第五十一話 料理大会
「さて、改めて本日大会に参加した選手を見てまいりましょう。先ずは主婦代表として参加。関西からの刺客! 端水 株子!」
「食い倒れの本領発揮したる!」
株子が両手を広げて周囲にアピールした。パンチパーマを掛けた太めなおばちゃんであり、虎模様のエプロンを身に着けていたりと中々パンチがきいている。
「続いては世界中を旅して回り、とにかくより強烈な辛さを求めて来たという辛党な激辛マスター! 唐辛 新!」
「おらの3千倍辛王拳を見せてやる!」
全身毛むくじゃらのおっさんがそう叫んだ。口調と見た目があまり合っていない。
「そして本日の紅一点! 花の女子高生、あのコックバットの様々なランキングで首位を独占した佐藤委員長だ!」
「改めて、宜しくお願いします!」
「う~ん実に可愛らしい。少女は私立天聖学園に通う高校2年生で客席には少女を応援するためにやってきた友だちの姿も見えますね」
「委員長頑張ってーー!」
「ファイトですわ!」
「ガウガウ!」
「はぁ女子高生は尊い――」
「若者の香りは元気の源ぉおおぉお!」
「おっと執事服の男性は少し犯罪臭がしますね。警備員を呼びましょうか?」
「……てか、何で金剛寺の執事やメイドまで来てるんだ?」
「何かね杉ちゃん、アカオちゃんが小さくなったからその間は爺やさんが送り迎えしてるんだって」
客席は中々に騒がしかった。しかし全員佐藤委員長の応援のために来てくれているのだから彼女としては嬉しい限りだろう。
「そして謎の流れの料理人、毒銘 死坊! いやはや、なんとも不気味な印象がありますね。毒でも扱いそうな気がします」
「うふふ……」
司会者の発言に不敵な笑みを浮かべる死坊であった。そして更に司会者が進行を続ける。
「さて、それでは続いて厳正なる抽選で選ばれた審査員を紹介、よければ一言ずつコメントをいただければと思います」
そして司会者のマイクが先ず一人目の少年に向けられる。
「右端の彼から!」
「私立天聖学園に通う伊勢 海渡です。普通の高校生やってます」
「なるほど普通なんですね!」
「はい、デスゲームに何度か巻き込まれたけど至って普通です」
「なるほど、さて続いて二人目! 中々厳つい顔をしてますがどうぞ!」
「私立天聖学園に通う虎島 虎男。頭の上にスライムが乗ってるが、普通の高校生だ」
「キュッキュッ~♪」
「お~っと頭の上で可愛らしい鳴き声を上げながらスライムがポンポンっと跳ねてます。これは癒やされる! さて続いてこれはなんとも可憐な美少女だ!」
「私立天聖学園に通う星彩 景です。一度死にましたが、普通の女子高生です」
「なんと一度死んでるとは驚きだぁ!」
「キラーー! ファイトーー!」
「タイガーもう邪魔!」
「おっとぉ、観客席から何故か審査員側を応援する声も聞こえてきます。一方タイガーとは虎島くんのことでしょうか? 嫌われてますねぇ」
「ほっとけ!」
「さて続いてはこれはまた、な、なんとも童顔なのに凄い胸の持ち主だーーーー!」
「私立天聖学園に留学してきたキャラットです。回復魔法が使えますが、普通の異世界人、いえ女子高生です」
「なんと! 異国からの使者は回復魔法が使えるそうだ! これで腹を壊しても大丈夫! さて次は!」
「私立天聖学園で警備員兼ヘルパーをしている田中です。真弓ーー! そして愛する妻の」
「はい、以上が今回厳選な抽選で選ばれた審査員の皆さんです。さて、それでは早速調理に」
「ちょっと待ちなさいよ!」
司会者が話を進めようとしたその時、死坊が叫び待ったをかけた。司会者は?顔で彼を振り向く。
「はて? いったいどうしました?」
「どうしましたじゃないわよ。全く、私、こういうのにあまり口は出さないほうだけど流石にこれは黙ってられないわ。何このあからさまな仕込み」
死坊が不快そうに語った。だが、それを聞いていた司会者が逆に不機嫌な顔を見せ。
「仕込みとは心外な! うちは常にクリーンな大会を目指しているんです! 今回だって厳正な抽選の結果で選ばれた審査員なのですよ!」
「貴方、どの口がそれを言ってるの?」
死坊が眉をひそめる。そして改めて審査員を見た後。
「そこまで言うなら聞いてみましょうか。先ずそこの参加者の貴方、確か委員長だったわね」
「は、はいそうです!」
「どこの高校から来てるんだったかしら?」
「私立天聖学園で委員長やってます!」
「……なら、また審査員のそっちから簡単でいいから学校名含めて紹介して」
「私立天聖学園で高校生やってる海渡だ」
「私立天聖学園の高校生、虎島」
「私立天聖学園で女子高生してます景です」
「私立天聖学園に留学してきたキャロットです」
「私立天聖学園で警備員兼ヘルパーやってる田中だ。愛する妻――」
「ほらみなさい! これのどこが仕込みじゃないってのよ! しかも雑よ酷い雑! やるならもっと上手くやりなさいよ!」
死坊が審査員を指差しながら吠えた。どうやら死坊は仕込みやヤラセを疑ってるようだ。司会者からすれば失礼な話である。いったいどこに怪しい点があるというのか。
「ちょっとあんた、ほんまえぇかげんにせぇな。そんな証拠もなく人を疑ったらあかんでほんま」
「いや、貴方疑問に思わないわけ?」
前に出て死坊を窘めてきたのは主婦代表のおばちゃんである株子だった。それに不満そうな顔を見せる死坊だが。
「全くだ! 寧ろこんなにすごそうな奴らが相手でおら、ヒーヒーすっぞ!」
「貴方そこはかとなくイラッとするタイプね」
毛むくじゃらのおっさんの妙な口調に、死坊が顔を顰めた。すると今度は佐藤が近づいてきた。
「あ、あの、何があったかわかりませんが、やっぱり、こういう時は正々堂々と料理で決着をつけるべきだと思います!」
「貴方がそれ言う?」
勇気を出して自分の意見を口にする佐藤だが、死坊の佐藤に向ける目は険しかった。いったい何が不満なのかと、海渡を含めた審査員が首を傾げる。
「ふぅ、貴方達がそれでいいならもういいわ。それにどうせ結果は変わらないもの」
いいながら不敵な笑みを零す死坊であり。
「それでは気を取り直して皆さん料理に掛かってください!」
料理バトルが開始された。それぞれが腕によりをかけ創意工夫し、料理を仕上げていく。
「タイムアップ! さぁ全員料理が完成したようです。それでは先ず端水 株子さんの料理からだ!」
「ふふ、うちがほんまもんの料理っちゅうもんを教えたる! めんたま引っこ抜いてようみとき!」
「引っこ抜いたら見えないわね」
冷静に死坊がツッコむがとりあえず株子の料理が審査員の前に姿を見せた。
「「「「「こ、これは!」」」」」
「ふふ、これがうち特製! お好みたこ焼き焼きそばパスタラーメンそばうどんもちもち白玉パンサンドイッチバーガーよ!」
「節操ないにも程があるわよ!」
死坊が叫んだ。それぐらいの画期的な料理なのだろう。
「これはなんとも独創的な料理だーーーー! 人気の料理がこれでもかとふんだんに取り入れられた最強のバーガーとはまさにこのことか!」
「いやいや、粉もの多すぎだから! 百歩譲ってお好み焼きとたこ焼きと焼きそばまでは許すわよ! でもその後のパスタラーメンそばうどんって何よ何で麺類あわせてるのよ! おまけにパンとサンドイッチにバーガーってそれ全部パンじゃない! そこに餅に白玉って本当炭水化物半端ないわね。ある意味毒でしょこれ!」
死坊が叫んだ。確かにこれは血糖値の高い人にはおすすめできないだろう。
「さぁでは料理がどうだったか聞いてみましょう。海渡くん如何でしたか?」
「うん、旨い。粉物っぽい味がする」
「粉物ばかりだからそりゃそうでしょうよ」
「虎島くんは?」
「うん、麺類とパンの味が強いな」
「キュッキュ~」
「殆ど麺とパンだからでしょうね。というかそのスライム何なのよ? ちゃっかり食べてるし」
「景さんは?」
「私はたこ焼きが特に美味しく感じましたね」
「貴方たこ焼きしか食べてないものね! 全く他に手を付けてないわね!」
「キャロットちゃんは?」
「おかわりが欲しいです」
「貴方その体のどこにそんなに入ったのよ……胸なの?」
「後は田中、て、死んでるーーーー!」
――ピクピクっ。
「何でもう死んでるのよーーーー!」
この田中を殺したのは誰だ~~~~!




