第七十三話 謎多きデスゲーム
「消えた、どういうことだ? まさかスマフォが壊れるのもアウトってことか?」
戦っていた相手が光の粒子になって消えたことに杉崎は頭を悩ませた。同時に意識を奪う程度で済ませうとしたが結果的に生命を奪ってしまったかもしれない、という事実にも罪悪感が生まれる。
だが、黙っていれば杉崎は勿論大切な幼馴染や友人の命が危なかった。とにかく今は頭を切り替える必要がある。
「杉ちゃん! 大丈夫?」
あの爆弾男との決着がつき、スキルも解除して元の姿になったところで、一旦離れていた花咲や佐藤と鈴木が戻ってきた。佐藤は周囲の酷い有様に憂いを抱いているようだ。
「ねぇ杉崎。さっきのアレは何?」
「う、うん。何か姿も変わっていたよね」
「あ、あぁ」
杉崎はどう話したものかと迷ったが、既に見られている以上仕方ない。素直に話して聞かせる。
「つまりそのゲームであんな力が?」
「そういえば、杉ちゃんゲームがプレイできないって言ってたもんね……」
「あぁ、それがこれだったんだ」
「そんなことってあるんだね……」
杉崎の説明に不思議そうにはするが、皆納得してくれた。これまで様々なことを経験してきているのでわりとこの手のことは受け止め慣れているようだ。
「あれ? スマフォが……」
バイブで反応があった。杉崎が画面を確認するが。
――情報共有者確認。条件達成。注意ください。
ゲームの画面が起動し、そんな表示が現れた。ゲームに関わった彼女たちは情報共有者として扱われるらしい。しかし、注意書きによるとそれ以外の相手には一切他言無用でありこのルールを破った場合ペナルティーが課されるというものだった。
さっきの男の末路といい、当然ペナルティーはろくでもない内容なのだろうと容易に想像できる。
「あ、警察――」
佐藤が言う。当然だが騒ぎを知った警察がやってきた。杉崎としてはこの状況をどう説明しようかと悩みどころだったが。
「君たちも災難だったね。爆弾魔の事件に巻き込まれるなんて」
「しかし身勝手な犯人だこれだけのことをしておいて、自爆するなんてな」
「え?」
杉崎は警察から犯人が元々様々な爆破事件を起こした男であったことを知った。そのうえで犯人は自爆したことになっていた。
そしてある程度事情徴収を受けた後、全員すぐに帰される。
「すぐに解放されてよかったけど……」
「元々爆弾魔だったなんてね……」
「あぁ、だけど。スムーズすぎる――」
杉崎が難しい顔で答えた。これだけの事件だ。杉崎としてもあれこれ聞かれる覚悟はあった。だが、まるで誰かの書いたシナリオのように話がトントンと進んでしまった。
「こいつが、やっぱり関係あるのか……」
スマフォのステータスを改めて見る。この手のことができそうな組織に関しては記憶に新しかった。サバイバルロストなどはまさにそれだろう。
だが、今回はただ金と権力があれば出来るというものではない。ゲームを通じて特殊なスキルを授けるなど人間の粋を超えている気がしてならなかった。
「これ、海渡くんに相談した方がいいんじゃ……」
ふと、佐藤がそんな意見を述べた。これまで様々なデスゲームで海渡は超人的な力を発揮してきた。佐藤も何度も助けられており信頼度は高い。
だが、杉崎は首を横に振り。
「海渡が凄いのは俺にもわかる。だけど、これはあまりに現実離れした力だ。誰かに話したらペナルティーがあるとさえ警告されている。詳細が判明するまでは誰にも話さないほうがいい。いくら海渡でもこんな不気味な物に対応できるとは思えないし、その事で何が起きるかわかったもんじゃないわけだしな」
それが杉崎の考えだった。サバイバルロストの時に海渡が見せた力の記憶は改変されている。その結果、海渡は確かに凄いがそれも常識の範囲内でというのが杉崎を含めた面々の印象だったのである。
「とにかく気をつけていこう……と言ってもメインのプレイヤーは俺になるんだけどな」
「杉ちゃん……」
「そんな顔するなって。俺はこう見えて運がかなりいいからな。幸運の女神に見守られているのさ」
そう言ってニカッと笑ってみせる杉崎だった。
一方――そんな杉崎の様子をビルの上から見つめる一人の少年がいた。
「ふふ、やっぱり僕の勧めたゲームをプレイしてくれたねスギッチ。あぁ、楽しみだ。君がこれからどれほど成長して、強くなっていくか。そしてそんな君と、僕は、僕は、あぁああ! めくるめく命の駆け引きを出来るんだねぇ。あぁ、あぁ来る来る来る、ああぁああぁああスギッチスギッチスギッチィイィイイイイ!」
よだれを垂らしアヘ顔で叫ぶ少年。絶頂に達したその周辺にはバラバラになった無数の男女の死体が転がっていた。しかし、それもしばらくして光の粒子なって消え去る。彼のスマフォにはレベルアップの表示。そのレベルは既に50を超えていた――
◇◆◇
「俺の経験値になれ!」
「チッ!」
あれから何日か経ち、杉崎は何度もプレイヤーに襲われていた。杉崎から仕掛けることこそなかったがしかし向こうからやってきては彼を狩ろうとしてくる。
目の前の相手は手を鎌にして襲ってくる男だった。
「ユニット!」
杉崎の正面に鎧姿の男が出現した。杉崎がプレイしていたMOBAと呼ばれるジャンルのゲームで扱うキャラであった。
レベルが一つ上がるごとに杉崎が扱えるゲームの種類は一つずつ増えていったのである。
「ガッ!」
ユニットの一撃で男が吹っ飛ぶ。そしてスマフォが破壊され相手は粒子になって消えた。
くそっ、と杉崎が呻きユニットを戻す。様々な場所で行われているであろうスキルを利用したデスゲーム。
だが世間では一切問題になっていなかった。たまに派手にやらかしたプレイヤーもいるようだが、そういったものは全く別な事件に置き換えられてしまっていた。
それはおおよそ人の力だけで何とかなるような話ではなかった。大きな意志が関係していると杉崎は考えていた。
「明らかにこれまでのデスゲームと違うだろうこれ……」
そんなことを考えつつもその場を離れる杉崎だ。
「何か杉ちゃん、凄く疲れた顔してない?」
「そ、そうか?」
ある日花咲が心配そうに杉崎に語りかけてきた。
確かに杉崎としても強制的に参加させられているこのゲームに辟易しているところでもあった。
しかし、そんな杉崎に比べると他のプレイヤーは随分と積極的にスキルホルダーというゲームをプレイしているように思えた。
杉崎を経験値と呼んで襲ってくる相手などは特にそうであった。
やれやれと思いながら二人で街を歩いていると、スマフォが震えギョッとなった。最近はこの手の反応にすっかり敏感になってしまった。
画面を見る。また近くにプレイヤーがいるのか? と怪訝そうに眉を顰めるが。
――大規模イベント開催決定! これよりこの街一帯をゲーム用のエリアと致します! プレイヤーは勿論このエリア内にいる一般人も経験値の対象となるぞ! さぁ全員でスキルを駆使しモブを狩りレベルを上げて他プレイヤーと戦い合おう! 成績優秀者には豪華賞品を進呈だ!
「……おいおい、何だよこれ――」
◇◆◇
少年の周囲にはスマフォを持った多くの人間が倒れていた。そして目の前には刀を握った人相の悪い男が立っており、酷く動揺していた。
「な、何だよお前! プレイヤーでもないただのモブだろうが! それなのに、何なんだよこれ!」
「う~ん、言っている意味がいまいちわからないけど。襲われているのはこっちだし、黙ってやられるわけにもいかないよね?」




