第七十五話 イベント
「ふぅ! ふぅ! ふぅ! どうだ俺のスキル、風使いの味は!」
「チッ、うざったいな!」
「おっと、そっちばかり気を取られていていいのか? 刃、刃、刃ーーーー!」
杉崎は突然の大規模イベントとやらに巻き込まれ、花咲を庇いながら街を駆けずり回っていた。
行く先々でスキルをもったプレイヤーが関係ない人々を襲うという図式ができあがっており、それを見る度に杉崎はスキルで助けて回っていた。
杉崎の持つリアルゲーマーのスキルは性能でみれば破格なものだった。レベルアップし扱えるゲームも増えている。しかし操作するゲームが多ければ多いほど脳のリソースは大きく食うことになる。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ! 俺らの連携にいつまで耐えられるかな! いくぞ刃!」
「おう風巻!」
そして刃と呼ばれた男が跳躍し、真下では仰向けになった風巻が待ち構え、刃が風巻の両足に両足を重ねる。
「喰らえ1 合体スキル! スゴイダガーハリケーーーーン!」
風使いのスキルホルダーである風巻が発生させた竜巻に乗せて両足で刃を押し出した。一方で刃は全身を刃に変える殺刃鬼のスキルホルダーであった。
竜巻に巻き込まれるようにして全身を切れ味鋭くさせた刃が突っ込んでくる。
「刃! 刃! 刃! 全身を刃に変えて切れ味が3倍! 更に足を発射台にして飛び出すことで更に3倍の9倍! それに回転を加えることで更に4倍の36倍の切れ味だーーーー!」
スパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパァンンンンンンンンン!
道路や停めてあった車、周囲のビルなども切り飛ばしながら勢いと切れ味の増した刃が迫った。杉崎は花咲を守りながら戦っているため下手に避ける事はできないが。
「バリアーーーー!」
なんと杉崎はバリアーを発生させた。そう杉崎はゲームの力を具現化出来る。ゲームとバリアーは切っても切れない関係だ。杉崎の発生させたバリアーによって刃の突撃は見事遮られた。
ガリガリガリガリガリガリ、とドリルの如き回転でバリアーが削られていくが、何とか耐えきり刃が跳ね返っていく。
だがバリアーも持たなかった。パリィイィインと砕け散る。
「刃ッ刃ーーーー! 中々やるじゃねぇか! だけど今のでそのバリアーの強度はわかったぜ」
「ふぅふぅふぅ! ならば今度はより風力を上げて回転力を増してやるぜ兄弟!」
「おう頼んだぜ!」
「それはやめておいた方がいいと思うぞ」
再びスゴイダガーハリケーンを仕掛けようとしてくる二人だが、杉崎は警告した。しかし二人は全く聞く耳持たない。
「黙れ! 臆したな! もはやお前に勝ちはない! 刃! 刃! 刃ーーーー!」
そして風巻を発射台に竜巻に乗って刃が迫った。その時だった。地面が盛り上がり突如鋭いトゲのついた左右一対のローラーが出現し、激しく回転を始めた。
「な、そ、そんな。うぉおぉおおおおおお!」
勢いのついた刃は自分自身では動きを止めること叶わず、ローラーの中に自ら突っ込んだ。バギバキバキバキベキメキッ! という異音が響き渡り、全身ボロボロになった刃がローラーから投げ出される。戦いを続けることはもはや不可能であり、更にスマフォも砕け散ったことで粒子になって消え去った。
「へへ、トラップメーカーというゲームの力さ」
杉崎が人差し指を立てて、そう語った。トラップメーカーは陣地となる屋敷やダンジョンにトラップを仕掛けやってきた侵入者を罠にはめるというゲームだった。
「さぁ、後はお前だな」
「む、無駄だ!」
杉崎が多機能タイプの特殊な銃を生み出し風巻に連射した。だが風巻の発生させた竜巻が壁となって銃弾を通さない。
「ふぅ! ふぅ! ふぅ! そんなもの私の風には通じない!」
「そうかよ」
杉崎が更に連射すると、ロケット弾が飛んでいき、竜巻の周辺の地面に埋め込まれた。
「なんだこれは? 何のつもりか知らないが私には無駄だ! フゥウゥウウウウ!」
風巻が奇妙なポーズを決めて得意がる。その時地面に埋まったミサイルが爆発した。発生した炎が竜巻に巻き込まれる。
「ふぅ! ふぅ! ふぅ! なるほど。爆発させて火に巻き込もうとしたかーー! だが無駄だフゥウウゥウウウ!」
「チッチッチ、それは少し違う。そしてお前はもう耐えられない?」
「何? ふ、ふぅうううううう! あ、熱い! 熱いぃいいいいいい!」
「火炎旋風の熱は平気で千度を超えるんだぜ?」
杉崎が語ると、竜巻の中の風巻が絶叫を上げた。スマフォも壊れたようであり、中にいた風巻が粒子になって消え去った。
「勝ったんだね杉ちゃん」
「あぁ、これでレベルは20か……これがどれぐらいかもわからないけど、花……その、お前は絶対に守るから――」
「杉ちゃん――」
二人がそんなことを語り合っている姿を遠巻きに眺めている少年がいた。
「スギッチ、僕がいるのにそんな女と、ふふっ、でもいいさ。君と僕は運命が惹きつける運命なんだ。フフ、その女も僕が駆除して、君を振り向かせて見せるからね」
――は~い皆さん、ここで一つ皆さんにお知らせだよー!
その時、彼らのスマフォにまたもやメッセージ、しかもそれは彼らだけじゃなくイベントのエリアに設定された範囲にいる全員に流されていく――
◇◆◇
「お兄ちゃん、こいつら何なの?」
「わかんないけど、菜乃華は俺のそばから離れないように。指一本触れさせる気はないけどね」
「お、お兄ちゃん……」
海渡が言うと妹の菜乃華が頬を染めた。
「テメェら俺をさしおいてイチャついてんじゃねぇぞこら!」
刀を持った男が叫んだ。名前も知らないが突然二人を経験値と呼んで襲ってきた連中の最後の一人だった。
「イチャついてって俺たち兄妹だけど?」
「可愛い妹とイチャイチャとか糞羨ましいんだよ糞が!」
男が叫ぶ。そう言われてもな、と海渡が頬を掻いた。隣では菜乃華の顔が更に紅くなっている。
「というかまだやるの?」
「ふん。他の連中は雑魚ばかりだったようだし、テメェも普通の高校生とかわけわかんねぇけど、あれだな? 何かそういうスキルがあるんだろう?」
「そういう?」
海渡が小首を傾げる。言っている意味が理解できない。
「は、だが、俺は最強だ! この斬鉄剣はあらゆるものを斬れる! 死ねぇえぇええ!」
――パシッ。
「は?」
男が斬鉄剣を振り下ろした。海渡が指二本で受け止めた。男の目が丸くなる。
「え? いや、斬鉄剣だぞ? な、何で受け止め――」
戸惑う男の目の前で、海渡は刀を指だけで粉々にした。そのうえでフッと一息吹きかけただけで男が吹っ飛んでいき地面を転がった。途中で落ちたスマフォが砕け散り粒子になって男が消えた。
「何だろな一体。ま、いっか。じゃあ買い物行く?」
「いやいや! 流石にそれどころじゃないよね!?」
よくわからない連中も消えたことだしと、妹に付き合ってショッピングを続けようとする海渡だが、菜乃華は怪訝な顔で返した。
「そう? たまにはよくわからない異能に目覚めた中二的集団に囲まれて襲われるなんてこともあったりするもんじゃない?」
「ないよ! 絶対にないよ!」
そっかぁ、と答えつつそれでも菜乃華と移動を開始させた。結局状況が掴めないのでとにかく歩いてみようという考えだ。
「オラいい加減しねハゲ!」
「このハゲーーーー!」
「ぱ、パパァ!」
「娘は絶対にパパが、ひぃ、死ぬ! 本当に死ぬぅ!」
するとどこかの世紀末からタイムスリップしてきたようなモヒカン連中にボコボコにされる田中が目に入るのだった。




