第八十八話 謎多き転校生?
馴れ合うつもりはない。海渡の妹、菜乃華の中学に転校してきた美狩は初っ端の自己紹介でそんなことを言ってきた。
これに一瞬静まり返る教室であり。
「私は、お前たちとは住む世界が違う。私に近寄って来ても火傷するだけだ。わかったら私について詮索はするな。最初からいないものと思ってくれていい。それがお互いのためだ」
更に教室の皆を突き放すような言葉を加え彼女の紹介は終わった。
「はい。以上で美狩ちゃんの紹介は終わりです。今のでみなさんもわかったと思いますが美狩さんはそんな感じの子です。タイプ的には鳳凰院 凍牙くんと似たようなタイプです」
「ふっ、どうりで。君からは僕と同じ匂いを感じたよ」
「何?」
教子の言葉に反応して生徒の一人が髪をかきあげてそんなことを主張した。指が出せるグローブをして右腕に包帯をしている。
そんな彼の発言に美狩の目つきが鋭くなる。
「同じ匂いということはつまり、そういうことなのか?」
「勿論だ同志よ。君も日夜、闇のものと戦っているのだろう?」
「な! そ、そこまでわかるのか!」
「勿論さ。ちなみ僕はメンバーのナンバー0。奇跡的な世界の幻のシックスメン通称ゴーストさ」
「ご、ゴースト? よくわからないが、やはり何か能力が?」
「ふっ、そのとおりさ。だけどここでは明かせないかな。当たり前だけど僕たちの秘密はそう簡単にあかせはしないからね」
「それは、たしかにそうだな」
「ふふ、それに僕の邪天眼が発動したら僕自身も正気を保てないからね。大いなる力と引き換えに混沌なるカオスに魂が引っ張られ精神と時の間に封印されていた第七天魔獣神が復活してしまうのさ。そうなったらもう手がつけられない」
鳳凰院 凍牙は秘密をわりと簡単にべらべらと話した。
「そうなのか、何か凄そうだが、まさかこんなところで似たような狩人と遭遇するとは――」
美狩と鳳凰院 凍牙の会話は存外盛り上がった。その様子を見ているクラスメートは先生の言っていることが本当なんだと理解した。
そうでなければ鳳凰院と話が噛み合うわけがないからだ。それだけに皆、その会話を微笑ましく思いながら見ていたわけだが。
「しかしまさかこんなところに同志がいたとは。名前が随分変わっているなとは思ったが」
「うん、まぁ彼の場合本名ではないのだけどね」
妙に納得してしまう美狩に教子が本当のことを教えてあげる。
「何? なんでわざわざそんな真似を?」
「それは、そうね。貴方ならわかるはずよ」
「私なら――ハッ!」
そこで美狩は気がついた。きっと鳳凰院 凍牙は餓鬼の狩人であることが外にもれないよう、ここでは偽名を通しているのだろうと。
「くっ、なんてことだ。私は本名を名乗ってしまった。なんて迂闊なのか――」
ちなみに教子は真剣な顔で呟く美狩を見ながら笑いをこらえていた。
「と、とにかく、美狩さんはそうね、菜乃華さんのとなりがあいているわね。そこで授業を受けてね」
「わかった」
そして美狩が菜乃華の隣に座る。
「宜しくね美狩ちゃん」
「……さっきもいったが私は馴れ合うつもりはない」
菜乃華が挨拶してくるが美狩は愛想なく返す。しかし菜乃華はニコニコしながら。
「徹底してるんだね。でも大丈夫だよ。私はわかっているからね」
「わかっているだと?」
「うん。美狩ちゃんも色々と秘密を抱えているんだよね?」
「な、んだと? まさか、お前もわかるというのか!」
美狩がまたもや話に食いついた。
「うんうん。でも私はもっとオープンにしてもいいと思うタイプなんだよね。ほらクラスにもいるし」
「何! 他にもいるのか!」
「いるよ~それに私のお兄ちゃんも似たようなところあるもん」
「な! つまりお前の兄も日々戦い続けているのか?」
「う~ん、確かにね。秘密組織との戦いに巻き込まられたことはあるもん。あ、これはリアルでね」
そのことばに美狩は絶句した。まさかこんな何の変哲もなさそうな中学校に彼女のような狩人が沢山いるとは。
「そうか、それで教子は私をこの学校に――」
美狩は何となく読めた、ような顔を見せた。ただ、だとしたら教子は何者なのか? と疑問にも思う。
最初から知っていたのなら、餓鬼の危険性も十分知っていたことになる。
いや、しかしよく考えてみれば教子も郁代も餓鬼を全く恐れていなかった。それがそういうことなら理解も出来る。
「まさか、私は最初から? いや、しかし――」
「美狩ちゃんどうしたの?」
「え? いや、なんでもない。しかし、そうか。お前は知っていたのか」
「うん、勿論! だから美狩ちゃんとは仲良くやっていきたいな」
にこにこと屈託のない笑顔を浮かべながら菜乃華が言った。その笑みにどこかホッとする美狩でもある。
「……だが、やはり駄目だ。私と一緒にいるのは危険がつきまとう」
「大丈夫だよぉ。さっき言ったお兄ちゃん、そういうところもあるけど、でも結構強いんだよ」
「ほう、それはどのぐらいの強さなんだ?」
「え~とね、多分戦闘の力で言えば53兆以下ってことはないんじゃないかな」
「何! 53兆だと! それは本当か!」
ガタッと机を叩き美狩が立ち上がった。
「美狩さん。授業中よ」
「う、うむ済まない」
教子に注意され大人しく座った。素直な少女である。
「おどろいたなそれは。ところで……普通はそもそもそれぐらいなんだ?」
そして改めて美狩が問う。そう、思わず驚いたがそもそもその戦闘の力が何なのかよくわかってないのだ。だから美狩は普通クラスの餓鬼でどれぐらいか聞いてみた。
「普通は5かな」
「何だそれは! とんでもないではないか! どんだけ強いんだお前の兄は!」
美狩はまたも立ち上がり、教子に叱られてまた素直に座った。そんな美狩は結果的に全員の注目の的になった。元が美人な為、そんな感じなのが寧ろ萌え要素となってもいた。
こうして結果的にすぐに美狩はクラスで受けいれられることになったのである。
「お兄ちゃんただいま」
「うん、おかえり菜乃華。何か嬉しそうだな」
学校から帰ってきた菜乃華に海渡が問いかけた。菜乃華は嬉しい時には表情に出るのでわかりやすい。
「へへ、実は今日ね転校生が来たんだ。ちょっと変わってるけどいい子なんだ。友だちになれそう」
「そうなんだ。良かったね。ところで変わってるって?」
「え~とね、お兄ちゃんみたいに色々設定があるタイプなんだよねぇ。中二病というのだけど、そこがね、可愛いの!」
「そうなんだ。ところで菜乃華の中では俺って中二病だったの?」
「違うの?」
「う~ん…………」
何と伝えてよいか答えに詰まる海渡である。なぜなら俗に中二病とされるようなものは大体海渡は再現出来てしまうからだ。ただ、それを言うわけにもいかないので、やはり中二ということにしておくのが無難なのだ。
「まぁ、何はともあれ友だちが増えそうで良かったね」
「うん!」
こうして謎多き転校生の筈だった美狩は、鳳凰院 凍牙と同じ中二病というくくりで迎え入れられることとなったのである。




