第八十四話 番外編①
神によって行われたデスゲームは終わりを告げ再び日常が戻ってきた。なお、約束通り杉崎以外には今回の件は海渡が上手くごまかしておいた。
それから少し経ち、昼休み委員長が海渡に話しかけてきた。
「海渡くん、あの実は相談があるんだけどいいかな?」
「委員長から相談だなんて珍しいね」
これまで海渡は委員長のピンチを何度も助けてきたが、それも全て委員長が巻き込まれたからであり、委員長が自らこうして話を持ちかけてきたのは初めてのことでもあった。
「俺で協力できることなら聞くけどね」
「ありがとう。それで海渡くん、確かお祓い屋さんの人が知り合いにいて自分でも出来るんだよね?」
「うん。多少はね」
海渡が答える。委員長がそれを知っていたのは皇帝の遊戯でのことがあったからだ。あの時確かに海渡はゲームを生み出していた呪いの権化を消滅させている。
「それでね、友だちがちょっと大変な噂に手を付けちゃったみたいで……海渡くんならもしかしたら何とかならないかなって……」
委員長が弱り目で友だちの危機とやらを口にした。海渡は、ふむ、と顎を押さえつつ。
「それで大変なことというのは?」
「えっとね。何か呪いの青い円盤とやらを見ちゃったみたいなの――」
「で、ここがその問題のシロバラ団地?」
学校が終わり、海渡は委員長と大体いつも一緒にいる鈴木と三人で団地にやってきた。10階建ての建物が規則正しく並ぶまさに団地と言った様相である。
「うん、そしてこの子が怖い目に会ってる友だちの仲間 貴子ちゃん」
「よ、よろしくお願いします」
「宜しくね」
委員長が紹介してくれた貴子はおかっぱ頭の可愛らしい女の子だった。ただ、やはり呪いとやらが関係しているのか少々ビクビクしている。
「それで、その呪いというのは?」
「は、はい。それがここの団地の四号棟の四階の四〇四号室で四時四四分に呪いの青い円盤を四倍速で四回見ると貞椰子に呪われるって噂があって……」
「凄くまどろっこしいねその呪い」
凄く呪われる状況が限定される呪いだなと思った。よくある話ではわりと気軽に見れる物に呪いの効果があったりすることが多いのだが、この呪いは決まり事が多すぎである。一体だれがこの呪いを見つけたというのか。
「でも、それを貴子ちゃんみちゃったみたいで……」
「なんでまたそんな物を?」
海渡は素朴な疑問を抱き彼女に聞いてみる。
「そ、それが実は私オカルト研究部に入っていて、そろそろ各自の研究結果を提出しないといけなくて……他の皆は怪談スポットに行ったりホラー映画を見て資料でまとめたりしているのですが、私基本怖がりで中々心霊スポットにもいけないしホラー映画も見れないから、そうだ、これなら出来るかもって」
「うん、とりあえず色々と突っ込みどころの多い話だね」
海渡は思ったまんまを伝えた。
「でも、どうしてそんなに怖がりなのに、そんな真似を?」
「それが、私この団地に住んでるから、近くていいかなって」
「思ったより単純な理由だった」
怖がりで心霊スポットにも行きたがらないしホラー映画も見れないが、近いという理由で呪いの青い円盤を見るぐらいは出来るようだった。
「う~んとりあえずその部屋まで行ってみようか」
「ちょ、ちょっと、皆本気でいくつもりなの?」
「ん?」
見ると鈴木が青い顔で訴えてきていた。そういえばさっきから妙に口数が少ない。
「……もしかして鈴木さんこういうの苦手?」
「あ、そういえば鈴ちゃんお化け屋敷に入れないぐらいおばけとか幽霊が怖かったんだ……」
何でついてきたのかな? と小首を傾げる海渡だ。
「委員長に友だちが困っていると聞いて何となくついてきちゃったけど、ここって凄く有名なところだし、やっぱりまずいって」
「有名?」
どうやら鈴木は何か知っていそうだ。
「そうよ! 日本最大級におばけが出るとか日本最大級に河童の目撃情報があるとか日本最大級に全裸でコートの男が現れるとか日本最大級に殺人事件が多くて探偵が良く来てるとか、そんな話が多い曰くありきの怪しい場所なのよ!」
「その最大級ってあまり当てにならないやつな気も――」
鈴木の発言で確かに怪しさが増した。もっとも別な意味でだが。そもそも河童に関してはどうみてもいそうな場所に思えないが。
「かっぱーかっぱー――」
ふと河童が横切るのが見えた。
「ちょ! ほら! 今河童河童がほら!」
「あ、でも全裸でコートの犯人は、この間つかまったから大丈夫だと思うよ」
「だって、良かったね鈴木さん」
「うん、良かったね鈴ちゃん!」
「え? あれ? 問題そこ? いや河童が――」
鈴木が戸惑う。しかし、ここで話だけしても問題は解決しないので四号棟の四〇四号室に向かうことにした。河童は今回の件とは関係ないのだ。
「ここがその部屋です」
貴子に案内されて部屋の前まで来た。そこには確かに四〇四号室とあったがそれ以外の表札はみられない。誰も住んでない証拠だ。
「海渡くん何か感じる?」
「う~ん、そんなに危ない気配は感じないけどね。中には入れるの?」
「はい」
そう言って貴子があっさりとドアを開けた。
「……鍵を借りてたの?」
「いえ、ここはずっと空き室なのでもう鍵もかかってないんです」
「それセキュリティ的にどうなの?」
海渡が怪訝そうに問う。貴子は全く気にしてないようだが何ともオープンすぎる環境である。
「ね、ねぇやっぱりやめようよぉ、ヤバいってば」
やはり鈴木は中に入るのが嫌なようだ。腰も引けている。
「それなら鈴木さんはここで待ってる?」
「あんたばっかじゃないの! 私一人でこんな薄気味悪いところにいれるわけないでしょ!」
なら最初から来なきゃいいのにと思わなくもないが結局部屋までついてくる鈴木なのであった。
「へぇ、家具とかあるんだね」
「基本的なものは全て備え付けの団地なんです」
貴子が説明してくれた。そして奥の部屋にはテレビもしっかり備わっていた。青い円盤を再生できる機器もだ。いたれりつくせりである。
「ここでその円盤とやらを見ればいいんだ。ところでその円盤はどこに?」
「はいもうプレイヤーの中に入ってます」
「入ってるんだ……え~と四時四四分は午後でもいいの?」
「はい。ですが見ると呪われますよ? 四日後に呪い殺されるって……」
「貴子さんはいつみたの?」
「三日前です」
「それってもう明日がリミットじゃない! 何してるの!?」
鈴木が佐藤の背中に隠れながら叫んだ。確かにあと一日でリミットがくるわりにマイペースなきがするわけだが――




