第三十八話 皇帝の結末
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「……何だここは?」
ソレが気がついた時、奇妙な場所に1人ポツーンと座らされていた。ソレはいったい何があったのか理解に苦しんだ。
直前の記憶を探る。ありえないことだが呪いの世界に少年が1人やってきてあろうことか世界を浄化してしまった。それに自分も巻き込まれ意識を失った――はずだった。
(体?)
ソレは小首をかしげた。同時にそれも不可解だった。何故首がある? 何故手がある?
そう、何故体が――これではまるでソレの手で生贄となった脆弱な人のようではないか。
そして改めて周囲を見て気がついた。ここはどこかの学校の教室のようだった。だが席は一つしかなく周囲には誰もいない。
ふと何かが鳴り響く。ポケットの辺りが震えていた。触れてみると何かの機械のようだった。
取り出して気がついた。これはスマフォだ。だが、何故、自分がこんなものを持っている?
嫌な予感がした。そんな感情が芽生えていること自体が信じられないことだが、とにかくスマフォを確認する。
発信者:皇帝
本文
これは皇帝の遊戯である。皇帝の権限は絶対である。命令に従わないものには強制的に刑を執行する。お前は右腕を切れ。
「……なんだこれは?」
何の冗談かと思った。そもそも皇帝でも王様でも構わないがその呪いを振りまいていたのは自分のはずだ。
本文
皇帝の命令に従わないものには刑を執行する。右腕切断の刑。
怪訝に思っていると間もなく刑の執行を仄めかす文が届いた。馬鹿らしいと思った。自分以外にいったい誰がこんなもの実行できるのか。
だがその直後、右腕に激痛が走る。痛みなんてものを感じるのは初めてのことだった。見ると右腕がポトリと落ちた。切断された腕の付け根から真っ赤な血がボタボタと零れ落ちた。
「ひっ、ひぎいぃいいぃいいい! 痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃイイイ!」
彼は教室を転げ回った。悲鳴を上げてのたうち回った。その姿はとても無様であったが直後またメールが届き。
発信者:皇帝
本文
これは皇帝の遊戯である。皇帝の権限は絶対である。命令に従わないものには強制的に刑を執行する。お前は左腕を切れ。
「ヒッ――」
思わず情けない声が漏れた。何がなんだかわからないがこのままではまた刑が執行されてしまう。
彼は左腕を自ら引っこ抜いた。当然だが激痛にもがき苦しむ。だが命令さえ守ればこのわけのわからないゲームも終わるはず、そう思っていた。
発信者:皇帝
本文
これは皇帝の遊戯である。皇帝の権限は絶対である。命令に従わないものには強制的に刑を執行する。お前は左足を切れ。
「そ、んな――」
だがゲームは終わらなかった。しかも教室には自分一人しかいない。必然的に全ての命令は自分だけに宛てられたものだ。
それから彼は左足、右足と順番に四肢を失い全身を切り刻まれ最後には頭を砕かれた。彼はそこでなんとなく自分はここで死ぬのかと理解したつもりだった。
だが気がついた時、彼は、いや彼女はまた教室にいた。今度は少女の姿だった。意味がわからなかった。再びスマフォが鳴り響く。
発信者:皇帝
本文
これは皇帝の遊戯である。皇帝の権限は絶対である――
もう嫌だとスマフォを放り投げた。だがゲームは終わらなかった。それから何度も何度も様々な命令が実行され死ねば教室に戻された。泣こうが喚こうがそのゲームが終わることはなかった――
◇◆◇
「……うん、お祓いは成功したよ」
閉じていた目を開き海渡は呪いが終息したことを告げた。クラスのみんなが顔を見合わせた後どっと歓声が鳴り響く。
「でも、本当に呪いは解けたのか?」
「あ、見て! 空が見えるよ!」
「そういえば妙な呻き声も壁ドンの音も聞こえないな」
「て、ことは本当に解決したんだな!」
クラスに明るさが戻っていく。蹲っていた底高もホッと胸をなでおろした。
「全く大したもんだな海渡。これからそれで食っていけるんじゃないか?」
杉崎が海渡の肩を叩きながら笑顔で告げる。確かに海渡なら幽霊だろうが妖怪だろうが悪魔だろうが敵ではない。だが仕事としてやるのは面倒だった。
海渡はあまり厄介事に首を突っ込みたくないというのが本音だった。だが知り合いが危険だとわかれば放ってはおけない質でもある。
「あの海渡くん。呪いって結局誰の呪いだったの?」
そんな中、佐藤が海渡に尋ねた。呪いというのはわかったが発生した原因は彼らには不明であった。
だが、海渡としても返答に困る質問だ。あれは何が原因とかそういう類の話ではないからだ。
少し迷ったが。
「たちのわるいこっくりさんみたいなもんだよ」
「うぇ、やっぱりこっくりさんって怖いんだね」
海渡が答えると鈴木が顔を顰めた。クラスからも、もうこっくりさんやめよう、なんて声も聞こえてくる。これはこれでいいことなので海渡は流れに任せた。
「でも、また呪いが復活したりすることはないのか?」
「大丈夫。今頃自分の呪いで苦しみ続けているはずだし二度ともう出てこれないから」
海渡は因果応報を相手に付与する魔法を行使していた。この効果によって呪いを発していた本体が延々と続く呪いを受け続ける。
勿論それを全て説明はしていないが。そして海渡の返事を聞いた杉崎は疑問符が浮かんだような表情を見せるが、それ以上は踏み込まなかった。とにかく呪いはもうない。それだけわかれば十分だった。
「海渡、君のおかげで助かった本当にありがとう!」
するとすっかり元気を取り戻した底高が海渡に改めてお礼を述べた。
「佐藤くんも悪かったね。あれはその、本当に気の迷いだったんだ。だからできれば穏便に」
「おい騒がしいぞ。いったいどうしたんだ?」
「底高先生が佐藤委員長を騙して裸にしようとしたんです」
「え、えぇえええぇええええぇええええ!?」
騒ぎを聞きつけ注意しにきた矢田だったが、そこであっさりと海渡が底高の罪を暴露した。
どうやら底高は全てを呪いのせいにして何とか助かろうと考えたようだがそうは問屋がおろさないのである。
「証拠のメッセージも残ってるぜ」
「というかクラスの皆が証人ね」
「よし! 底高ちょっと指導室へ来い!」
結局矢田に底高はつれていかれ、その後は自習となった。
「は! 何だどうなってる? あぁああ! なんだよ佐藤! まだ服きてるじゃねぇかさっさと脱げよ!」
皇帝の遊戯も終了し底高の罪も明らかにされ皆が喜び合ってる中、ずっと気絶していた鮫牙が目を覚ました。
「あ、そういえば鮫牙のこと忘れてたな」
「うん、すっかり失念していた」
杉崎と海渡がそう言うとクラスに笑いが湧き起こる。
「お前ら何がおかしいんだよ! そんな場合じゃないだろう! 皇帝の遊戯が!」
「それならもう終わったぞ鮫牙」
「――は? 終わった?」
クラスの男子に言われ、鮫牙が目を瞬かせた。何がなんだかといった顔をしている。
「とりあえず鮫牙、これからもパシリ継続な」
「な、なにぃいぃいいいいいい!」
「当然ね。あんた警察に突き出されないだけありがたく思いなさい!」
「何でだよ! くそ、何で俺はこんなに不幸なんだあああぁああぁあ!」
叫ぶ鮫牙だが自業自得なので誰も同情はしなかった。
こうして皇帝の遊戯は結局誰一人犠牲者を出すことなく終了。その後は底高の所業について校長先生の耳にもしっかり入り見事に懲戒免職となった。しかも校長が自ら会見を開き謝罪したことで底高は社会的制裁もしっかり受けることとなる。
一方で学校は素早い対応が評価され逆に評判が上がったという――
これにて皇帝の遊戯編の本編は終了!
これからいくつかの話を挟んで次の章へ。予定ではデットなあれです。
引き続きよろしくお願い致します!




