第八十一話 神の強さ
「さて約束だし俺の相手してもらおうかな」
アイズを倒したことで海渡は、その場にふてぶてしく鎮座する神に挑戦状を叩きつけた。
すると神がファサっと金色の髪を掻き上げ、フフンっと鼻で笑ってみせた。
「全く素直に女神を連れて引き下がればいいものを。とんだドンキーホーテもいたものだね――いいだろう!」
神の目がカッ! と見開かれた。途端に黄金の炎が神の全身から吹き溢れる。
「驚いたかい? これはあらゆる物を裁き燃やし尽くす神炎、神の黄金炎さ」
「派手な炎だなぁ」
「ふふん、そうやって強がっていられるのも今のうちさ。確かに君は強い。だが、それも人としての強さだ。人間と神の間には絶対に抗えない差があるのさ」
そう言った神の手に炎が集まる。巨大な黄金の火の玉が出来る。
「これが何なのかわかるかい?」
「さぁ?」
「ふふ、そうさ。これはゴランソーマではないゴラさ」
「いや、そう言われても」
どうやら神は最上級の魔法に見せかけておいて実は最下級の魔法なのだ! とやりたいようだが、そもそも海渡がそんな魔法知る由もないのだった。
「そしてこれが僕の最強魔法――神の黄金に輝く裁きの極炎さ!」
「インフェルノって地獄って意味だよね?」
おおよそ神には似つかわしくないネーミングの魔法な気がしないでもないが、実際に黄金色の炎が悪魔っぽい形に変化したのだった。
「さぁこれで終わりだよ!」
――ピクピクっ……。
海渡の目の前には、ズタボロになったほぼ全裸の神が尻丸出しで倒れていた。
「……よわ」
海渡がボソリと呟いた。相手は神にも関わらずこの余裕である。しかしそれもその筈。神が放った悪魔みたいな黄金の炎は海渡の一息で消え去った上、神も一緒に宮殿の屋根を突き破ってふっ飛ばされ落ちてきたところに飛び散った残り火があった為、神のローブが燃え尽き、こんな感じの惨めな姿になったのである。
「う、うおおおおお! 再生の神炎!」
だがしかし、神は自らを金色の炎で燃やした。しかもその炎で傷も治り服も再生してしまった。
「ははは、少しはやるようだね。だけど僕の炎は傷を癒やし壊れた物を再生できる! いくら傷をつけたところで」
「よし、ならヤろう」
「ちょっと待ったぁああぁああぁあああ! ヤるってなんだよ! ヤるってなんだよ! 何ナチュラルに神殺ししようとしているの!?」
神が焦った。再生の炎で再生は可能だが海渡なら再生できないぐらいまでに消し去ることは余裕であり、神もそれを察したようだ。
「これだけのことしておいて何言ってるの?」
「君こそ何言ってるんだい? さ、殺人は犯罪だって習わなかったのかなぁ?」
「地球ならともかくここ違うよね? それにお前人じゃなくて神だし」
神が何故か地球の法律を持ち出したが、ここが神自身の世界だと彼が自ら言っていたのであるから意味がない。
「そ、そういうことじゃないんだよ。神には神のルールがあるんだ。神を殺すなんてそんなことしたらきっと面倒なことになるよ? 凄く面倒なことになるよ? 洒落にならないよ。君、面倒事とか嫌いそうだよねぇ? いいのかな面倒なことになっていいのかなぁあの委員長だって狙われたりするかもよ?」
今更委員長のことを持ち出されても正直今更だが、面倒事を持ち込まれるのは確かに面倒だなと海渡は考え。
「じゃあはいパーフェクトロック」
「はい?」
海渡が魔法を唱える。サバイバルロスト以来、久々に使った魔法である。
「な、何だい? 何もないじゃないか?」
「あんたの魔法をロックしたからもう使えないってだけだよ」
キョロキョロと辺りを見回す神に淡々と海渡が答えた。すると、ハハッ、と神が小馬鹿にするように笑い。
「何だいそれは? 僕が考えた最強の魔法かな? 全くそんなもので僕の魔法が、て、出ないいぃいいぃいいいッ!?」
神が仰天した。どうやら魔法が出ないことでようやく理解してくれたようだ。
「それじゃあボコるねぇ~」
「ま、待て待て待て待て! くっ、それ以上近づくな! もし近づいたらそこの女神を消すぞ!」
「え、えぇえええぇええええぇええ!?」
突然矛先が自分に向けられた事で女神が盛大に驚いた。
「ちょ、貴方何言ってるの! そもそも海渡様に勝ててないどころかボロボロに負けてるんだから私を解放しなさいよ!」
「だ、黙れ、僕はまだ負けてない! そうさ、僕は優れた神だ! 人間ごときに負けるわけがないし負けていいわけがないんだ!」
「やれやれだな」
神は存外往生際が悪かった。あまりに見苦しく海渡も呆れ顔である。
「もうそのぐらいにしておいたらいかがかしら?」
その時だった。宮殿内に別の誰かの声が聞こえてくる。女性の声だった。聞いているだけで並の人間なら心奪われ思わずその場に跪いてしまいそうな威厳の感じる声でもある。
「な、誰だ!」
「誰だ、とはご挨拶ね。中級の下位程度の神でしかない貴方が」
やってきたのはやはり女だった。金色の髪に金色の瞳。実に美しい女神なのだが、なんとなく今捕まっている女神に似ている気もする。
「え? え? えぇえ! 嘘、お姉ちゃん!?」
「やっほーサマヨ、久しぶり。ふふ、お姉ちゃん来ちゃった♪」
そして、何とどうやらこの女神は捕まってる女神の姉だったようである。
「そういえば似てるかな。女神より凛々しくて女神より威厳があって女神より綺麗系で女神より胸が更に大きいけど」
「ちょ、勇者様!」
「ふふ、海渡様は中々面白い人なのですね」
二人のやり取りを見てそう言った後、姉の女神が視線を神に向けた。
「さて中級神ゴンベイ。貴方も随分と好き勝手やってくれたものね」
「ぼ、僕をその名前で呼ぶなーーーー!」
「ご、ゴンベイ、プッ」
神の名前はなんとゴンベイであった。そしてゴンベイもその名前が気に入らなかったようだ。道理で名前を全く明かさないわけである。
「ゴンベイはゴンベイじゃない。それにしても全く、確かに地球のある世界は神の管轄の中では小さくて目立たない世界だけど、だからって勝手に干渉していいってわけがないわ」
「だ、黙れ! 何を偉そうに。所詮そこの駄女神の姉だ。貴様だってポンコツ女神でしかないんだろうが!」
「あら随分な言われようね」
「う~んところで、女神サマヨってもしかして本名だったの?」
女神の姉と神のゴンベイが会話している間、海渡は妹の女神に気になったことを聞いていた。海渡は特に相手の名前に頓着なかったので名乗らない限り気にしてなかったが、折角名前らしきものが明かされたので聞いてみたのである。
「そうですよ。知りませんでしたっけ?」
「聞いてないね。てか普通に地球で名乗ってよかったんだ」
「ふふ、こういうのは本名の方が寧ろばれないものですよ」
確かに女神サマヨだからきっと女神なんだろうとは中々思いつかないものだろう。
「でも、アテナお姉ちゃんぐらいになると流石にそうもいかないと思うけどね」
「へぇ、アテナっていうんだね」
「ん?」
そんな二人のやり取りを耳にしたゴンベイが目を瞬かせ。
「へ? ま、待て! 今アテナと言ったのか?」
「そうだけど?」
「は? はぁああああぁ! ちょっと待って! 女神のアテナって、あ、あの大神界の十二神議官が一柱の、あ、あのアテナなのかーーーーーー!」
ゴンベイが驚愕する。どうやらサマヨの姉はポンコツではなかったようだ――




