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【コミカライズ】異世界帰りの元勇者ですが、デスゲームに巻き込まれました【本編完結】  作者: 空地 大乃
第四章 デッドチャンネル編

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第四十七話 謎の侵入者

いつも誤字脱字報告や感想を頂きありがとうございます!

『むぅ、鍵がかかっている――』


 アカオは夜中、妙に腹が減ってしまい屋敷の中を彷徨っていた。台所や倉庫を回れば何か食い物があるかもと思ったがどこも鍵が掛かっていた。


 以前アカオが夜中盗み食いしたためだ。ここ最近のダイエット生活はアカオにとっては苦痛そのものだった。

 

 ダイエットが始まってからは肉類も随分と制限された。それでも最初は赤味の肉は出てきたが、全く体重が減らないとわかるといよいよ鳥のささ身しか喰わせてもらえなくなった。


 お菓子やデザートも当然なし。せいぜい冷奴に野菜ソースを掛けたものを出されるぐらいだ。それでも流石は裕福な金剛寺家だけあって十分旨いので食べていたがやはり腹の足しにはならない。

 

『仕方ない、庭に出てみるか』


 金剛寺家の庭では家庭菜園も行われている。もっとも家庭菜園と言ってもちょっとした農家程度の規模の畑や果樹園があるわけだが、そこを漁れば何かあるかもしれない。


 ただこれも以前アカオが畑を荒らしてしまったため、しっかり対策は取られている。夜中畑や果樹園に近づく者がいたら警報が鳴るのだ。


 アカオも当然それは知っていた。だから収穫時に何か零れ落ちたものがないかを見るのが関の山だ。


 とは言え、金剛寺家の敷地は広く、畑や果樹園までは結構な距離がある。移動するだけでもちょっとした運動になるため、今のアカオには最適と言えた。


『はぁ、結局何もなかった……』


 疲れる思いをして移動したがこれといった収穫はゼロであった。アカオは肩を落としながらトボトボと屋敷まで戻ろうとする。果樹園は屋敷の出入り口近くにあるので、帰るだけでも一苦労だ。


 以前のアカオならそれでもちょっと本気を出して駆ければあっという間だが、今の脂肪まみれの体ではかなりスピードは落ちるしチーターよりも持久力がない。


 海渡と初めて出会った時は、時速100kmを超える速度を維持したまま2時間でも3時間でも走り回れたというのに、その面影は見事になくなっていた。


「その肌の色、貴様キングレッドか。気配を消して忍び込んだつもりだったが、まさか気づかれるとはな」

『は?』


 その時、キングレッドの耳に何者かの声が届く。顔を上げると紫色っぽいラバースーツを着た男が立っていた。


 当然だがこんな見るからに怪しい男にキングレッドは見覚えがない。


「だが丁度いい。探す手間が省けた――しかし、お前、本当にキングレッドなんだよな?」

『いや、誰だよお前』


 何かよくわからないが、ラバースーツの男は自分を探しているようだとアカオは判断した。なのでつい誰何してしまうが、よく考えたら自分の意志が伝わるわけ無いかと考えるが。


「デッド博士にお前を回収するよう頼まれたと言えばわかるか?」

『!? デッドだと! しかもお前、俺の言葉がわかるのか!』


 アカオが驚く。相手がアカオの言語に理解を示したからだろう。


「はは、俺も博士によって改造を施された強化人間なのさ。博士のフェーズは既にレベル5に達している。デッドチャンネルの効果で資金も潤沢だからな」


 男がニヤリと笑みを深めた。デッド博士、かつては生物学の第一人者であり遺伝子工学の分野においても手腕を振るった。


 百万人に一人の天才とまで称されたが、ある時裏で人体実験を繰り返し行なっていたことが明るみにされ学会を追放された過去がある。

 

 だが表舞台から消えた後、デッド博士は闇の研究者として知られるようになる。実験体と称する生物兵器を裏で売買したり、更にデッドチャンネルの配信を開始し実験に必要な費用を荒稼ぎしていた。


「キングレッド、お前はデッド博士のお気に入りだったからな。軍隊相手に怯むことなくたった一匹で壊滅させたその戦闘力は失うにはあまりに惜しいといったところだろう。何というか、随分と姿は変わりはててしまったようだがこの俺の気配を感じ取って先回りしていた辺り、その実力はまだまだ健在なようだしな」


 随分とべらべらと語りだす男だが彼は根本的な勘違いをしている。アカオがここにいたのは落ちてる食い物を探しに畑まで見に来た帰りだったという意地汚い理由でしか無いのだ。


 勿論以前のアカオであれば、このような連中がやってきたらすぐに気取り、排除しようと試みたであろうが、今のアカオにそんな鋭敏な感覚はそなわっていない。


「さぁわかったら戻ってこいキングレッド」

『断る』


 手を差し伸べてくるラバースーツの男だが、アカオはあっさりと断った。


「何だと? どういうことだ? 博士がお前を待っているのだぞ! お前だってこんなところに好きで閉じこもっているわけじゃないだろう? 何せお前は博士の研究で血と肉を何よりも好む最強の獅子として生み出されたのだからな。こんな退屈そうな環境に耐えられるわけがない!」

『いや普通に快適だし。戦闘とかそういう面倒なのはマジ勘弁』

「は?」


 アカオがしちめんどくさそうに言う。ラバースーツの男が目を白黒させた。


「馬鹿な、いったい何を言っている?」


 信じられないものを見るような目を向けてくる男だが、残念ながらアカオには既に闘争本能など欠片も残っていない。かつては血と肉を好む獅子だったかもしれないが、今は菓子と肉とその他とにかく旨いものを好み、好きなだけ食べ惰眠をむさぼるただ赤いだけの獅子になりさがったのだ。


『おいおい、本当にこいつが俺の兄貴分なのか? ブクブク太ってまるで豚じゃないか』


 すると、今度は男の後ろからのっしのっしと一匹の虎が姿を見せた。しかもただの虎ではない。毛並みが黒く通常の虎よりサイズの大きな不気味な虎である。


『なんだそいつは?』

『ふふ、こいつは博士がお前の後に生み出した生物兵器、ブラックエンペラーだ。一応はお前の弟ということになるかもな』

『は、こんなブサイクの兄とか勘弁してほしいぜ』


 ブラックエンペラーが吐き捨てるように言った。


『初対面で随分な言い草だなチビ』

『黙れデブ。そんな脂肪ばかりためて恥ずかしくないのか?』


 ブラックエンペラーが挑発してきた。その体は通常の虎よりは大きいがかつてのキングレッドと比べてみれば小柄と言えた。


「お前からすれば小さく見えるかも知れないが、ブラックエンペラーはお前とはコンセプトが異なる。はは、そうだ丁度いい。どうやらこいつは博士のもとに戻りたくないようだ。しばらくこんな平和ボケした国にいて調子が悪いのだろう。だからちょっと遊んで兄貴の野生を呼び覚ましてやれ」

『ふん、本当にこんなのがかつて紅蓮の獅子と恐れられていたのか? まぁいい。黒雷の虎と称される俺の力を見せてやるか』

『むぅ……』


 何だかよくわからないうちに戦闘になることになってしまい戸惑うアカオだが、相手はもうやる気十分なようだ。


『チッ、面倒だが仕方ないな。ならば久しぶりに本気で相手してやる!』





『……おい、こいつ本当にキングレッドか?』

「う~ん……」


 ブラックエンペラーに問われ、男が頭を悩ました。目の前にはブラックエンペラーにやられズタボロになったアカオが転がっていた。戦いが始まり10秒も持たずこの有様である。


『こんなの持ち帰る価値もないだろう。殺るか?』

「まぁ待て、一応博士に頼まれたのだしな。こんなのでも持ち帰らないと」

(くそ! 好き勝手言いやがって!)

とアカオが心のなかで毒づく。

 

 しかし、全く歯が立たなかったのも事実だ。戦ってみてわかったが以前と違い体が思うように動かずちょっと体を動かすだけでだるくて仕方ない。

 

 一方でブラックエンペラーは黒雷の虎などと偉そうな肩書を持つだけに、異様に動きが速く目で追うことさえ叶わず一瞬で全身を切り刻まれた。


 小柄な分、攻撃力に関しては全盛期のアカオほどではないが、この速さと手数の多さは十分に脅威と言えるだろう。というかアカオにはさっぱり勝てる気がしなかった。なのでダウンしたふりしてやり過ごせないかなと考えているほどである。


『全く準備運動にもならなかったぞ。暴れたりないぐらいだ』

「安心しろ。これから屋敷を襲撃してタップリとストレス発散させてやるよ」


 だがその会話を耳にし、ガバリとアカオが体を起こす。


『待て! 襲撃するとはどういうことだ! 主人は関係ないだろう!』

「は? 何を言っているんだ貴様は? お前をこんなところに閉じこめたような連中、放っておけるわけがないだろう。しっかり落とし前をつけないとな」

『ち、違う! 主人は俺を飼ってくれただけで、随分と世話になってるんだ!』

「ふん、だとしても関係ない。第一お前をそこまでぶくぶくに太らせたわけだしな。まぁそうでなかったとしても視聴者を楽しませるために容赦なくやらせてもらうけどな。さぁいくぞブラックエンペラー」

『あぁ。しかしこれが兄か。全く情けない奴だ。ま、貴様はそうやって地べたを這いつくばって主人が無残に殺される様子でも見ているんだな』

『ふ、ふざけるなぁあぁああぁああ!』


 アカオが力を振り絞りブラックエンペラーに飛びかかる。しかし、視界から黒い虎の姿が消えたかと思えば、全身をあっという間に切り刻まれた。


『グハァアアァアアァアァアアアア!』 


 アカオが大きく吹き飛ばされる。なすすべがなかった。何もできなかった。


『チッ、雑魚が』


 ブラックエンペラーが吐き捨てるように言い踵を返す。するとラバースーツの男が近づいてきてアカオを見下ろし注射器を取り出し体に刺した。


「よし、これでしばらく動けないな。しかし本当に情けない奴だ。かつての王者の風格など見る影もないな」

『くっ、くそ――』


 全身が痺れて動くことができなくなった。アカオは自分が情けなかった。そして今になって後悔した。堕落した日々を送っていた自分を。そしていざという時に主人を守れない自分の弱さを。


『くそ! 動け! 動けよ! このままじゃ主人が畜生! 何故だ! 何故我はここまで弱い! 我が、我がもっと強ければ!』


 自分の弱さを悔いる。そして求める、強さを! その時だった。


(力が、欲しいか?)

『な、何!?』


 アカオの目が見開かれる。何とか動く首だけで左右を見渡すが、周囲に誰もいない。しかし、聞こえてきたのだ。そう、力を求めるアカオにその声が!


(力が、欲しいか?)


 更に声が聞こえる。謎の声が!


『そ、そんな、こいつ直接脳内に! いや、というかこの声は!』

(力が、欲しいか?)

『い、いやお前、海渡だよな?』

(あ、バレた?)


 海渡なのだった。

評価が欲しいか?そんなに欲しければ、くれてやる!

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― 新着の感想 ―
お前かーいw
[良い点] 無料セキュリティネットみたいに、海渡の脳内では愉快な仲間達の安否確認が常時作動してるんでしょうねぇ…その声を見抜いたアカオも意外と頭が良い(*´∀`)♪ 瞬間移動して自分で撃退した方が簡単…
[一言] くれてやる!(ぽちー)
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