第六十六話 電子の存在
「オラ! 車に乗れ!」
「いや、放して!」
「や、やめろォ! 娘に何するんだ!」
「黙れハゲ! さっさと乗れ田中が!」
「いつも私だけ扱い酷くない!」
田中親子が車に押し込まれる。虎島が助けようと動き出すが。
「おっと、動いたらこの女がどうなっても知らないぞ?」
「くっ!」
しかしポンコツな女神が邪魔で手が出せない。女神のくせにお荷物にしかなっていないのである。
「さぁお前も来い!」
「いや、ちょ、貴方達、女神にこんなことして一体どうするつもり? ま、まさかあんなことやこんなことをするつもりなのね! 薄い本みたいに!」
「あぁしてやるよ! 当然だろうが!」
「ひ、ひぃいいいいい!」
男たちは存外素直だった。欲望に忠実だった。ピンチだぞ女神サマヨ!
「ど、どうしよう虎ちゃん」
「くそ、女神様があそこまでポンコツだったとは計算外だ」
虎島が悔しがる。まさか女神までもが捕まるとは、だがその時スマフォが鳴り、そこには海渡の二文字。
「海渡済まない! 田中親子と女神が捕まってしまった」
「うん、大丈夫。もう向かってるから」
「え?」
話している虎島の横を猛スピードで横切る影があった。フッ、と虎島が笑みを零し、刹那車の激突音が響き渡った。
「皆様~~ただいまですわ~~!」
「心配掛けてごめんなさ~い」
「な、なぁ母さん。これは夢なんだろうか?」
「現実ですよ貴方。それにしても凄いわねあの子のお友達――」
海渡が駆けつけ虎島がホッとした少し後、上空からヘリコプターが下りてきた。中には委員長やその父と母の姿があった。どうやら金剛寺が自家用ヘリで迎えに行ってくれたようなのだ。持つべきものは金持ちの友である。
それから海渡も田中親子と女神様を連れて戻ってきた。女神様はすごく泣いていた。女神の威厳が全く無い。
その後は襲ってきた連中に何故こんな真似をしたのかをといつめたが、どうやらデッドチャンネル絡みであることが判明する。
連中は駆けつけた警察に連行されたが、その後杉崎が慌てたようにタブレット端末を持ってきてデッドチャンネルを見せてくれたのだが。
『やぁ、デッドちゃんだよ。皆元気してるぅ~?』
画面の中では映像がLIVEで配信されていた。デッドちゃんというのはデッドチャンネルで作成された高機能AI搭載のイメージキャラらしい。趣味の悪い不気味な熊みたいな姿をしている。
『さて、何度も伝えているけど皆に朗報だ! ビッグチャレンジ! ここに映っているこの連中。こいつらはなんと僕たちが折角毎日楽しみにしているデッドチャンネルを潰そうとしているんだ! とんでもない連中だよね。だから特別に賞金を掛けたよ! こいつらを殺した者には特別にこの賞金を与える上、犯罪者として捕まらないように運営が全力サポートしてあげる! だから皆でこの不届き者共を仲良くぶっ殺しちまおうぜ! 勿論ただ殺すだけじゃなく様々なオプションでなぶり殺しにすればするほど賞金アップだ!』
『おおぉすげー』
『ただ殺すだけじゃなくいたぶり方でボーナスがもらえるらしいぜ』
『犯して殺せば賞金アップとか最高じゃん!』
『わたしこの委員長とかいうのきら~い男友だち誘ってたっぷりいじめちゃおっかなぁ』
「えぇええ!」
突然名指しされ佐藤が随分と驚いていた。しかし、今回はそれだけではなく今いるメンツは勿論金剛寺も鈴木も田中親子も狙われている。しかも家族も対象とされていた。
「おいおい、何かとんでもないことになってきたぞ」
『はっはー! 今更気づいても遅いんだよ糞ども!』
「な、何?」
すると、画面の中のキャラが見ている全員に向けて語りかけてきた。
『お前らは俺たちに喧嘩を売ったんだ! それはつまりここの会員全員に喧嘩を売ったことと同意義。だから全員で叩き潰す! 泣こうが喚こうが結果は変わらない。覚えておけ、こっから先は俺達の一方的なデスゲームだ! ワンサイドゲーム間違いなしのな!』
挑発的な宣告の後、画面の中の熊っぽいデッドちゃんがケタケタと笑い出した。
「くそ、どうするんだこれ……」
「す、杉ちゃん……」
花咲が不安そうに杉崎に寄り添う。委員長と鈴木も不安そうにしていた。そんな中、ふむ、と海渡が口にし。
「ま、とりあえず」
そう言って海渡が画面に向けて指を曲げた。それに画面の中のデッドちゃんが首をかしげるが。
「とりあえずお前から懲らしめておくかな」
そう言ってデコピンすると、グハッ! と画面の中の熊が吹っ飛んだ。
「ガハッ、え? は?」
突然の衝撃にデッドが戸惑う。意味がわからず、頭の中が?で埋め尽くされた。だが間髪入れずに更に衝撃と痛み。
痛み? デッドには理解が出来なかった。デッドは博士のプログラムによって生まれたキャラだ。人工知能が搭載され、このデッドチャンネルの管理は基本的にはデッドの手でされていた。もっともデッドには他にも兄弟のような機能もあったのだが。ただ、それはいつのまにか連絡がとれなくなった。修正もできなかったがメインの知能は自分だったのであまり気にしていなかった。
だが、今そのメインである自分がダメージを受けている。しかも物理的にだ。しかしそんなはずはなかったしありえなかった。デッドは自我があるとはいえ所詮は電子の中でのみ生きる存在だ。当然死ぬこともなければ痛みも感じない。ただのプログラム、0と1の集合体でしか無くそうでなければおかしい。
だが、その常識を覆すような出来事が現実に起きている。あの海渡という男が指で弾く度にデッドは吹き飛ばされ痛みが生じる。しかも攻撃は段々と激しさを増し、電撃を受け、爆発し、少しずつ体が削れていった。
それでもデッドはプログラムだ。再生可能、そう思っていたのだが、無駄だった。欠けた部位は戻らず、痛みだけが続いた。意味がわからず、そして自分が死ぬかも知れないと思い始めた。プログラムの自分が死ぬ? そんな馬鹿な――だが事実だった。しかもその首には黒い刻印が刻まれていた。そう、プログラムだろうと関係なかった。例え人工知能だろうとデッドが命を弄んだ存在なのは確かであり――その罰と報いは受けなければならない。
こうして完全に破壊され電子の世界から消え去ったデッドはそのまま地獄へと引きずり込まれるのだった――




