第三十三話 皇帝からのメッセージ
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「コーヒーと紅茶とワンタグレープとダブルピースソーダとカレーパン、ジャムパン、カツサンド、タルタルフィッシュ巻き、ロイヤルイチゴグレープロイヤルサラダチョコナッツパフェロイヤルあんパン買ってきたぞ!」
「ご苦労さん」
昼休みになり鮫牙が頼まれたものを買ってきてクラスメートに渡していった。あの事件以来すっかり鮫牙はパシリ担当である。海渡や杉崎たちも手を出してそれを受け取っていくと、鮫牙が目を剥いて切れだした。
「お前らいいかげんにしろよ! いったいいつまで俺をパシらせる気だ!」
「あんた警察に突き出されないだけ感謝しなさいよね」
「くっ!」
鈴木の手厳しい一言に鮫牙が呻き声を上げた。彼にもしっかり負い目があるため、中々強くは出れない。
「大体なんで金剛寺までパンなんだよ! 金持ってるなら高級弁当でも買ってこいよ!」
「私、そのようなものは食べ飽きてますの。それにこのロイヤルイチゴグレープロイヤルサラダチョコナッツパフェロイヤルあんパンは最高ですわ」
「どんだけロイヤルなのか」
海渡が思わずツッコんだ。これだけロイヤルがつくと流石の某王家もびっくりだろう。
鮫牙は悪態をついているが、今や海渡達も遠慮なく彼を頼っていた。佐藤だけはちょっと可哀想かもと思って遠慮していたが。
しかし鮫牙があまりに理不尽理不尽うるさいので一度クラス全員で鮫牙は気の毒か? を問うアンケートを取ってみたがぶっちぎりで気の毒ではないだったのでまだ続いている。
サバイバルロストでの彼の言動は、それほどまでに目に余るものだったのだから仕方ないと言えば仕方ないのだ。
「くそ! 覚えてろよ! 今度デスゲームがあったら絶対やってやるからな!」
「お前そういうこと言ってるから誰にも許してもらえないんだぞ」
杉崎の言う通り、そもそもで言えば鮫牙の言動にも問題があった。事あるごとにこんなことを口にしていればそりゃ顰蹙も買うというものだろう。
「大体そうそうデスゲームに巻き込まれるものでもないよね」
「海渡がそれ言うか? という気もしないでもないが、まぁ最近は平和だしな」
杉崎の言う通り、あのデスホテルの後は特に何事もなく日々は過ぎていっていた。敢えて言えば修学旅行は結局秋ごろになりそうだと発表されたぐらいだろう。
「お、虎島からメッセージが届いたぞ」
「あ、こっちにもきた」
「私にも来ました」
「私にもですわ」
「え~と、あ、何か幼馴染に無事会えたみたいだね」
「うんうん、何か写真もついてるよ~」
「俺には何も来てないぞ!」
「お前はそもそも虎島と親しくないだろう」
海渡も含めた面々のスマフォに虎島からBINEでメッセージが届いていた。佐藤が言うように写真付きでだ。だが勿論鮫牙には来ていない。チッ、と面白くなさそうに彼は席に戻っていった。
その後写真を確認する一行だが。
「この真ん中に写っているのが幼馴染の景ちゃんなんだね」
「うわ~すっごい美人さんだね」
「確かに。あいつも隅に置けないな。ところで何か彼女に抱きついている他の3人は誰なんだろう?」
「え~と島で出来た景ちゃんの友だちだって」
「……まぁ友だちなのはいいとしてなんで皆してゲームみたいなコスプレしてるんだ?」
メッセージで真ん中にいるのが景だというのはわかった。皆の言う通り黒髪ロングの美少女である。どうやら神様の配慮で転生後も成長した後の見た目は転生前とそれほど変わらないようにしてもらったらしい。
だからこそ虎島もすぐに気づいたのだと思う。恐らく目の色だけは違うが、それはスマフォ側で違和感ないように処理されるので問題ない。
ただ格好までは海渡も気にしていなかった。そして当然だが全員着ているものは騎士のような鎧だったり魔法使いや僧侶のようなローブだったりビキニアーマーだったりだ。
「……イブリスタ島のナロッパでは凄くコスプレ好きが多いんだ。もう文化として根付いている程にね」
「え! そうなの!?」
仕方ないので海渡はそれっぽいことを言ってごまかすことにした。佐藤が随分と驚いている。
「うん。島の人は一年中、何かしらのコスプレをして過ごしている程なんだ」
「そうなんだね~でもちょっと面白そう」
写真を見ながら鈴木が興味を持った。杉崎もへぇ、と相槌を打ちながら写真を眺めている。
「そんな島があるんだな。てか、海渡随分と詳しいな」
「ちょっと遊びにいったことがあるからね」
「へぇ~なら私も行ってみたいかも」
「お~ほっほ! でしたら私が今度チャーター便で皆さんをお連れしますわ!」
ここぞとばかりに金剛寺が財力をアピールした。とはいえ親切心もありそうなので無下にも出来ない。海渡は一瞬迷ったが、ま、なんとかなるか、と深く考えるのを止めた。
「しかし、なんで虎島の奴一緒に写ってないんだ?」
「これ撮ってるのが虎島くんだからじゃない?」
「そうなのか照れてるのかね?」
「あ、待って、また写真来たよ!」
「お、どれどれ」
全員が届いたスマフォの写真に目を向けるが。
「おお、虎島だが……なんだこのおっさん?」
「え~と今いる村の村長さんだって」
「なんで村長? てか、この頭の上に乗ってるの何!?」
「やだ可愛い、え? もしかしてスライム?」
そう虎島から再び届いた写真には何故かおっさんと頭の上にスライムが乗っていた。写っている虎島も凄く微妙な顔をしている。
「きっとこれぬいぐるみだよ」
「あぁそっか~でも可愛いよねぇ」
届いたのが写真だけなためか、全員ぬいぐるみってことで納得したようだ。海渡はあえて口を出さない。ただ、当然ぬいぐるみではない。
「ちょっと通話してみるか。BINEがつながるなら行けるはずだし」
杉崎が虎島に通話を試した。当然だが異世界対応スマフォは通話も行ける。しかもビデオチャット対応である。
「お、つながった。虎島~元気かぁ」
『あ、あぁ俺はこっちで上手くやってるよ』
「そうか。景ちゃんと再会できてよかったな。でもそれなら写真も一緒にとればよかったのに」
『くっ、俺だってそうしたかったのに、あいつらが……』
「ん? あいつら?」
『あ、いやちょっと照れくさくてな』
「はは、照れくさいからって村長と写っちゃったの?」
『あ、あぁそうなんだ「キュ~♪」わ、待て待てお前は駄目だろ!』
「え?」
虎島とスマフォを通して皆が喋っていると画面の中に例のスライムが現れ虎島の頭に乗った。そのまま楽しそうにポンポンっと跳ねている。動画であるため流石にこれはぬいぐるみということにするのは厳しそうである。
「え、えぇえええぇえ! なにそれなにそれなにそれッ! もしかして生きてるの!?」
『あ、いや、これは、その』
案の定スライムに食いついた鈴木が画面に顔を近づけて虎島に問いただす。興味津々といった顔だ。
そして虎島はかなりキョドっている。
「それ、確かイブリスタ島で開発中のロボットだよね。AI搭載の」
『あ、あぁそうそう。これはあれだ。スライムサというロボットでな。人工知能搭載で賢いんだよあはは』
『キュッキュッ~♪』
流石にこのままじゃ厳しいかと海渡が助け舟を出すと上手いこと虎島がのってくれた。スライムが可愛らしく鳴いて跳ね回っている。
「お~ほっほ! そのスライムサぜひともお譲りしてほしいですわ!」
すると金剛寺が相変わらずの高笑いを決めながら、虎島の頭の上のスライムを欲しがった。これに虎島が困った顔を見せる。当たり前であるが。
『わ、悪いこれはまだあれだ、テスト段階で非売品なんだ。この島でしか動けなかったり色々制限があってな』
「島でしか動けない? そんなことあるのか?」
杉崎の質問に、え? と戸惑う虎島である。やれやれとここでまた海渡が口を開き。
「電圧が違うんだよ。よくあるよね?」
「あ~確かに海外だと日本の電化機器そのままじゃ使えないもんねぇ」
どうやら納得してくれたようである。虎島もホッと一息な様子だ。
『ちょっとタイガー何してるの! 迷宮攻略行くよ!』
『荷物持ちでもいいって言うから連れていくんだからね。さっさと来なさいよ』
「へ? 迷宮攻略? タイガー?」
『そ、そういうアトラクションがあるんだ! 荷物持ちっていうのはアトラクションでの役目で何か迷宮っぽいとこを攻略するアトラクションなんだ! あと虎島だから愛称がタイガー』
「へ~面白そうだねぇ」
『と、とにかく一旦切る。あいつら待たせてるから、そ、それじゃあな!』
佐藤が迷宮攻略のアトラクションに興味を持ったようだが、しかし虎島からすれば命がけであろう。とにかく、慌てた様子で虎島との通信が切れるのだった。
「ま、なにはともあれ楽しそうで良かったな」
「でもいつごろ帰ってこれるんだろうね?」
「まぁ予定では後2ヶ月あるしね」
海渡が答えた。とは言え、今の様子だと大変そうだなとも思う。
「あの、ふと思ったんですが、向こうの子の声が、に、日本語だったような……」
「あれ? そういえば?」
「翻訳機能だよ。スライムサに内蔵されているんだ」
「すげーなスライムサ!」
海渡もわりと適当にその場のノリで話しているのだが、皆は特に疑うことなく信じてくれた。
「おっとチャイムだ。そろそろ午後の授業始まるな」
「あ、本当だもうそんな時間だね」
そして虎島との通話が終わったのとほぼ同時に次の授業を知らせるチャイムが鳴り響いた。
生徒たちが席に着き始めるが――その時だった。一斉にスマフォが鳴り響き、全員のBINEにメッセージが届く。
皇帝
『これは皇帝の遊戯である』
皇帝
『諸君らは皇帝の支配下におかれた。お前たちは余を愉しませる義務がある』
皇帝
『皇帝の権限は絶対である。命令に従わないものには強制的に刑を執行する』
「は、何だこれ? 皇帝だってよ」
「うん誰だよ皇帝って。俺登録してないぞ?」
「私も、てか追加もされてないよ。何でこんなメッセージが?」
皇帝から届いた謎のメッセージにクラス中が反応しざわめき出した。BINEは通常登録した相手としかメッセージのやり取りが出来ない。勿論設定次第で交友範囲を広げることは可能だが、だとしてもクラスの誰も知らない相手というのは不自然であり。
「な、そんな、皇帝の遊戯だって!」
だがそんな中、杉崎だけが如実に反応を示した。何故なら彼は丁度この間、この皇帝の遊戯の情報を見たばかりだからである。
そして――
「おい、また何かメッセージが届いたぞ」
「皇帝からの命令だ!」
そう、早くも皇帝からの命令が届いた。そしてその内容は――
皇帝
『これは皇帝の遊戯である』
皇帝
『諸君らは皇帝の支配下におかれた。お前たちは皇帝を愉しませる義務がある』
皇帝
『皇帝の命令は絶対である。余を愉しませるために命令を聞け。委員長の佐藤は今から15分以内に全裸になれ』
「え? 私!?」
「「「「「「い、委員長ーーーーーー!」」」」」」
皇帝からの命令がそしてついに委員長がターゲットに!




