第七十八話 そんなの約束出来るわけないよね
「やぁよく来たね歓迎するよ」
「ゆ、勇者様!」
海渡は一瞬にしてどこかの世界に移動していた。見た目にはどこかの宮殿の中といった印象で女神は柱に鎖で縛られてしまっている。
「人質をとっておいて歓迎も何もあったもんじゃないね」
「はは、ごめんね。でも女神だって悪いんだよ。勝手に人の世界に入り込むんだから」
「なるほど、やっぱりここは別な世界か」
海渡にはそれもわかっていた。世界というのは惑星や宇宙規模の話ではなく、もっと大きな括りの話だ。
「な、何か私が悪いみたいに言ってますけどーー! 貴方こそどうなのよ! 世界を越えての干渉なんて神の法律に違反しますよ! 罰金ものですよ罰金もの!」
「その程度でいいんだ」
他の世界に干渉してステータスやスキルなんてものを勝手気ままに与える行為が罰金程度で済むとは、確かにいささか軽すぎる気もする。
「まぁ罰金と言っても神の世界での貨幣は中々に高価でね。とは言え、こっちにも色々とやり方はあるから問題はないかな」
そう言ってなんてことがないように笑う。見た目は金髪碧眼の普通の人間だ。もっとも女神もそうであり人型の神というのは多い。
「そうそう、一つだけ言っておくけど何らかの力を使って助けようなんて思わないことだよ。これでも僕、神だからそれぐらいの対策はとってある。あの柱にちょっとでも近づけば女神は消滅するから」
「え! しょ、消滅!」
女神が焦った。どうやら本人も知らなかった事実のようだ。
「女神を消すなんてそんな簡単にやっていいの?」
「はは、女神と言っても彼女は最下級に位置する女神だ。その程度容易いよ。勝手に他の神の領域に侵入している以上、何をされても文句は言えないしね」
「随分とあんたに都合のいい話だな」
地球に干渉するような真似をしておきながらそれは罰金程度で、女神は消されても文句も言えないとは確かにあまりに目の前の神に都合がいい。
「ふふ、それだけそこの駄女神と僕では格が違うってことさ。でも、君には興味があるんだよ。あんな魔法も発展しなかった上、科学レベルも最低クラスの辺鄙な星で生まれた君にそこまでの力があることにね。とてもこの駄女神から育ったとは思えないんだけどね。本当に面白い」
「何か凄く失礼なこと言われてません!?」
女神が叫んだ。そしてとても悲しそうだ。
「そう。で、結局あんたは俺に何をして欲しいんだ?」
「ゲームさ。君にはそうだな。デスゲームと言った方がわかりやすいかな? 地球でも流行ってたんだろう? それを僕とやってよ。実は僕は今回みたいなことをいろいろな場所でやっていてね。そこで一番になったプレイヤーをコレクションにしているんだ」
「俺はそのプレイヤーでもなんでもないけど?」
「確かに違うけど、実際君は他のプレイヤーをスキルもなしに次々と倒してしまった。他にもそういうのがいたけど、君は特に気に入ったからコレクションに加えたい。だから死んで欲しいんだ。生きたままコレクションに加えるのは色々と問題があってね。だからこれから僕が用意するプレイヤー三人と戦って欲しい。勿論勝てたら女神は解放するよ。どうかな?」
つまるところ負けたら海渡は死ぬから自分のコレクションに加えられると、それが目的なのだろう。
「いいよわかったやろう」
「はは、これはまた随分とあっさり決めてくれるね。いいねその自信がまた僕のコレクター魂を熱くさせるよ」
「ただし条件を一つ変えてほしいかな。俺がその三人に勝ったら――あんたが俺と戦えよ」
海渡の目つきが変わる。それに、へぇ、と神が発し。
「はは、神である僕に挑みたいなんてね。でもわかってる? 神に挑むということはそれなりの覚悟が必要なんだよ? そうだね。それでもし君が負けたなら最低限地球人全てをコレクションとして貰うぐらいでないと。それでいいのかな?」
ニコニコと微笑みながら神が海渡に問う。すると海渡が口を開き。
「え? 無理に決まってるじゃんそんなの」
「そうかい。そこまで覚悟が決まってるならしかた、て、え! 無理なの!」
神が驚いた。これまでスイスイ話が進んできたのにまさかここで無理と即答されるとは思わなかったようだ。
「驚いたな。そこまで言っておいて怖気づいたのかい?」
「いや、常識的に考えて地球の運命を俺だけの一存で決められるわけないよね? 逆に神なのにそんなこともわからないことに驚きだよ。どうしてもというなら地球にいる各国の首脳にでも許可をとってきなよ。俺はそこまで責任持てないし」
「…………」
海渡の言っていることはもっともであり実に正論だった。確かに海渡は強いがそれとこれとは話が全く別である。何も関係ない者の魂を本人も知らぬ間にベットするような真似は出来ないのだ。
「は、はは。驚いたなこの僕をここまでコケにするなんてね。本当に興味深いよ」
「当たり前のことを言ったつもりなんだけどなぁ」
「わかったよ。それなら特別に君が勝てたら無条件で戦ってあげるよ。特別にね」
出来るならとっととそう言えばいいのにと思う海渡である。そもそもからして神の身勝手でデスゲームをさせられているのだから、その上更に条件を突きつけられるのもおかしな話なのである。
「さて先ずは一人目」
神がパチンッと指を鳴らすと扉が出現した。いちいち行動が鼻につくが、扉が開き角の生えた対戦相手が出現する。
「彼は君たちの世界でいう鬼に近い種族さ。最強の戦闘民族として知られていてね。その星を舞台にゲームを行い勝ち残ったのがこのオニックだ」
「何かジューシーそうな名前だな」
海渡が印象を伝えると、オニックが神に顔を向けた。
「おい、本当にこいつを倒せば俺を解放して願いも聞いてくれるんだな?」
「神に二言はないさ」
「へへっ、ありがてぇ。だったらその女を食わせてもらいたいねぇ。コレクションにされてたから腹が減って仕方ないのさ」
「ひぃ、勇者様~!」
女神が泣きそうな顔を見せた。何とも情けない限りである。
「さて、それじゃあ早速始めてもらおうか」
「ふん、こんなガキが俺の相手とは舐められたもんだ」
オニックがポキポキと拳を鳴らす。改めて見るとかなりデカい。海渡の三倍ぐらいの巨体だろう。
「小僧運が悪かったな。俺はただでさえ戦鬼族最強。そのうえで神のゲームで怪力無双というスキルを手に入れた。今の俺は惑星だって片手で破壊できる」
「そうなんだ」
「ふん、そうやって強がっていられるのも今のうちだ。砕け散ろ! ワールドブレイクインパクトーーーーーーー!」
オニックの拳にオーラが宿る。そして巨大な拳が海渡に迫った。
――ズドォオオオォオォオオオオオオォオオオオオォオオオオオオォオン!
とんでもない音と衝撃が広がる。神もふふっ、と期待を込めた目を向けておりオニックもへへっと勝利を確信したような顔を見せるが。
「一応聞くけど、これで本気?」
「……は?」
だがしかし、海渡は平然とそこに立っていた。惑星破壊レベルの一撃だったにも関わらず、その場所から全く動いてもいないし、掠り傷一つ負っていない。
「な、馬鹿なこんな、く、くそ! だったらワールドブレイクインパクトクラッシュだーーーーーー!」
オニックが惑星破壊レベルの拳を今度は連打した。何度も何度も何度も振り下ろされる拳。それを全く避けず受け続け、そして海渡が徐に腕を回しはじめた。繰り返され続けるパンチの連打など全く気にも止めておらず。
「じゃあ、今度は俺からいくよ、はい、ドーン――」
「~~~~~~~~ッ!?」
そして海渡が軽く拳を振ると、悲鳴を上げるまもなくオニックが消え去った。こうして一人目はあっさり倒されたのだった――




