしなーい。ここにいる観客は全員が餓鬼。本来ならお前らなんていますぐにでも食い殺してやってもいいが、最近は同胞も刺激が足りない様子でね。そこで最近流行りのデスゲーム方式で君たちにチャンスを与えようって考えたのさ! う~ん、なんて優しい! 私達の情け深さに君たちは泣いて感謝すべきだと、そうは思わないかい?」




