第二十八話 妹の友だち
「ただいま~」
「あ、お兄ちゃん。もう昨日はあの後、ママと話を合わせるの大変だったんだよ? だから言ったじゃんライオンは無理だって」
「そこは反省している」
海渡がキングレッドの件も片付き家に帰るとバッタリ妹と遭遇した。
眉を寄せ、困った兄だなといった顔だ。昨日海渡は先に妹の菜乃華にキングレッドを紹介していた。その時もかなり驚いていたが母親に比べればわりとすぐ順応していた。
ただ、家で飼うのは流石に無理だとも言っていた。海渡としては妹がこれなら大丈夫だろうと思ったのだが案の定無理だった。
もっとも気絶した時点で説得を諦めてベッドまで運んで眠らせ、夢だということにしたのだが。
当然菜乃華には話をあわせてもらったわけだ。
「菜乃華ちゃんのお兄ちゃん?」
「あ、うん。そうだよ」
菜乃華と話していると奥から同年代ぐらいの少女がひょっこり顔を見せてやってきた。どうやら友だちが来ていたらしい。髪をツインテールにした中々可愛らしい少女であった。
「へ、へぇ、ちょっと格好いいかも……」
「そ、そんなことないって! お兄ちゃんかなりだらしないし年齢イコール彼女いない歴だし!」
菜乃華と初対面のその子がヒソヒソと話していた。何やら凄く失礼なことを言われている気がした。勿論聞こうと思えばいくらでも聞けるが、基本海渡は盗み聞きなど好まないため、こういう時は聞こえないようにしている。
「あ、あの! 初めまして! 私はその、最近菜乃華ちゃんに良くしてもらっていて」
「ちょ、真弓ちゃんテンパりすぎ。本当、なんてことはないお兄ちゃんだし」
「うん、僕悪いお兄ちゃんじゃないよ~」
「プッ、クスクス――」
受けた、と海渡は思った。
「ふふ、面白い人なんですね海渡さんって」
「それはどうもありがとう。菜乃華と仲良くしてくれてるんだね」
「はい、転校してまだ間もないのですが」
「転校してきたんだ」
「うん。田中 真弓ちゃんと言ってね。え~と……」
そこで言葉を濁し紹介した真弓をちらりと見やるが。
「あ、気にしなくて大丈夫だよ。え~と実は親が離婚して、元のパパがだらしない人だったんで私はママと一緒になってこの町に来たんです」
「そうなんだ。大変だったね」
「あはは、まぁでも今は珍しくないってママも言っていたし、それに本当に駄目なパパでお金遣いも荒いし散々浮気してお金を貢いだりしてたんだ。でも結局ホテルの経営に失敗して借金も作って、それでママが愛想つかしたんです」
「……へぇ」
どっかで聞いたような気もする、と海渡は思った。
「その上、この間ついに警察の厄介にもなったみたいで本当最悪!」
「あはは、真弓ちゃんぶっちゃけすぎ」
「……う~ん」
何から何まで最近どっかで聞いた気がしてくる海渡である。勿論思い出そうと思えば思い出せるが、まぁいいか、とどうでもいいことは気にしない海渡でもあり。
「それじゃあゆっくりしていってね」
そう言ってから海渡は部屋に戻った。それから暫くして虎島からBINEでメッセージが届く。
『ちょっと話したいことがあって、家の近くまで来てるんだけどいいか?』
『わかった出るよ』
妹とその友だちも来ているので海渡は家を出て虎島と合流した。
「……急に呼び出して悪かったな」
「いいよ。それで何かあった?」
近くの誰もいない公園で話す。虎島はどことなく真剣な顔であり。
「……変なこと聞くようなんだけどさ。サバイバルロストで俺たちを助けたのって……お前か?」
そう聞いてきた。記憶は女神によって改変されているのだが、虎島はどこか確信しているような感じだった。
「どうしてそう思ったの?」
「デスホテルでな。お前の力はやっぱ普通じゃないなって。いや気を悪くしないでくれ。別に非難とかじゃなくて」
「うん、わかってる。そして虎島の思っている通りだよ。サバイバルロストでは大体俺がやっつけた」
海渡はあっさりと白状した。虎島には隠すことでもないなと思ったからだ。
「やっぱり……でもその記憶が曖昧なんだが」
「あぁ、そうだな。もうはっきり言うけど俺、実は異世界に召喚されていたことがあって。その時に魔法とか技とか色々会得したんだ。体も鍛えて、だからこっちの常識だと凄い力に見えるんだと思う。だから知られたらまずいって思われたようでね記憶が改変されているんだ」
「……は? え、ま、マジ、なのか?」
「マジ。信じられないと思うけど」
驚きの目を向けてくる虎島。海渡もこの時ばかりは真剣に話した。
「異世界、まるで漫画とかアニメみたいだな。だけど、納得できた」
「信じてくれるんだね」
「海渡がそんなことで嘘を言うとは思えない。付き合い長いわけじゃないけど、それはなんとなく自信あるんだ」
フッと虎島が微笑み。
「でも、そうなると記憶も海渡が?」
「いや、それは俺を召喚した女神様が気を使ってやってくれたんだ」
「え? 女神、がいるのか?」
「うん」
『ちょ! 何喋ってるのですが勇者様!』
その時、女神の声が念話で届いた。やっぱり見ていたか、と海渡は肩を竦め。
「え! この声は?」
「あぁ、これが女神様」
『えぇええええええぇえ!?』
これには女神が一番驚いているようだった。
『ちょ! どうして聞こえてるんですか!』
「俺が繋げた。翻訳もした」
『何で!?』
女神の驚きの声が続く。ちなみに女神は神語で話していて海渡はそれも翻訳されて虎島に届くようにしてある。
「たまげたなぁ。本当に女神様っているんだな」
「あぁいるよ」
『いるよじゃありませんってば! もう! もう!』
女神はちょっと怒っているようだが声が可愛いので迫力はない。
「でも、俺なんかが聞いていいのか?」
「寧ろ聞いてもらう必要があったんだ。実は俺も虎島に話があってね。どちらにせよ秘密は話そうと思ってたんだ」
「え? 俺に話が?」
「うん。虎島、サバイバルロストで犠牲になったクラスメートのこと気にしていただろう?」
「あ、あぁ……」
虎縞が目を伏せた。どこか淋しげであり女神の声も流石にやんだ。
「それで、気休めになるかわからないけど、クラスメートの魂について自分なりに探ってみたんだ」
「え? た、魂ってそんなことが出来るのか?」
「うん。それで、クラスメートの多くの魂は神様によって転生させられていた。不幸な出来事ということでそれも加味されて大体の生徒は良い転生先に巡り会えている」
ここで大体と言ったのは、中には良い境遇になれなかったのも存在したからだ。もっともそういった連中はサバイバルロストで積極的にゲームに参加し殺人行為に走ったような連中なのだが。
「……そうか俺のために。海渡悪かったな。でも、転生か。皆幸せになれたなら、それで……」
「いいわけないだろう? 虎島、話はこれで全てじゃない。幼馴染の星彩 景さんについてまだ大事な話が残っているんだ」
「え? け、景がどうかしたのか!」
虎島の顔色が変わり海渡の両肩を掴んできた。だけどすぐに取り乱していることに気がついたのか、悪いといって手を放す。
「いいよ。それでその景さんについてなんだけど」
「あ、あぁ」
虎島が生唾を飲み込む。海渡の言葉を真剣な顔で待っていた。
「実は彼女の身の上を知って随分と肩入れした神様がいたみたいで、あまりに可哀想ってことで記憶もそのまま、特典付きで異世界に転生したみたいなんだ」
「……はい?」




