第七十四話 巻き込まれた人々
「い、一体なんなのですの!」
金剛寺 玲香は街なかで突如、男たちに取り囲まれ眉を顰めた。隣には鈴木の姿もあり、動揺している。
「委員長とも逸れちゃうし、おかしな連中に遭遇するしなんて日なのよ……」
佐藤、鈴木、金剛寺の三人は休みを利用して街に繰り出していた。なかなか珍しい組み合わせではあるが、学校で鈴木が美味しいケーキが食べられるカフェを見つけたという話に加わったのがキッカケであり、三人でそのカフェに向かうところだったのである。
しかし、その途中で急に街の様子が騒がしくなっていった。おまけに佐藤の姿も消えており、かと思えば男たちに囲まれたというわけだ。
「へへ、女だ女だ」
「モブだけど、経験値にする前にやってもいいんだよな?」
囲んでいる男たちは下卑た顔を見せており、何をしでかすかわかったものじゃない雰囲気が漂っていた。鈴木の額に汗が滲む。
「あ、貴方達、私が誰だか知ってますの! 金剛寺グループの社長令嬢ですわよ!」
金剛寺はそう名乗りあげ、ドヤッとした顔を見せた。この状況では権威を振りかざすのも大事だと判断したのだ。それで相手が退いてくれるならそれにこしたことはない。
「金剛寺グループ? あぁ、あの棚ぼた企業か」
「棚ぼたっていうなですわ~~~~~!」
金剛寺が両手を振り上げて喚いた。一応棚ぼたと言われてはいるが、金剛寺グループとてかなりの企業努力でここまで来ている。おまけにかつてのサバイバルロスト運営とも関わっていないクリーンな企業なのである。
「ふん、どっちにしろ俺らには関係ないがな」
「俺らプレイヤーのバックには謎のマスターが控えている」
「何をしたって全て帳消しにしてくれるのさ。犯罪だってやり放題だ」
「棚ぼた企業ごときがどうにか出来る代物じゃないってことだ」
そう言いながら男たちがジリジリと近づいてくる。一人は何もないところからサブマシンガンを出現させた。一人は手に炎を生み出していた。一人は獣のような爪や牙が生えてきていた。
そんな妙な力を持った連中が何人も二人を囲んでいたのである。まさに大ピンチであるが。
「ガウガウ!」
「あ、何だてめぇ!」
「ギャンッ!」
「あ、アカオーー!」
金剛寺の肩に乗っていた小さなアカオが男の一人に飛びかかった。だが、あっさりと手で払われ殴り飛ばされてしまう。金剛寺が悲鳴を上げ、鈴木も狼狽していた。鈴木は杉崎から話を聞いていた為、この連中が妙な力を持っていることを知っている。だからこそ今の状況がかなり不味いこともわかっていたのだが。
「へへ、大人しくしていればぶっ殺す前に気持ちいい目に合わせてや」
「お嬢様に手を出すなぁああ!」
「グボォオオォオオ!」
だがしかし、赤い肌をした野性味溢れる男が飛び蹴りをかまし、サブマシンガンを持っていた男をぶっ飛ばした。
「は? な、何だてめぇは!」
「あ、赤王様!」
「あ、赤王? くっ、誰だか死んねぇが所詮モブだろうが死ね!」
男の一人がその手に発生させた火球を赤王にぶつける。爆発が生じ、ニヤリと笑みを深めるが。
「きかぁああぁああん!」
「アブラァアアァアアアア!」
しかし、赤王はピンピンしており思いっきり殴りつけ相手をふっ飛ばした。その強さに金剛寺が牝の顔になる。
「お嬢様大丈夫ですか?」
「はい。赤王様……」
「それは良かった。なら出来るだけ俺から離れないでいてください!」
「はい――」
「え? いや、あのそこまでくっつかなくても……」
金剛寺は赤王に言われその身にぴったりとくっついた。白馬の王子様に出会った姫様みたいな顔をしているが赤王は戸惑っていた。
そしてそんな様子を、一体私は何を見せられてるんだ? といった顔で眺めている鈴木である。
「くそ! 全員でかかれ! 所詮は一人だ!」
「チッ、仕方ねぇ!」
そして残った全員が一斉に襲いかかるが――
「「「「「「つ、つぇぇえ……」」」」」」
結局赤王には手も足も出ず敗れ去り、スマフォも破壊され粒子になって消えていくのだった。
◇◆◇
「オラッ!」
「ギャッ!」
「女を襲うとはこの狼藉物が!」
「グゴッ!」
「消し炭になりなさい!」
「あぢぃいいいよぉおおお!」
「キュキュッ~!」
「は? 何でここにスライムがいるのよ! いや、ちょっ服が!」
「静粛の天雷を! ギルサンダー!」
「「「「「アギャギャギャーーーー----!」」」」」
虎島たちもやはり景と一緒に街に繰り出していた。本当は虎島は景だけを誘って映画にでもいこうと思っていたのだが、何故か誘ってもいないのにいつものメンツが揃っており、頭を抱えていた虎島だったが映画を見た帰りに妙な連中が暴れているのを発見し、襲われている人々を助けるために動き出していた。
「はい。もう大丈夫ですよ」
「あぁ、娘の怪我が本当にありがとうございます」
「いえいえ、出来る限りのことをしたまでです」
「あ、あの俺も怪我をしていて」
「男は唾をつけておけば治ります」
「はい?」
「男は唾でもつけとけば治ります」
「は、はい……」
キャラットに関しては持ち前の回復魔法で主に女性を中心に治して回っていた。なお男はよほどのことがない限りは治そうとしないが。
そんなわけで経験値稼ぎだーーヒャッハーと暴れまわっていたモヒカン、もといプレイヤー達も虎島たちの参入で成すすべもなく駆逐されていった。
連中からすればわけがわからなかったことだろう。当然だが虎島たちはプレイヤー側からはただのモブとして認識されてしまっている。
もっとも彼らにはわからないだけで、ここにいるのは全員異世界帰りだったりわざわざやってきたりした精鋭揃いだ。ステータスの年季が違うのである。
「はっはっは、面白いじゃないか。なるほど、そこいらのプレイヤーじゃ話にならないってわけだな。でもね、この私は違う。選ばれたスキルホルダーの力というものを見せてあげよう!」
するとビルの上から高笑いする赤マントの男の姿。その手には何やら魔法陣の描かれた本が握られていた。
「いでよ! 幻想世界のモンスター達!」
そして男が叫び右手を翳すと開かれた本が光り輝き、中からドラゴンや巨人、巨大なスライムや悪魔、吸血鬼やらアンデッドの集団が姿を見せた。
「おいおい、何だってんだこれ?」
「はっはっは! これが私のスキル幻想辞典の力さ! 幻想の生物を呼び出し戦わせる! まさに選ばれた主人公のみが持つにふさわしい最強のスキルだ! さぁ揃って私の経験値になりたまえ!」
そして生み出された幻想生物が次々と襲いかかってくるが。
「ドラゴンなら任せ給え! はぁぁああぁあ!」
マックスが飛びかかり向かってきたドラゴンの首をあっさりと切り飛ばした。彼女の持つ剣は竜殺しの剣とも称される伝説の剣であった。ドラゴン相手に負ける理由がない。
「セイントクロス!」
キャラットが聖なる魔法を行使。巨大な光の十字架が地上に生まれたアンデッド共をまとめて消し飛ばした。聖魔法を極めし聖女の彼女がアンデッドごときに遅れをとるわけがなかった。
「アーサーオブサン!」
フォワードが魔法剣を行使。かつて英雄アーサーが使用したとされる究極の魔法剣でもあり、太陽の力を剣身に宿すことが出来る。
陽の光に弱いとされる吸血鬼がこれに耐えられるわけもなく、サラサラと灰となって崩れ落ちていった。
「キュッキュ~♪」
「――ッ!?」
スライムのミラクは巨大なスライムに近づくなりピタリとくっつきあっという間に吸収してしまった。このスライムの正体は実は虎島にもわかってなかったりするが底が知れないのは確かだ。
「オーバーリフレクト! からのジェノサイドレイ!」
景を囲んでいた様々な悪魔たちは一斉に魔法を行使してきたがそのどれもは魔法の障壁に妨げられ跳ね返された。そのうえで凶悪な破壊力を秘めた光線を放たれ抹殺される。
そして――
「くっ、な、なんなんだお前らは! くそ、だがその巨人はエベレスト百個分の巨体を誇る巨人だ! 絶対にかてるものか!」
『グォオォオオォオオォオオオォオオオオオオ!』
彼の呼び出した巨人がこの世の終わりかと思える程の咆哮を上げ、北海道程度なら軽く握りつぶせそうな程の拳を振り下ろしてきた。
だが、その正面に立ち、果敢に挑むは虎島であり。
「させねぇよ! パーフェクトカウンターフルバーストダイナマイトスペシャル!」
巨人の拳が虎島の盾に防がれ、更に威力を数万倍にして跳ね返す。すると激しい爆発が生じ巨人が砕け散った。
「ば、馬鹿なぁあああぁああ!」
そして赤マントの男はその余波によって吹き飛び、スマフォが爆破し、光の粒子になって消えていった。
その姿を認めニヒルに虎島が言う。
「へっ、汚らしい花火だぜ――」
色んな人が巻き込まれてイベントが大変なことに!




