第四十四話 転校生と……
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「だからこの場合の殺すというのは、Dランク冒険者のイチャモンみたいなものなんだよ」
「だったら何で殺すなんて言うんだ? 冒険者でも殺すと言った奴はすぐに殺しにくるぞ?」
「それは、こっちの殺すはちょっと意味が軽くてわりと誰でも使ってると言うか……」
「なら武器を持って殺す! と言われても危険じゃないってことなのですね」
「いや、それは多分危険なんだけど……」
「もう面倒だから、そういう奴らは纏めて消し炭にしちゃえばいいじゃない」
「それは絶対駄目! とにかく慣れるまでは下手なことしちゃ駄目! 絶対!」
景が3人への説明に四苦八苦していた。すぐ近くでは虎島が頭を抱えている。
「とにかく、こっちじゃそもそも武器の使用は禁止なんだよ。暴力だって振るえば問題になるんだから気をつけろってことだ」
虎島がやれやれと頭をかきむしりながら説明した。するとキッと赤髪のツインテール少女が睨みをきかせ。
「ハァアアアァアア? 何であんたにそんなこと命令されなきゃいけないのよ!」
そう声を荒らげて噛み付いた。虎島の肩がプルプルしている。
「だから命令じゃなくて常識だって言ってるんだよ!」
「馬鹿な! 武器も暴力も駄目でどうやって皆を守れというのだ!」
「何か凄い文化の違いを見た気がする」
生徒の1人がぼそりと呟いた、
「はいはいそこまでそこまで。とりあえず自己紹介始めるぞ」
「ま、待てよ! おま、こんな真似するやつ本気でクラスに入れる気かよ!」
何事もなかったように話を進めようとする矢田だが、それに鮫牙が噛み付く。
「何だ漏らしてジャージに着替えた鮫牙。不満なのか?」
「も、漏らしたのは今はどうでもいいだろう! 俺は殺されかけたんだぞ!」
「でも生きてるだろう?」
「いやいや教室だってメチャクチャじゃねーか!」
「後で直せばいいことだ」
「直すって、大体こんな危険な連中放っておいていいのかよ!」
「文化の違いってやつだ。先に殺すといったお前が悪い。良くないぞそういうのは」
しつこく危険を訴える鮫牙だが矢田は子どもをあやすようにして言い聞かせようとした。だがそれでは当然鮫牙も納得せず。
「何でお前そんなにこんな連中の肩をグベッ!」
鮫牙が全て口にする前に矢田が見事なハイキックをかました。吹っ飛び転がった鮫牙を見下ろした後、襟首を掴み矢田が言う。
「おい、誰がお前だ。教師に向かってその口の利き方は何だ? 調子に乗ってるのか? 殺すぞ」
「今まさにあんたが普通にそれ使ってんだろうが!」
矢田は中々に迫力がある。そしてそれを見ていた景が、あんな風につかったりするのよ、と説明していた。教師がそれでいいのか? という気もしないでもないが。
「それにしても生徒が壊した教室を学校が直すなんて太っ腹だな」
「馬鹿いえ。学校がそこまで面倒見られるか。ただこいつらから大量の寄付金があったからな。それで直すだろうさ」
「ちょっと待て! まさか寄付金があるから待遇いいのかよ!」
「よし、わかったら鮫牙も席につけ」
「いや、答えろよ!」
「よしわかった答えてやる。そうだ金だ。はい、話は終わり」
いっそ清々しいぐらい矢田がはっきり答えた。鮫牙は不服そうだったが矢田に睨まれすごすごと席に戻った。
「よし、じゃあとっとと自己紹介いくぞ。先ずは簡単に説明するがこの3人はイブリスタ島からの留学生って形でやってきた。いいか? 遠い異国からわざわざやってきてるんだ。日本人が誤解されるような恥ずかしい真似はするなよ」
「先生を見てしまったらもう手遅れだと思いますわ!」
「よ~し金剛寺あとでちょっと生徒指導室へ来い。じゃあとっとと自己紹介始めさせるぞ。先ずはそっちの赤髪ツインテからだ」
矢田がそう促すと、キツイ目つきの少女が前に出て口を開く。
「私の名はフォワードよ。好きなものはキララ。嫌いなものはキララに近づく男! 特技は魔法剣よ。キララに近づく男は容赦なく消し炭にするから覚悟しなさい!」
「へ? ま、魔法剣?」
「あぁ、イブリスタ島は何かコスプレが文化になっていて島の人全員が一年中コスプレして過ごしているらしいからな」
フォワードの自己紹介に何人かの生徒が小首をかしげるが、虎島がそう説明すると、つまりそういう設定なんだなと納得した。
「よし元気があって宜しい! ただし日本では燃やすのは色々と面倒だからやめろ。次はそっちの童顔巨乳いけ!」
今度は左分けにした白い髪の少女が前に出て話し始める。
「うふふ、キャラットといいます。皆様どうぞ宜しくお願い致します。好きなものはキララちゃん、嫌いなものは男全般です。特技は回復魔法です。女の子のお友達は大歓迎ですので、どうか気軽に話しかけてくださいね」
「さっきから男が嫌いというワードばかりだな……」
「あ、あとは皆キララちゃんが好きっていうのが……」
杉崎と花咲が苦笑しつつ言う。
「私はマックスだ! 守るべき主君はキララ殿! 嫌いな者はキララに近づく男と悪だ! そして鎧は絶対に脱がぬ!」
件の騎士もみんなに向けて名乗るが、言い方が少し違うだけでキララが好きなのは変わらないようである。そして最後に話題の景が言葉を発した。
「え~と星彩 景です。虎ちゃんの幼馴染で、色々あってこっちに戻ってきました。留学生の皆は向こうで私に良くしてくれた親友で、文化の違いで色々と考え方が異なることもあるかもしれないけど、みんな、本当にいい子なので宜しくお願いします!」
最後に景が深々と頭を下げて締めくくった。ちなみに虎島自身は皆も知っているので特に紹介はない。
「というわけだ。今日はこの4人と後、虎島が持ってきたロボットの歓迎会を開いて終わりだ」
「先生、授業はどうするんですか?」
「んなの1日ぐらい休んだって問題ない!」
「あの人、本当に教師なのか?」
どうやら歓迎会と称して完全に授業をなくすつもりなようだ。教師としては如何なものかと思わなくもないが喜んでる生徒も多いので自然と矢田の株は上がった。
「でも、みんな日本語上手いよねぇ」
「うふふ、私達は日本語、なんていうものは喋ってないですよ~」
そんな中一人の生徒が感心するように口にする。しかしキャラットがそれを否定したことで生徒たちが疑問符が浮かんだような顔を見せる。
「何でもあのスライムみたいなロボットに高性能な翻訳機能が内蔵されてるそうだ」
「へぇ~そりゃすごいな」
どうやら全員それで納得したようだ。冷静に考えれば翻訳機能があるとはいえ、話した言葉がそのまま日本語で伝わるのはおかしいのだがそんな細かいことは気にしないのがこの学校のいいところである。
「あ、あのぉ、先生、私はまだ外にいたほうがいいのでしょうか?」
その時、廊下側から別の誰かの声が聞こえてきた。それに矢田が、ん? と疑問の声を上げ。
「あぁそうだそうだ。実はお前らにもう1人紹介するのがいたんだった」
「え? まさか他にも転校生が?」
「いや、あの底高が懲戒免職喰らってから現文を私が掛け持つというクソ面倒なことやらされてたけど、やっと代わりの先生が見つかってな」
「先生面倒だとおもってたんだ」
「どうりで授業が投げやりだと思った……」
これには生徒も苦笑いである。とは言え、新しい担当がつけば矢田としても生徒としても万々歳であろう。
「じゃあ紹介するぞ入ってこい」
「はい――」
そして新しい教師が入ってきたわけだが、その姿に再び教室にざわめきがおきた。
「き、金髪ナイスバディ教師キターーー!」
そして矢島がまた立ち上がり絶叫した。そして他の男子も色めき立つ。
「おいおい、とんでもない美人だな」
「まぁ、見た目だけならね」
「え? 海渡知ってるの?」
杉崎が目を丸くさせて感想を述べると海渡がそれに答えるように口を開く。
その様子が気になったのか鈴木が詳細を聞いてきた。
「うん? あぁ、昔イブリスタ島に行った時に知り合ったんだ」
「そういえば海渡も行ったことがあるんだったな。でもそれならあの人も島からやってきたってことか――」
杉崎が納得する。すると矢田が新しく入った先生に挨拶するよう促したわけだが。
「はい。今日からこの学校にお世話になることになった女神 サマヨです。皆様どうぞ宜しくお願いします」
謎多き新任教師は一体何者なのか!




