第五十九話 デッドスVSキョジンズ
「いやぁ~貴方がデッドスの監督さんでしたか。私はキョジンズの監督をやってる長島辰徳です。今日は宜しくお願いします」
「あぁ、よろしく頼むよ。お手柔らかに」
対戦相手のチームデッドスが現れ、長島貞春の父でありチームの監督でもある辰徳が挨拶した。みんなからはたっちゃんという愛称で呼ばれている朗らかな男性でもある。
一方対戦相手の監督は随分と彫りの深い異国生まれの監督であった。そしてやってきた選手も見た目かなり屈強そうだ。背も高く一体何を食べたらこんなに大きくなるのか、とキョジンズの選手も気圧されている雰囲気もある。
「お前らびびってんじゃねぇよ。キョジンズの名が泣くぞ」
「そうだぜ皆! 今日は俺だってバンバン活躍するから大船に乗った気でいてくれ!」
「はっは、その意気だハル」
そう言って辰徳がハルの頭をわしゃわしゃと撫で回した。
「や、やめろって親父!」
「何だ照れてるのかこいつ」
「はは、相変わらず仲いいね」
「うん、いいお父さんだね。それなのにうちのパパと来たら……」
「何だ真弓! 甘えたいのか! よっしゃドンっと来い!」
「もしもし警察ですか?」
田中がやってきて両手を広げてアピールした。即座に海渡の妹がスマフォを取り出す。
「ちょっと菜乃華ちゃん! どこに電話してるの!」
「ポリスメン」
「何で皆してすぐ警察を呼ぼうとするの! 私が何をしたってんだ!」
「私に触ろうとした」
「娘だよね! 真弓娘だよね! 父親が娘に触ってどうして警察呼ばれるの!」
田中が喚いた。だけど警察を呼ぶと言われては手が出せない。今は真面目にやってるが過去に後ろめたいことはあるのだ。
「おい田中! さっさと来い! 試合始めるぞ!」
「はい、はーい!」
監督にどやされ田中が駆け足でグラウンドに向かった。相手チームと整列するが、田中は背も低いので相手チームと比べたらまるで大人と子どもだ。
「ではこれよりデッドスとキョジンズの試合を始めます。ベースボール!」
「「「「「「「「「よろしくお願いしま~~~~ス」」」」」」」」」
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
田中真弓による試合開始の合図と選手同士の挨拶が終わり、試合が開始される。ベンチに座り彼らの印象を選手たちが述べていった。
「何か不気味な奴らだな」
「挨拶も交わしてこないし一言も喋らないしな」
「日本語がわからないだけじゃないか?」
「うむ、きっとわれわれと戦うためにわざわざ海外の有名選手をスカウトしたに違いない!」
「草野球のために!? それと真弓さっきの言うならプレイボールだよね! でもそういうところが可愛い! 流石娘!」
「キモい!」
辰徳が真剣な顔で言うと田中が叫んだ。しかも時間差で娘にもツッコんだ。流石は田中ツッコミを忘れない。だが娘には不評であった。
「先攻はわれわれだ。そして一番は田中! 気合い入れていけ!」
「真弓~パパのいいところ見ていて、あ、いった~~~!」
バッターボックスに入り娘に話しかけた田中だったが尻にデッドボールを受けてしまっていた。
「いいぞ田中!」
「ガンガンボールを受けていけ!」
「よっ! デッドボールキング!」
「その二つ名は嫌なんだけど!」
といいつつ田中は一塁に向かう。ちなみに田中がバッターボックスに立つと必ずデッドボールを食らう。田中が試合に呼ばれているのもそれがあるからだ。
「よっ!」
二番のイチロウタもクリーンヒットで塁を進めた。そして三番にハルが立つ。
「ハル~~かっとばせ~!」
「頑張ってねハルちゃん!」
「野球部の力を見せてあげて~」
菜乃華と佐藤、そして真弓の声援を受けハルがバッターボックスに立つ。そして快音が鳴り響き塁を更に進め一回表から満塁のチャンスを迎えた。
「よっしゃかっとばせ松井!」
「ガジラさーーん!」
ぬっと巨人と見まごうような男がバッターボックスに立った。相手チームの選手もデカいがキョジンズで唯一それに勝るとも劣らない選手がこの松井 我地羅である。
「フンッ!」
「ウォオオォオオオオ!」
ガジラが振ると轟音が鳴り響きはるか上空へとボールが吸い込まれていった。一斉にキョジンズの選手が盛り上がる。ホームランだった。
「やったやったいきなり満塁ホームランだ!」
喜ぶ辰徳。それから試合は進んでいくが、得点は続いていく。
「何か、相手ピッチャー大したこと無いな」
「スピードも手頃だしな」
次第に選手たちがそんなことを口にしだした。結局一回だけで15点も入ってしまった。
「相手は打ちそうだぞ。ハル油断するな!」
「任せとけって!」
ピッチャーはハルだった。まだ中学生だが実は今の段階で多数の強豪校からスカウトが来るほどの腕を持つ。
そして――相手にかすらせもせずストライクの山を築いていった。
「相手全く振ってこないな」
「ハルの球が見えてないんだろう?」
それから試合が進む。結局七回が終わる頃にはキョジンズに300点が入っていた。
「これコールドじゃないのか?」
「それがこの試合コールドは無しでと言われてるんだ」
「なんだよそれいい加減打つの疲れたぜ。田中は尻が痛そうだし」
「うぅ、何で毎回私だけ」
田中は常にデッドボールを尻に受けていた為、尻も真っ赤なのである。
そして八回表が終わった頃、点数は400対0というありえない差になっていた。
「後一回残ってるのかよ」
「相手もハルの球を全く打てないしこれはもう決まったな――」
キョジンズがそんなことをいいながら談笑してたその時である。ブォン! という豪快な音が鳴り響き、見てみるとボールが上空の遥か彼方に吸い込まれていった。
「はっは、ホームランだな」
相手の監督がニヤリと笑みを浮かべる。
「ま、まぁたまにはこういうこともなぁ」
「せめて1点ぐらい返してもらわないと――」
だがしかし、それからデッドスの快進撃が始まった。ハルがいくら投げようが、何を投げようがおかまいなくホームランが量産され――結局八回裏が終わった時点で得点は3333対400という絶望的な差となっていた。
「おいおい、試合を見に来てみたら何だよこの点数差」
「え~と途中までキョジンズが勝ってたみたいだよね」
「まったくもって不甲斐ないですわ!」
「ふむ、てか、あの選手何か不気味に見えるな。どう思う海渡?」
「う~ん……3333-400ねぇ――」




