第五十八話 デッドスポーツ
「おっとこれは一体どういうことか? デッドスチームの選手から全くやる気が感じられません。ヤッラーレチームが次々と得点を決めていきます」
「ふふふっ……」
今とある競技場ではバスケットボールの試合が行われていた。しかし開始からデッドスチームはほぼ動こうとせず、ヤッラーレの得点が次々と積み重なっていた。
「チッ、やる気がないなら試合になんて出てくるなよ」
「こんなもの練習にもなりやしないぜ」
ヤッラーレチームの選手たちが次々と愚痴を言う。向こう側の監督もイライラしている様子だった。
「ふざけんなデッドス!」
「意味わかんねぇやる気がないならやめちまえ!」
客席からも罵詈雑言の雨あられが飛び交う。そして第3Qが終わった時点でヤッラーレチームの得点数は111点にも及んだ。
「正直こんな馬鹿らしい試合はないな。やる気がないならとっとと負けを認めてくれないか?」
ヤッラーレの監督がデッドスの監督に文句を言う。だがデッドスは不敵な笑みを浮かべてこう述べた。
「そちらこそ、いつまでそんなことを言っていられるかな?」
「……? ふん、不気味な奴だ」
ヤッラーレの監督は顔を顰めチームの席に戻る。そして相手がどんな態度だろうと全力で叩き潰せと選手に指示を出した。
そして第4Qが始まった。変化はそこで現れた。今まで動こうとしなかったデッドスの選手がボールを奪った。瞬間点が入った。
「は?」
ヤッラーレの選手は目を丸くさせた。意味がわかなかったことだろう。ただの偶然だとそう判断した。再び試合が再開されたデッドスのシュートが入った。ハーフラインの外からだった。
「な、何をやってるんださっさとボールを奪え!」
「くっ! くそ!」
ヤッラーレの選手が叫ぶ。だが無駄だった。試合の再開と同時に何故かデッドスの手にボールが渡ったかと思えばシュートが入っているのだ。全て3Pシュートでしかもハーフラインの外からだった。
「な、なんだこれは。一体私は何を見せられているんだ――」
それはもはや試合と言える代物ではなかった。デッドスがシュートを決める場面のみが延々と繰り返された。今までのやる気の無さが嘘のようであり、これまでの圧倒していた選手の顔からも血の気が失せていっていた。そして試合時間はあっという間に残り僅かになっていた。
「やれやれ、あまりに一方的でもつまらんな。おい、最後はダンクでも決めてやれ」
デッドスの監督に言われ選手が無言で頷いた。
「ふ、ふざけるな! 必死で守れ!」
ヤッラーレの監督が叫ぶ。選手も声を掛け合いディフェンスに集中した。だが無駄だった。選手の間を風が駆け抜け、かと思えばゴール側から音がした。選手が振り返った時ダンクシュートが決まっていた。そこで試合終了のブザーが鳴った。
「はは、やったじゃないか。丁度ゾロ目だ」
「は?」
ヤッラーレの監督がスコアを見て驚愕した。111対11111という冗談みたいな点数がそこに表示されていた。
「こんなの、ありえん、ありえるわけが……」
「さて、それじゃあこれで表のゲームは終わりだな。次は裏でいこうか」
「……は?」
ヤッラーレの監督が相手の監督を見た。彼は端末を弄り彼にある動画を見せた。
「君たちの家族はこの通り我々が預かっている。次にやるデッドスポーツで勝てたら解放してやろう。それと我々に随分なことを言ってくれた観客共。こいつらが負けたら、お前らも全員殺す。覚悟しておくんだな」
そしてその日のバスケットボールは血塗られたデッドスポーツの舞台へと変わり果てた。それが彼のやり方だった。先ずは表のルールで相手の尊厳を徹底的に踏みにじった上で、裏のデッドスポーツでとどめを刺す。この動画はデッドチャンネルでも3大人気番組の一つとして数えられていた。
それからしばらくして、彼らは直接次の相手をリクエストされた。その相手は――草野球のチームだった。
「やれやれ、なんだってこんなしみったれた相手と。ま、しかしたまにはいいかもしれないな」
そして彼は自慢の強化人間達と惨劇の舞台に向かった。
「いやぁ手伝ってくれて助かるよ佐藤委員長」
「いえいえ、従兄弟の長島くんの頼みだったので」
「委員長姉ちゃんサンキューな!」
そう言って長島 貞治が笑った。今日は彼も部活が休みだったが、父親に頼まれ草野球の選手として駆り出されていた。そして佐藤委員長はその几帳面な性格を買われてスコアラーとして呼ばれていた。
「いやはやしかし、今日は貞治の友だちの女の子も来てくれて何とも華やかだねぇ」
「そんな華やかだなんて。でも佐藤委員長がお兄ちゃんのクラスメートだったなんて驚き~」
「私も妹さんがいるとは聞いていたけど、まさかここで会えるなんて。それに、田中真弓さんもお話に聞いていたから」
「な、なんかいつも父がすみません」
佐藤委員長に向けて田中真弓が謝った。するとそんな彼女に迫りくる影!
「うぉおぉおお真弓!」
「ちょ、こないでよ!」
田中だった。彼もまた草野球の選手として呼ばれていた。
「ほら田中、練習再開するぞ」
「うぉおぉお! 真弓~! 真弓~!」
田中がグラウンドに引きずられて行く。一方真弓はホッとしていた。
「あ、そういえば私お弁当も作ってきたんです。皆さん試合後はお腹が減るだろうなと思って」
「へぇ! そりゃいいな。君のような可愛らしい娘さんが作ったお弁当が食べられるなんてこりゃ今日は縁起がいいや」
「…………」
「あれ? ハルどうしたの?」
「い、いや、その、え~と」
「凄い汗だよ大丈夫?」
真弓と菜乃華に心配される長島だが、むしろ彼が気にしているのは佐藤の弁当なのであり――
そんな彼らを見てほくそ笑む人物がいた。
「あれが今日の相手か。しかしつまらん内容になるかと思ったがあの女どもは使えそうだ。特に佐藤委員長とかいう女は色々楽しめそうだしな――」
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