第四十五話 歓迎会と来日
転校生に続いて新しい教師まで赴任してきた。背中まで伸びた金髪に宝石のような金瞳、胸も大きく抜群のプロポーションを誇る女教師の登場に主に男子生徒が色めき立った。
「でも女神サマヨって変わった名前よね」
「そもそも名字が女神って何でだ?」
「あ、はい。私は父親が日本人なんです。それで姓は女神、サマヨはイブリスタ島では普通にある名前なんデース」
女神サマヨがそう説明すると生徒たちも、なるほど、と納得した。
「じゃあ今喋ってるのは翻訳機能じゃないの?」
「はい、私、日本語全然いけマース」
「そのわりに若干片言交じりなような……」
「え、え~と現文担当なんだよね?」
女神の言葉遣いが杉崎と花咲は気になったようだ。確かに現文は日本語の授業と言っても良い。だがこの学校なら片言でも普通に問題ないとされそうである。
「でも女神サマヨってちょっと神々しいよね」
「うん、確かに女神みたいに綺麗だもんね」
「実は本当に女神様だったりして」
「「「「「「「まっさか~~~~」」」」」」」」
そしてクラスから笑いが起きた。
『フフッ、どうやら皆私が本物の女神とは思ってないようですよ勇者様!』
すると海渡の脳内に直接女神サマヨが話しかけてきた。やれやれ、と海渡は嘆息し念話で答える。
『前に言っていた手ってこれだったんだ』
『はい! 虎島くんのことがいいきっかけとなりました。異世界で彼女たち3人が景さんと離れるのを嫌がってましたからね。なら、と留学生として日本に一緒に行くのを勧めたんです。そうすれば私も自然な形でイブリスタ島から来たことにして勇者様の側にこられますからね!』
それがそこまでいい手なのかはわからないが、来てしまったものは仕方ないなぁ、と海渡はあっさり受け入れた。
『でもよく神界が許したね』
『勿論簡単ではなかったんですよ? 制約だってありますし、書類も一杯記入して本当にもう! どうしてあんなに神界の役人は融通がきかないのかしら!』
女神が愚痴を言う。どうやら神界の手続きの面倒臭さは日本に近いものがあるようだ。
『とりあえず女神ってばれないように気をつけてね』
『大丈夫ですよ。ちゃんと異国から来た風を装うように片言にしてますしそんなドジしません!』
どうやら片言なのは、異国から来た者は片言でなければいけないと思いこんでいるからなようだった。だがそんなコテコテの外国人は本来は多くはない。
「先生、年はいくつなんですか?」
「ハイ、私はまだ女神としては若いのでほんの20万歳デーーッス」
「え? 20万歳?」
「あ――」
生徒に問われ、しまったと女神が口を押さえた。女神様、いきなりのピンチである。
「そ、それも設定だよ設定! 女神様はほら、女神って設定だから! 実際は20歳だよ20歳!」
しかし慌てて虎島がフォローした。虎島は見た目は厳ついが中々気が利くのである。
「そ、そうデース! 私、20歳なのデース」
「なんだそっか」
「20歳なら納得だねー」
「やっぱ肌の張りからして矢田先生とは違うよな」
「矢田先生も美人だけどもう25歳だしな」
「比べるとやっぱり違うよなぁ女神先生、超美人だし」
――バキバキバキィイイイィイ!
生徒と女神の会話を腕を組んで見ていた矢田だったが、徐に教壇に近づき手刀を振り下ろしてバキバキに破壊してしまった。
「いやぁ、少しは衰えてるかもと思ったけど、十代から体力は全く変わってないようだな。どう思うお前ら?」
そして威嚇するような笑みを浮かべて女神の周りに集まっていた生徒たちに問いかけた。その姿に生徒たちが一様に震え上がる。
「い、いやぁ矢田先生って若いよなぁ」
「ほ、本当十代の女子と比べても、そ、遜色ないよなぁ」
「若々しくて美人で、す、素敵だと思う!」
途端に生徒達が矢田を称賛した。矢田はどことなく満足げではあったが。
「それとお前ら、私はまだ誕生日が来てないから24だ、そこんとこ忘れるなよ?」
「「「「「「は、はい……」」」」」」
引きつった笑顔で生徒たちが答えた。ちなみに矢田の誕生日はひと月後である。そこまで近ければ変わんないだろうと思えそうだが、女性にとっては大事なことなのである。
「あれ殆ど脅しだろ……」
「そもそも若さの証明が強さって……」
矢田と破壊された教壇を交互に見ながら杉崎と鈴木が呟いた。確かに力の強さと肌のハリはあまり関係なさそうだ。
「な、何か先生ならあの時、別に助けがなくてもなんとかなったのかも……」
苦笑しながら花咲が気持ちを吐露した。あの時とはサバイバルロストのことだろう。聞いていた海渡も確かに、とちょっと思ってしまった程だ。
「さぁお前ら、そろそろ始めるぞ。さっさと準備を始めろ。余計な机は下げて、この辺りに机をひっつけろ~」
女神先生の紹介も終わったところで矢田が生徒達に命じ始めた。よくはわからないがとりあえず生徒達が言われたとおりに動く。
こうして準備が整った頃だ。
「や、矢田先生! 男、鬼瓦! 頼まれたものを全て買ってきたであります!」
「ご苦労! 机の上に並べとけ」
「はい!」
矢田に言われるがまま、生徒たちによって配置された机の上に、鬼瓦がフライドチキンやらピザやら寿司やら様々な料理を並べ始めた。
「おお、すげー先生これは?」
「歓迎会するって言っただろう? だったら食い物がないと始まらないからな」
「おお先生太っ腹ぁ! これ先生の奢りなのか?」
「勿論、寄付金からだ!」
矢田が堂々と言い放った。ここでも寄付金頼みである。
「寄付金ってこういう使い方でいいのか?」
「留学生の関係で貰った寄付金なんだから寧ろその歓迎会に使って何が悪い! おかげで飯代ういて助かる!」
「それが本音か……」
「また今月ピンチだったのか先生……」
矢田の思惑も色々とあったようだが、とにかくこうして今日一日は留学してきた生徒と新しく入った先生のための歓迎会をして過ごすこととなった。
「景、確かこれ好きだったよな」
「あ、ありがとう虎ちゃ」
「はい、ご苦労さん。はいキララこれ好きだったよね!」
「あ、いや、それ今俺が――」
「何か文句ある!」
「グッ!」
歓迎会が始まり、虎島は料理を盛ったり飲み物を持って景に近づこうとするがその度にあの3人に阻まれていた。かなりガードが高く、結局虎島は肩を落としてスライムを構い始める。
「はぁ、やっと再会できたってのに……」
「キュ~」
「お前だけだよ。俺に優しいのは……」
そんなことを言いながらスライムの頭を撫でていた虎島だがそこに女子たちが近づいてきて。
「虎島くん私達も触っていい?」
「あ、あぁいいぞ」
「やった可愛い~」
「何か名前ってあるの?」
「あ、あぁミラクって言うんだ」
「ミラクちゃんね可愛い~」
「キュッ、キュ~♪」
スライムのミラクは女子に大人気であり、自然と虎島の周囲に女子が集まり、会話も弾むようになった。以前は強面の顔と相まって女子も中々近づいてこなかったがスライム効果によって虎島の印象も大分変わったようである。
「虎島くんって怖い人と思ったらそうでもないんだねぇ」
「ねぇ私も虎ちゃんって呼んでもいい?」
「あ、あぁ別に――」
「へぇ~――」
虎島の背中がビクッと跳ねる。振り返ると笑顔の景が立っていた。しかしその笑顔がどことなく怖い。
「虎島も色々大変だなぁ」
そんな様子を見ながら海渡が随分とのんきなことを言った。
そして改めてクラスを見回す。
「どうぞデース、鬼瓦先生」
「いや、これはどうも。はは、いやなんともお美しい先生がこられて」
「随分と鼻の下伸ばしてるなぁ鬼瓦」
「え? いや違う! これはその!」
「キャラットちゃん! BINEのアドレス交換しようぜ!」
「ごめんなさい、私男はヘドが出るぐらい苦手なんです」
「へ、へど?」
「ほら矢島! キャラットちゃんがこう言ってるんだから半径3km以内に近づくな!」
「それ学校にいられない奴じゃん!」
「マックスさんかっこいい……」
「お姉さまと呼んでもいいですか?」
「いや、参ったな――」
そんなことを話しながら和気藹々とする皆の姿にどこかホッとする海渡でもある。女神は色々心配していたようだが、ここ暫くは特にこれと言った事件も起きていないし、このまま何もなければ面倒がなくていいんだけどなぁ、と考える海渡であった――
◇◆◇
「博士よくおいでくださいました」
「ふん。日本なんて小さな島国に私がわざわざくることになるとはな。だが丁度いい。実験体の実力も試せるし、それにキングレッドのこともあるからな。で、居場所はわかったのか?」
「はい。何でも――」
この日、1人の男がとある国から日本に足を踏み入れた。果たしてその目的は――




