第五十七話 子どものやること
デッドチャイルドの一組が消えた。理由はわかっていた。あの海渡という少年の所為によるものだ。
だが、その時の映像はもうどこにもない。確かに保存しておいた筈。だがデータがいつのまにか完全に抹消された。
正直意味がわからないが、彼のデータはもっと集める必要がある。デッドは博士によって作られた管理人として脅威は早めに排除しなければいけないと考える。
残りのデッドチャイルドに仲間がやられたことを伝えた。子どもたちは特に悲しむ様子も無かったが自分たちがバカにされたと思っていたようだった。
子どもたちはすぐに動画で次のターゲットを示唆し視聴者にアピールした。
「佐藤委員長は今度こそ僕たちが殺すよ」
「勿論ただではすまさないよ。僕たちの悪戯でたっぷり苦しませてあげる」
「やられた連中はデッドチャイルドの中で最弱。僕たちと比べたらただの雑魚」
「そうそう、私達がしっかり目にもの見せて――」
「なんでこんなことする?」
その時、動画に妙なメッセージが流れてきた。ここの視聴者ではないのはたしかだった。だがどこの誰かまではデッドでも掴みきれなかった。
「お前たちのやってることは殺人だ。わかっている?」
「はっは、何こいつ何言ってるの?」
「殺人だってキャハハハ」
「子どものただの悪戯じゃん。僕たちが悪戯したらたまたま死んじゃっただけだよ」
「そんな死ぬほうが悪いよね」
「これが漫画やゲームなら死なないよ」
「漫画やゲームと一緒には出来ないだろう」
「そんなの知ったことか」
「私達は子どもだからわかんないもん。だから映画とかゲームや漫画で見たから大丈夫だと思ったと言っておけばゆるされるも~ん」
「勝手にメディアのせいにしてくれるからね。むしろ僕たちは被害者扱いしてくれるよ」
「それに子どもは何したって許されるし、やらないほうが馬鹿じゃん?」
「しかもこれでお金が貰えるんだから最高だよねぇ」
「つまり、やめる気がなければ罪を告白する気もないってことか」
「「「「「「あったりまえじゃ~~~~ん」」」」」」
「よくわかったよ」
そしてそのメッセージは消えた。
その後動き出した子どもたちは、お婆ちゃんに道を教えている佐藤委員長を見つけた。いつもどおり先ずは軽い悪戯で怒らせようと犬の糞を投げつけた。
だけど、それは全く別の誰かに当たった。だれだ、あれは――
「ヨグモ、ヤッデグレダナアァアアア! ウォオオォオオブッゴロスゥウ!」
「ひ、え? な、何何? なんだよこれぇええぇえ!」
子どもたちを追いかけてきたのは人の形をした豚だった。佐藤委員長を狙った筈なのに、なぜそんなわけのわからない豚に子どもたちがおいかけられているのかわからない。
「ブヒィイイイイイ! ぶっゴロ、ブフォ!」
だけど、子どもたちが山に入り、更に逃げた先には落とし穴が掘ってあった。豚は見事にそれにはまった。落とし穴には竹槍が仕掛けてあり、子どもたちも落ちたものを突きさせるよう手製の槍を用意していた。
「やったぶっ殺せ!」
「化物! この化物!」
子どもたちが穴にはまった化物に槍を突き刺していった。
「へへぇ、この豚倒せばきっとレベルアップするよ!」
「ゲームみたいだねぇ」
もう倒せると思ったのか子どもたちは笑顔で突き続けた。だが。
「ンォオオォオオオオオオオ!」
豚が穴から這い出てきた。槍に刺されたダメージはすぐに回復していた。怒りの形相で子どもたちを睨む。
「ブっゴロス!」
「う、うわぁあぁああ!」
「助けてママァ~~~~!」
子どもたちは逃げ出した。すると山の中に建っている一軒の洋館を見つけた。
「あそこに逃げよう!」
「誰か住んでるかも」
「そしたらぶっ殺して乗っ取ろう!」
「そうだよ。こんな山の中に住んでる方が悪いんだもん」
「殺されても文句言えないもんね!」
そして子どもたちは洋館に飛び込む。鍵は掛かっていなかった。内側から鍵をかけようとする。
「あれ? 鍵どこ?」
「早くしろよ!」
「わかんない鍵わかんないよ!」
「駄目だこっち来てる逃げよう!」
「ブフオォオオオオオオォオオオオ! ブっ殺ス!」
「う、うわあぁああああぁああ!」
「キャァアアアアァアアア!」
「ひぃ、に、逃げろ、バラバラに逃げろ~~~~!」
そして子どもたちが散り散りに逃げ出す。一人の少年が近くの階段を駆け上がった。すると突如ガタン! と階段が変化し坂になった。しかも卸金のような作りになっており転がった少年の肉片が飛び散り、ズタボロになった。その上落ちたところの床がスプリントとなり天井に打ち上げ、天井付近でいつのまにか揺れていた振り子状の鎌に切られ上半身だけとなってエントランスに落ちた。
「痛い、痛いよぉ――」
身動きも取れずもがく少年だったが、直後に上から刃が下についたシャンデリアが落ちてきて――
「ひっ、い、いやだぁああぁああ!」
少年は刃のついたシャンデリアに押しつぶされた。
少女二人も逃げていた。豚の化物が追いかけてくる。何とか逃げ切ろうと廊下を走っていたが通路にあった石像がパカッと開き少女を飲み込んだ。像の内部には鋭利な針がビッシリ生え揃っており蓋が閉まると少女が悲鳴を上げた。
石像から大量の血が流れ落ちる。顔の部分が開くと苦しそうに呻き泣きわめく少女の姿。
「し、仕方ないでしょ!」
「いや、みすて、ない、で――」
残った一人は逃げた。追いかけてきた豚の化け物が立ち止まり像に嵌った少女を見た。
「ひぃ、助け」
「ブォオオオオ!」
だが豚は容赦なく少女の頭部を掴みメリメリと力を込めて首から引っこ抜いた。
雄叫びが上がり、逃げた少女の顔は涙と鼻水でグチョグチョだった。
何とか逃げようと必死になる。だけど、そこに落とし穴が現れ落ちてしまった。落とし穴には槍が仕掛けられ全身を貫かれて悲鳴を上げた。すると豚の化物が覗き込んできて、どこかから取り出した槍で何度も何度も突き刺した。
残った少年たちも洋館に仕掛けられたトラップで転がってきた鉄球に轢かれたり、化物が一杯出現する部屋に飛び込んで全身を引き裂かれたりうっかり踏んでしまった地雷で動けない程のダメージを受け、痛い痛いとのたうち回っている内に豚の化物に追いつかれ生きたまま弄ばれた末に喰われて死んだ。
そして、気がついた時、子どもたちはまた洋館の入り口にいた。
「あんたさっきはよくも見捨てたわね!」
「う、うるさいあんなのに引っかかる方が悪いんでしょ!」
「お前がもっと上手くやれば!」
「おまえこそトロすぎるんだよ!」
子どもたちが互いに互いを罵り合い争い出す。だが、容赦なく化物の豚が現れ今度は直接豚に散々いたぶられ生きたまま喰われて死んだ。想像を絶する痛みと苦しみを味わい続けるも目覚めたらまたも洋館の入り口に立っていた。
「な、なんだよこれ……」
「楽しんでくれてるかな?」
子どもたちに声が届く。見上げると階段の上に彼らと同い年ぐらいの少年が立っていた。
「誰だお前!」
「海渡だよ」
「え? 海渡?」
「お前あいつの弟か何かか!」
その名前で思い出したのか子ども達の一人が問い詰める。
「本人さ。お前たちに合わせて子どもになってみただけだ」
子どもたちが首を傾げる。デッドにも理解が出来なかった。
「これをやったのはお前か!」
「そうだよ」
「ふざけるな、今すぐ出せ!」
「何で? 君たちの為に最高の悪戯を用意したんだよ」
海渡が当然のように言うが、子どもたちは納得しなかった。
「こ、こんなの悪戯じゃない犯罪だ!」
「大丈夫だよ僕は子どもだから罪にならない」
「は? お、お前はこうこうせーいだろ!」
「今は子どもだよ」
「なんでこんなことするの、さっきから私達凄くいたくて苦しくて、もう、もう嫌だよぉ」
そうこうしているうちにまた豚の化物がやってきた。必死に逃げても罠にハマって死んでしまう。しかもそのどれもが痛みと苦しみを伴うものだった。
「ま、また……」
そして洋館の入り口に戻された。階段の上には少年の姿の海渡がいた。
「お、おま、こんなの絶対に許さないからな! ネットにさらしてお前の人生メチャクチャにしてやる!」
「何をそんなに怒ってるの? こんなのゲームだろ? 漫画やアニメや映画でもよく見るやつだ」
「ふざけるな! あれはフィクションだ! こんなに痛いわけないし苦しいわけない!」
「そのとおりよく知ってるじゃないか」
「「「「「「あ……」」」」」」
子どもたちが声を揃える。海渡という少年はそんな姿を冷たい目で見下ろした。
「つまりお前たちはメディアの影響でやったわけじゃない。自分たちの意思でやり人を殺した。その報いはうけないとね」
「ふ、ふざけるなよ。たとえそうでもほうりつがぼくたちを守ってくれるんだ!」
「そうよわたしたちは子どもだから罪にはならなない!」
「なら俺も罪にはならないな」
「な! そんないいわけ!」
「そもそも、ここではお前たちのルールなんて通じない。敢えて言うならいまここを見ている死霊者がそれを判断する」
「は、死霊?」
「上を見てみろ。お前たちが散々殺してきた者が死霊となってお前たちを見続けている。お前らが出来るのは殺してしまった彼らをひたすら楽しませることだけだ。この屋敷で延々と続く悪戯に引っかかり続けてね。それじゃあ後は頑張って」
「ひ、い、いやだぁあああぁああ!」
「お願いだからおうちへかえしてぇええ!」
「お前、子どもを見捨てるのか! この鬼畜!」
「面白いことを言うね。だけどさ、子どもだから許されるとか法律が守ってくれるから殺してもいいとか、そんな悪知恵の働く連中を子どもとして助ける道理なんてないだろう?」
そして海渡は去り、後に残された子どもの絶叫と死霊の笑い声だけが繰り返された。
これが海渡のやった一部始終。デッドはそれを記録することにした。
――映像を記録します。
――記録出来ませんでした。
――映像を記録します。
――記録できませんでした記録できませんでした記録できませんでした記録できませんでした記録できませんでした記録できませんでした記録できませんでした記録できませんでしたきろくできませんでしたキロクデキマセンデシタキロクデキマセンデシタキロクデキマセンデシタキロ、ク、デキマセン、デ死――




